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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第133話 がんばれ絵実ちゃん (2)(side:野口絵実)

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「あ~、しっかし朝から酷い目にあった。」

「何言ってんのよ、あんたが悪いんでしょうがアンタが!
ほら、早く行くわよ。神社が混雑しちゃうじゃない。」

「分かったから、そんなに怒るなよ~。ってか置いてかないでよ、絵実ちゃ~ん。」

「佐々木、いつも言ってるでしょ!”ちゃん”付けはやめなさい”ちゃん”付けは!」

あ~ん、もう。なんでこんな感じになっちゃうのよ~。
一生懸命かわいい・それでいて大人って言う絶妙なラインのコーディネートをして、しつこく無いナチュラルメークで決めて、会話テクだって夕べしっかり学習(雑誌情報)したって言うのに!頑張ったんだからね、私。
それがなによ、”ダンディーな渋めの色気・三十代からの大人の男風”って訳分かんない。
かっこいいよ、凄く素敵だったよ、でも違うでしょ~!
服装が服装だったから”大学生の落ち着きのあるお兄さん風”にメイクチェンジさせることで妥協したけど、こういう場合はちょっと大人びた女の子がリードするってのが基本でしょうが!(情報提供”ティーンBoys'お正月特別号”)
これも全部佐々木が悪い!

「やっぱりこの辺じゃ一番大きい神社だから、凄い混んでるね。
あ、危ないからこっち来ててね、一緒に屋台のお店覗こうよ。」

う~、なんなのよさっきから。自然と車道側に立って歩いたり、人とぶつかりそうになる前に体を寄せてくれたり、会話もリードしてくれたり。
これって「モテる女性のテクニック(著者・平田恵子)」に載ってた”これが出来れば免許皆伝、出来る女の最終奥義”じゃない。なんであんたがサラッと実践出来てんのよ。本には「”下心を無くす事が習得の道”、ぶっちゃけめちゃくちゃ難しい」って書いてあったのに。
ドキドキしっぱなしでまともに顔も見れないじゃない!

「ねえ佐々木、さっき熱心にお参りしてたけど、何お願いしてたのよ。」

「あぁ、去年はめちゃくちゃ濃い年だったからな。今年こそは平和にのんびり過ごしたいなと。」

「だ、大丈夫?なんかアンタどんどん目が死に始めてるんだけど。一体アンタに何があったって言うのよ!私でよかったら話聞いてあげるから、何でも話しなさいよね。」

「う、うん。絵実ちゃんは優しい子だね~。おじさん嬉しくて涙出そうだよ~。」

「だからアンタは幾つ何だっての、あと”ちゃん”はやめなさい”ちゃん”は。
だ~、頭撫でるな~!」

”え~、もっと撫でさせてよ~”とか言ってんじゃないわよ、こんな大勢の人の前で恥ずかしいじゃない!こういうことは室内で二人きりの時に、(ごにょごにょ)

「あ、ごめん、ちょっとトイレ。すぐ戻るから。」

「えっ、えぇ、気にしなくていいから、さっさと行ってきなさい。」

ふ~、ドキドキした。あの無自覚女誑しが、他でもこんな事してるんじゃないでしょうね。
主導権取ってリードしようと思ってたのに、全然ダメじゃないの。
本当、あいつとどこか出かけるときはインターバルが必要ね。

「あら、あんた野口さんじゃない。引き籠ってたって聞いたけど、一人でお詣り?
まあ、あなたは友達いなかったのよね、寂しいお正月で大変ね~。」

あ、確かゴードンの取り巻きの一人。ゴードン追いかけて同じ私立に行こうとしたんだけど、落ちちゃったんじゃなかったっけ?
映像研究会の佐久間東から来た子が教えてくれたのよね。
小学校の頃は何も出来なくてごめんなさいって謝られたっけ。
最初は複雑な気分だったけど、”ああやって自分から謝れるって実はすごい事だ”って佐々木が教えてくれたのよね。
今じゃ凄く仲のいい友達だし、勇気を出して謝ってくれたあの子には感謝かも。

「何よすました顔しちゃって。少しばかり顔が良くって”ゴードン様”から声を掛けられたからって調子に乗ってんじゃないわよ。前から気に喰わなかったけどあんた生意気なのよ、独り寂しく引き籠ってるのがお似合いなのよ!」

うゎ~、なんか正月早々テンション高いなこの人。
でも以前は凄く怖かったのよね、何でだろう?
こうやって改めて見ると、小型犬がキャンキャン吠えてるようにしか見えないんだけど?

”ザワッ”

えっ、なに?
こっちに向かって人混みが割れて道が出来たんですけど。

”カツンッ、カツンッ、カツンッ”

スラッとした姿
すっと伸びた背筋
ゆったりと揺れる前髪
柔和に浮かべた微笑み

ん?佐々木?

「ごめんね絵実、待たせちゃった?えっと、こちらはお友達かな?
はじめまして、佐々木と言います。
なんか僕の絵実がお世話になったみたいで、ありがとうね。」

「えっ、あ、はい。私、あの、野口さんとは同じ佐久間東小出身の…。」

すっと軽く上げられた右手に話はさえぎられる。

「僕たちはこれから用があるからお邪魔させていただきますね?
ほら、絵実もご挨拶して。
では、ここで。」

佐々木は私の手を握ると自分の方に引き寄せて笑顔を向けて来た。

「う、うん。ごめんね、連れが来たから。バイバイ。」

私たちは二人してその場を後にした。


「ちょっと佐々木、さっきのあれ何?急でびっくりしたんですけど。」

「あ、ごめんごめん。なんか絵実が絡まれてるみたいだったからさ。以前親友が同じように絡まれてた時俺何も出来なくてさ、凄い悔しい思いしたんだよね。
絵実が絡まれてるの見たらその事を思い出しちゃってついね。
ごめんね、嫌だった?」

「そんな事ないわよ、こっちも助かったし。急だったからびっくりしただけ。」

「そっか。そんな事より俺腹減っちゃった、帰りにタコ焼き買って帰らない?香織さんの分も買ってみんなで食べようぜ♪」

”はぁ~、カッコいいと思ったら急に子供みたいになって。忙しい奴。”

絵実は心の中がポカポカと温かくなるのを感じ、今がとても幸せだと思うのでした。(ナレーション石坂浩二)
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