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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第188話 夏だ、合宿だ、走れ走れ! (6) (side : 野口絵実)

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「星空の砂浜って意外に明るいのね?もっと真っ暗かと思ってた。」

耳に響く波の音
優しく吹く海の風
昼間の喧騒は眠りにつき
雄大な自然の美しさが辺りを包む

”何でこいつはこんなに平気な顔をしてるのよ、いきなり手を繋ぐって、しかもこれって伝説のカップル繋ぎじゃない。こんなのって、私さっきから手汗が止まらないんですけど、嫌われたらどうするって、混乱で訳が分からない~!!”

「お、前から来るのは吉村じゃん。ずいぶん仲良くなったのね?
どうした、なんか真剣な顔して。」

「あ、部長か。悪い事は言わない、なんか有ったらすぐに引き返せ。今回は前回の比じゃないぞ、あれはヤバすぎる。」

「ん?よく分からないけど分かった。みんなが待ってるから気を付けて行ってくれ。旅館の女将さんがまた気を使って何か演出してくれてるのかな?」

どうしたんだろう、二人とも。
そう言えば私自分の事が一杯一杯で気が付かなかったけど、帰ってきた人たちの様子がおかしかった様な?

「はい、到着っと。はぁ~、やっぱりか。こう言う場所ならゴミをポイ捨てする輩も出るとは思ったけど案の定。まぁ、用意はして来たんだけどね。」

見ると小さな祠の周りには散乱したゴミがたくさん。

「絵実、悪いけど手伝ってくれる?これ軍手とゴミ袋。折角楽しい合宿を見守ってくれたんだ、最後に恩返ししておかないとね。」

”やるぞ~”と掛け声をかけゴミ拾いを始める佐々木。折角の夜デートがと思わなくもないけど、佐々木らしい。さっきまでの緊張が嘘のように晴れる、今の私たちにはこれ位の関係が丁度いいのかもしれない。

「よし、一先ずはこれ位でしょう。あとは地元の人たちに期待かな~。」
出たのはゴミ袋四杯分のゴミ。これを持って帰るのか~、雰囲気ぶち壊しだなこれは。
”あはははは”乾いた笑いしか出ない。

「祠の周りは大丈夫かな?なんだこれ、げっ、藁人形じゃん、罰当たりが!」
突然声を荒げる佐々木君、視線の先には祠に打ち付けられた大きな釘と藁人形。
ナニコレ、メチャクチャコワインデスケド!

「ふざけんじゃね~ぞ、こんなもん、フンッ」
いや佐々木君、釘で打ち付けてあるものを素手で引っ張っても抜ける訳が”ズボッ”・・・抜けちゃったね~。

”バチンッ“
「痛ッ、なんだよ、静電気かよ。おぉ~痛かった~。うゎ、藁人形燃えちゃった。」

突然火の手が上がったと思ったら一瞬で燃え尽きる藁人形。
”静電気ってスゲー”じゃないから、手品じゃないんだしあり得ないから!
怖過ぎでしょうが!

「まぁ、いいか。この釘って燃えないゴミでいいんだよな?
絵実~、お参りして帰るよ。”パンパン“
神様、合宿中はお守りいただきありがとうございました。帰り道の安全も何卒よろしくお願いします。」

「おや?若いのにずいぶん信心深いね~。」

「「!?」」
いきなり背後から人の声って何?

「あ、お姉さん地元の方ですか?なんか勝手に片付けとかしてすみません。合宿でお世話になったんで少しでも恩返しが出来たらと思って。ゴミの方はちゃんと持ち帰りますんで。」

「良いって良いって、本当は私らがやらないといけない事なんだから。その袋は置いて行ってくれたらこっちで片付けておくよ、どうもありがとう。」

「いえ、こちらこそ。お姉さんその格好ってこれから夜釣りか何かですか?」

「お、少年はこっちの趣味の人かい?名乗ってなかったね、私は人呼んでさすらいのアングラー海姫って者だよ。」

「さすらいのアングラー、かっけー。それってあれですか、大物を求めて全国をさすらったり時には世界で釣り勝負をしちゃったりするあれですか!!」

「おぉ、少年分かってるじゃないか、そのあれだ。どうだい凄いだろう。」

「はい、凄いと思います。尊敬します!」

「そうだろうそうだろう、褒めろ褒めろ。私は釣るだけじゃなくって、釣り場の保全や環境整備にも力を入れていてね、こうしたマナー違反は許せなくってね~。そういえばさっき五寸釘拾ってなかったかい?釘は自然に帰らないから困っちゃうんだ。それもこっちで捨てておくよ。」

「はい、よろしくお願いします。」

「でもここまでしてもらってただ返すってのもな~。そうだ、この近くに車が止めてあるからちょっとそのゴミを運ぶの手伝ってくれるかい?」

「えぇ、構いませんよ。絵実もイイよな?」
「う、うん。佐々木君がそう言うなら。」

「そっちのお嬢さんも悪いね、助かるよ。」
声の主がそう言うと、そこにはいかにも夜釣りに来ましたと言う格好の美しい女性が立っていた。
えっ、今までそこに誰もいなかったよね?佐々木君が誰と話しをしているのか、私全然分からなかったんですけど。

「どうもありがとう、これお礼と言っては何だけど、初心者用釣りセット。簡単な竿とリール、仕掛けが入ってる。あとこの浮きと針はサービスだ。お嬢さんにはこのキーホルダーを上げよう。」
それは大きな鱗の形をした綺麗なキーホルダーだった。

「さっき旅の無事を祈っていたみたいだし、お守り代わりと思って取っておいて頂戴。」

「何かかえって悪いですって。本当にいいんですか?」

「何大したことないから気にしないで。それよりいいのかい?いつまでもこんな所にいたらお友達が心配するよ?」

「やべ、また木村君に怒られる。絵実、早く戻ろう。」
「う、うん。キーホルダー、ありがとうございました。」

「気を付けて帰るんだよ。良かったらまたおいで。」
「ありがとうございました、失礼します。」




「ふふ、久々に面白い子供たちだったね~。あんたもそう思うだろ?」
”コン”
「それにしても呪具ね~、どこのどいつが悪戯してくれたんだか。これはお仕置きが必要だね~。」
女性は先ほど譲り受けたひび割れた五寸釘を見詰め、三日月のような笑いを浮かべるのだった。
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