上 下
79 / 525
第二章 中二病には罹りません ー中学校ー

第79話 のっぺりのお宅訪問 (4)(side:野口絵実)

しおりを挟む
それから二年が経った。

小学校の勉強はリモート授業、提出物は郵送で行う事で何とかなった。男子の不登校児童対策で、こうしたケアは簡単に受ける事が出来たのだ。
通信でのメンタルケアの時、養護教諭の先生から、私の様な立場に追いやられ、不登校になっている女子生徒が他にもいる事を始めて知った。
小学校に行かなくなってからは、一人で家から出ることも無くなった。
母親と買い物に出る時が唯一外出する機会となった。
その頃から外出先での人の目が気になる様になった。
たまに見る男性からの値踏みする様な視線、私たちを愛玩動物かの様に見る視線。そんな私たちに嫉妬する女性の視線。
私は段々と人に会うのが嫌いになって行った。

4月になり中学校に進学する事となった。
中学校に上がれば、周辺地域の小学校から子どもたちが集まるため、今迄とは違うコミュニティを作る事も出来るはずだ。
だがしかし、学校には当時の事を知る女子生徒も沢山いるはず。
私は髪をオサゲにし、黒縁の伊達メガネを掛け、マスクをして、なるべく地味になる様に努めるのだった。

入学式を終え、クラスの教室で各自の自己紹介をしていた時だ。

「いつまで俺を待たせれば気が済むんだ!いい加減にしろ!」

私は自らの心臓が締め付けられるかと思った。
男子こいつらは中学生になっても何も変わらない。むしろ酷くなる一方だ。嫌だ、もうこんな所には来たくない。

次の日から、私は学校へ行くのを諦め辞めた。

アイツが現れたのは、それから一週間ほど経った頃だった。

アイツの印象は訳の分からないやつ。いきなり現れて人の母親に鼻の下を伸ばす変態。誘われたからって初対面の人の家に図々しく上がり込む無遠慮な奴。
私はすぐに二階に上がり、部屋のドアを閉めた。

小学校の時のクラス担任の様に、部屋の前で何か騒ぎ立てるのではないか。
私の警戒を余所に、アイツはそれ以上踏み込んでは来なかった。

次の日も、また次の日も、アイツはやって来た。私は部屋に籠り、じっと気配を消していた。
一階からは、時々楽しそうな笑い声が聞こえて来る様になった。
「お母さんの笑い声を聞いたのって何時振りだろう…。」
思い起こせば私が小学校に行かなくなってから、すっかり笑わなくなっていたような…。そんな事にも気が付かなかったなんて。
お母さんに甘え、負担を強いていた。
その事実に気が付いた時、私は溢れる涙を止める事が出来なかった。

それからもアイツは訪れ続けた。そんなアイツを出迎えるお母さんの顔は、日に日に明るくなって行った。
夜、お母さんにおやすみの挨拶をしに居間に行くと、何やらタブレット画面でヨウツーベの動画を観ている所であった。

軽快なリズム感の有る音楽、跳び箱を飛び越える青年、平均台を滑り込みで潜り抜ける少年、それを追いかけ片手で飛び越える青年。駆ける、翔ぶ、跳ねる、躍動する男子たち。

何これ、私こんな男の子知らない!私の知るどの男性とも違う、生き生きとした目をした男の子たちが、其処には映し出されていた。。
"男子鬼ごっこ同好会、始動!!"
私は自分のスマホを取り出すと、すぐにチャンネル登録をするのだった。

「絵実ちゃんも気に入った?この動画ね、佐々木君たちなの~。もうお母さん、すっかりファンになっちゃった♪」

えぇ、これがアイツ!?
そういえば、前に渡された名刺にも"鬼ごっこ同好会"って書いてあった様な。
いくつか上がっている動画を観て見ると…、いた!
逆光のシルエットに映る姿、確かにアイツだ!
其処には颯爽と走り、鬼から逃げ続ける佐々木の姿があった。

"ドクンッ"
自分の鼓動の高鳴りが止まらない。
私はその晩、遅く迄動画を見続けるのであった。

「お邪魔しました。」

本当にアイツは何なんだ。
毎日飽きもせずやって来て、只お母さんとお茶をして帰って行く。

"あんたは私を迎えに来たんでしょう"

いや、私は何を考えているのよ、近頃自分がよく分からない。

「お母さん、アイツもう帰ったの?」
一階に降り、すでに分かりきっている事を聞く。
「絵実ちゃんもお茶にする?お茶菓子は佐々木君の残りで悪いんだけど。」
お母さんはとてもいい笑顔で聞いてきた。

私はこの笑顔を奪っていたんだ。
このままじゃ、私は私を許せなくなる。
私は男子が嫌いだ。大っ嫌いだ。
それに迎合する女子も嫌いだ。
でもあんな目をするアイツなら…

「お母さん、今まで心配ばかり掛けてごめんなさい。
私、明日から学校へ行って見ようと思う。」

まずは一歩を踏み出そう。
大好きなお母さんと一緒に笑う為に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操逆転世界ではキモデブの俺の遺伝子を美少女達が狙っている!!!!

お小遣い月3万
恋愛
 貞操逆転世界ではキモデブのおっさんでもラブコメ無双である。  美少女達が俺の遺伝子を狙っていて、ハーレムどころの騒ぎじゃない。  幼馴染の美少女も、アイドル似の美少女も俺のことを狙っている。  痴女も変態女も俺のことを狙っている。  イモっこいお嬢様ですら俺のことを狙っている。  お前も俺のことを狙っているのか!    美少女達とイチャイチャしたり、痴女に拉致されたり、変態女に襲われて逃げたり、貞操逆転世界は男性にとっては大変である。  逆にモテすぎて困る。  絶対にヤレる美少女達が俺を落とすために、迫って来る。    俺は32歳の童貞だった。アダルトビデオに登場するようなブリーフ親父に似ている。しかも体重は100キロである。  働いたら負け、という名言があるように、俺は誰にも負けていなかった。  だけどある日、両親が死んで、勝ち続けるための資金源が無くなってしまった。  自殺も考えたけど死ぬのは怖い。だけど働きたくない。  俺の元へ政府の人間がやって来た。  将来、日本になにかあった時のためにコールドスリープする人間を探しているらしい。コールドスリープというのは冷凍保存のことである。  つまり絶望的な未来が来なければ、永遠に冷凍庫の隅っこで眠り続けるらしい。  俺は死んでも働きたくないので冷凍保存されることになった。    目覚めたら、そこは貞操逆転世界だった。  日本にとっては絶望的な未来だったのだ。男性は俺しかいない。  そんな日本を再生させるために、俺が解凍されたのだ。  つまり俺は日本を救う正義のヒーローだった。  じゃんじゃんセッ◯スしまくって女の子を孕ませるのが、正義のヒーローの俺の役目だった。  目覚めた俺は32歳なのに17歳という設定で高校に通い始める。謎展開である。学園ラブコメが始まってしまう。  もしかしたら学生の頃のトラウマを払拭させるために17歳という設定を押し付けられているのかもしれない。    そして俺は初恋である幼馴染の遺伝子を持った女の子と同じクラスになった。  あの時ヤリたかったあんな事やこんな事をしまくれる。絶対に幼馴染とヤレるラブコメ。  目覚めたらハーレムどころの騒ぎじゃなかった。

処理中です...