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第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第114話 支配者の誤算

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「鬼龍院校長、田辺理事から御電話が入っております。」
「鬼龍院校長、西京芸能事務所の倉持様より御電話です。」
「鬼龍院校長、中央都テレビの植松様より先日行われた文化祭のファッションショーについて、取材申込みが…」

どうしてこう為ったのか…。
私はデスクに転がる一本の鍵を見つめ、額に手を当てた。
事の起こりは職員の一人が"ひろし君DVD"を無許可でコピーし、個人所有していた事が発覚した件に遡ります。
問題はこの件が学園内で収まらなかった事でした。
ひろし君の歌「君と二人で」の情報はレコードレーベルの耳に止まり、学園関係者を通じてCDデビューの話しも申し込まれました。この要請は、高木康太君の忠告もあり、当初完全に断りを入れていました。
しかし、理事会最大派閥を率いる田辺理事からの再三の要求は、次第に断り切れない状況に私を追い込みました。
「鬼龍院校長、考えても見て下さい。いくら規格外の生徒とは言え、我々はこの国に名を轟かす名門"私立桜泉学園"ですよ?これまでも規格外の生徒は在籍していたじゃないですか。現在彼等は財界、政界で大いに活躍されている。そんな彼等を相手にしてきた我々が、高々十二やそこらの子どもを御しきれないとでも?
学園を率いる校長ともあろう御人が、そんな弱気では我々理事会としても少々考えざるを得ませんな。」
入学式での"ひろし君の衝撃"事件から二ヶ月。懸念されていた女子生徒の暴走も想定以下の規模に収まり、学園は平穏な状態を保っています。
「鬼龍院校長、此れはチャンスなんですよ?元々我が校の男子生徒は当学園の名を売るための存在。彼にはその本来の仕事をして貰うだけの事。
ここで大きな成果を残せば、鬼龍院校長の権勢は最早揺るぎないものと成るんです。乗らない手は無いのでは?」
そう、我が校の男子生徒の役割、それは我が学園の喧伝にほかなりません。
我々は天下の名門"私立桜泉学園"、何を恐れる事が有りましょう。
「流石、我等が名門"桜泉学園"を率いる鬼龍院静香校長先生。我々は貴女の判断を全面的に支持致します。」
長年に渡って学園を支えてきたと言う自負、田辺理事を始めとした理事会の後押し、学園の混乱を収める為と言う大義名分は"高木康太君陰の王"の忠告を退けるにるものでした。

アーティスト"hiroshi"の躍進は、私たちの想定を凌駕するものでした。
我が校の喧伝としては、桜泉学園所属を全面的に出せない事は悔やまれますが、混乱を避ける意味で必要な措置であったと言わざるを得ないでしょう。
学園内の女子生徒の騒ぎも収まり、「君と二人で」を巡る一連の騒動は終息したと見て取れました。
同時に発表された「Summer Beach」も全国的なブームを巻き起こし、レコードレーベルからの次なる楽曲の要望は日々激しさを増しました。
このムーブメントは、いずれ我が校がトップアーティスト"hiroshi"の通う学園として認識される際、大きな力となるでしょう。
私たちの判断は間違っていなかった。
我が"私立桜泉学園"は、今後"hiroshi"と共に更なる躍進を遂げる。私は確信を持って、事態の推移を見守りました。

綻びは、この時点で既に危険な程広がっていました。
ただ我々にはそれが理解出来なかった。
事態は我々の思惑以上の成果をあげ、"高木康太の進言"は、最早必要ではなかったのだから。

文化祭でのファッションショーの提案。男子生徒の自尊心を刺激すると言う高木康太の提案は、中々使えるものでした。
我が校二年生の横田伸一がファッションデザイナーをしており、プライベートブランド"Sin"を手掛けている事は以前から知られていました。ただ彼は芸術家肌の気難しい性格で、学園からのあらゆる要請にも一切答える事はありませんでした。
そんな彼を高木康太が口説き落とし協力を取り付けた。やはり彼は使える男です。此れからも学園の為大いに働いて貰う、その為の便宜は出来る限り叶えるとしましょう。

「鬼龍院校長、流石ではないですか。あの気難しい"Sin"のデザイナーを口説き落とし、文化祭のファッションショーに協力させるとは。
我々理事会も彼、横田伸一君にはぜひ我が校で"Sin"の新作発表をして欲しいと思っていたんです。
此れは良いですよ!
彼が我が校に所属している事は業界ではよく知られた事。"hiroshi"共々我が校を大いに盛り上げてくれること間違い無しではありませんか。」
「田辺理事、お褒め頂いたところ誠に申し訳ありません。横田伸一君の協力はあくまでも文化祭のファッションショーでの協力であって、新作の発表のものではありません。そちらは彼を口説き落としたものが、交換条件として紹介する別のものたちと行うと聞いております。
ですが、こちらのファッションショーも各ファッション雑誌で掲載される事が決定しております。
我が校主催の文化祭で行われる事を全面に出す形で話しはついていますし、大いに宣伝に成ること請け合いです。」
「鬼龍院校長、そうではない、そうではないんですよ。"Sin"の新作発売を行うからこその横田伸一君なんですよ。彼が手掛けただけのショーでは意味がないんです、若者が注目してやまない"Sin"の"新作"を"我が校の男子生徒"が行うことに意味がある。そうは思いませんか?
横田伸一が要求するモデルとショーをする、良いではないですか。そのショーを我が校で自慢の男子生徒たちと共に行って貰う、それだけの話し。
彼をこの舞台に上げた優秀な部下もいる様ですし、期待していますよ、鬼龍院校長。」
田辺理事のおっしゃる事は一々もっともでした。これまでまったくと言ってもよいほど非協力的であった横田伸一君が、せっかく力を貸してくれるのです。
大いに甘え様ではないですか。
私はすぐにマネジメント部の吉川に指示し、この件での交渉に当たらせました。

高木康太の反発は私の予想を遥かに越えるものでした。まさか保護者会や理事会にまで嘆願書を提出するとは思いませんでした。しかも自らの進退迄掛けるとは。頭が切れ早熟であるとは思っていたが此処まてとは、大したものだと在る意味感心してしまう程でした。
彼のご両親の説得もあり、自ら退学する事態は避けられましたが、彼との溝は決定的なものと為りました。
彼はこの件を最後に、今後一切の協力を拒否。
彼に貸与えていた部室棟の部屋の鍵も、直接返却してきました。
優秀な"生徒"の協力を失う事は残念ですが仕方がありません。
あとは我々大人に任せて、今はゆっくり休んで貰いましょう。
その後高木康太が軽度の鬱で入院したとの連絡が入りました。
いくら優秀と言えども、まだまだ子どもであったのです。

色々頼り過ぎてしまっていたと、これ迄の自分を反省するのでした。
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