転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora

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こんにちは、転生勇者様

第42話 村人転生者、四箇村を巡る 四村目マルガス村

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昨夜は大変であった。昨日行われたマルセル村の野菜とビッグワーム肉の試食会は大成功、村人たちのビッグワーム農法へ対する関心を大いに搔き立てる事となった。そしてそんな村人たちに押しやられる形でお代わりのスープを少ししか貰えなかったスルベ村のマルス村長、拗ねる拗ねる。中年オヤジが拗ねても全く可愛気はありませんから、幼児後退するのは止めてください、”いいもんいいもん、どうせ俺なんて”と言いながら草をむしるのは止めましょう。
と言う訳で夕食時にはマルス村長のリクエストでビッグワームの肉入りスープをお出ししたんですがね、もうマルス村長満面の笑み、超ご機嫌。そして何故かその場に同席するセージ村長、あんたの村は隣だろうが、帰らなくてもいいのか!?

「こんな素晴らしい夕餉にご招待いただき、スルベ村マルス・ミルガル村長、マルセル村ドレイク村長には感謝に耐えません。本当にありがとうございます。」
深々と頭を下げ、慇懃に礼の言葉を述べるセージ村長にすっかり気を良くするマルス村長。マルス村長ちょろ過る、そしてそこまでしてビッグワームの肉入りスープが食べたかったのかセージ村長。
最初ここに来た時は速攻帰りたいと思っていましたが、この二人、結構面白いです。流石稀代の漫才コンビ、時代の先駆者は違うな~。村人たちが二人の喧嘩漫才を見に来るのにも納得です。

「いや~、お二方にビッグワーム農法の素晴らしさが分かっていただけた様で幸いです。これは明日の実演講習会が楽しみです。実は先ほどお話しした五箇村の農業重要地区入りのお話しには続きがあるんですよ。」
ドレイク村長代理はビッグワームの肉入りスープにすっかり気を良くし上機嫌な二人の村長に更なるプレゼンを叩きつける。

「先程もお話ししましたが、農業重要地区入りした地域にはグロリア辺境伯領から新規事業の予算が降りるんです。我がマルセル村ではその為の新規事業の開発を既に始めています。」
”ゴクリッ”
どちらともなく喉を鳴らす村長二人、それもそうだろう、今日お披露目したビッグワーム農法ですら革新的事業と言えるのだ。だがドレイク村長代理は何と言った?既に新しい事業の開発を行っているだと!?

「新しく始まる事業は下手をすれば争いの元になりかねないものです、ですので今度ばかりはやたらな人物にお教えする事は出来ないのですよ。ですが予想される利益はビッグワーム農法の比ではないかと。まぁこればかりは実際事業が軌道に乗らなければ分かりませんが、少なくともグロリア辺境伯様より直接お言葉が掛かるほどの大規模事業に発展する事は予想に難くないでしょう。」
”ズズズズズズッ”
ドレイク村長代理はそこで言葉を切り、ゆっくりと偽癒し草のお茶を啜った。
スルベ村、マルガス村、両村の諍いはその開村の歴史にまで遡るものの現在残されている確執は村の発展を蔑ろにしてまで拘りたいと言ったものではない。旨い食事、そして儲け話、この二大欲求を捨ててまでご先祖様のいざこざに付き合えるほど辺境と言う土地は甘い物ではないのだ。
ドレイク村長代理はにこやかに二人の村長を見詰める。彼は言外に行っているのだ、”お前たちはどうする?”と。このビッグウエーブに乗るか、それともこれまでと同じように飢えに怯え、辺境と蔑まれながらくだらないいざこざをこの最果ての地で続けるのか。

「マルス村長、今日は大変世話になった、どうもありがとう。ドレイク村長の行う明日のビッグワーム農法の実演講習会だが、私も見学させて頂いてもいいだろうか?講習が終わった後は我がマルガス村に移動と聞いている、私が直接ご案内したいと思っているのだが。」

「あぁ、それは構わない。村長がこの農法についてしっかり理解していると言う事は今後の作付けの際に重要な事だからな。俺も参加しようと思っていたんだ、明日はよろしく頼む。」
互いに手を差し出し固い握手を交わす二人の村長、仲良きことは美しき事かな。そこに欲望(旨い食事)と利益(作物の増収)しかないとしても、それで救われる人々も大勢いるはず。リーダーのあり方は村のあり様を変えていく、これで冬場の川の利用で諍いが起きる事も、病気や不幸を相手村に責任転嫁する様な慣習も無くなれば。
ケビン少年は新規事業と言う見えない餌で二人を釣りあげたドレイク村長代理の手腕に感心しながら、”やはり目指すべきは清濁併せ呑む大人である”とその確信を深くするのでした。


「皆さんおはようございます。これよりビッグワーム農法の実演講習といたしまして、その肝とも言えるワームプールの作製についてお話ししたいと思います。」
ここは村長所有の畑の一角、スベル村におけるワームプール一号基の建設を通し、村民にワームプール建設の知識を学んで貰おうと言う計画である。
作成の手順はヨーク村で行ったものと全く同じ、先ずは穴掘り魔人ケビンによる高速穴掘りを披露、村人を唖然とさせた後ゴルド村で積み込んだレンガを使ってのワームプール作り。ちゃんと呪文を唱えてのウォーターとブロックによる流れる様な建設手順、こちらも講演三回目ともなれば手慣れたものである。あらかじめ準備した砕いたレンガによる水抜き穴の用意も完璧、生活魔法によるレンガブロックの作製方法に関しては、もはや諦めております。お約束の様に驚かれたけどね、いいじゃん、便利になるんだから。冬場は家族総出で内職に励んでください、レンガの消費ってそれなりにありますから。それに五箇村が農業重要地区入りを果たしでもしたら一気にレンガの需要は高まりますからね、建物然り街道整備然り、村から街へのグレードアップも夢じゃない。ホーンラビット牧場なんてレンガ使いまくりですよ~、その辺はドレイク村長代理に説明させよう、もう実演講習は勘弁でござる。
こうしてスルベ村でのビッグワーム農法の実演講習会は無事終了したのでした。
お昼の代わりにお出ししたビッグワームの干し肉(出荷用)の炙り焼きも大変好評だったことをここに明記しておきます。
えっ、肉で誤魔化した?ソンナコトハナイデスヨー。


「いや~、ドレイク村長、大変すばらしい講習会だったよ。」
マルス村長に大変感謝された講習会、中でもレンガの作り方とレンガ建設の技術が村の建物修復に使えると言うのが良かったようです。あの村もそれなりに建物が傷んでいたからな~、やはり雨に弱い日干し煉瓦じゃ無理がありますからね。スルベ村の皆さんとは畑でお別れ、惜しまれつつも荷馬車は一路マルガス村を目指し移動しております。
次に向かうマルガス村ですが、村長のセージ・マルガス氏はすでに荷馬車のお隣に座ってらっしゃるんですよね。この人村長のくせにフットワーク軽いよな、いくらスルベ村がお隣の村だからってそれなりに距離があるのよ?それを馬車も使わずに徒歩でお出でとは、健脚でいらっしゃる。
えっ?身体強化のスキルをお持ちなんですか、スゲー。そんな御方が何でこんな辺境で村長を、冒険者でも騎士でも夢の広がるスキルじゃないですか。
職業が村人だったと、戦闘職か戦闘スキルが無いと冒険者は厳しいと、なるほど納得です。村人の中には身体強化スキル持ちは多いんですか、そうですよね~、村の暮らしは力仕事ばっかりですもんね~。俺も持ってるはずなんですか?先ほどの穴掘りはスキルが開花しているはずだと、祝福前でもたまにスキルに開花する子供がいるんですか、それは授けの儀が楽しみです。俺、次の冬が授けの儀なんですよ、どんな職業に就けるんですかね?
意外にお話し上手なセージ村長、時間が経つのも感じさせず移動する事少々、道の先には凄いぼろ屋が数軒ってマルガス村近い、って言うかこれがマルガス村?ちょっとヤバすぎない!?

「あぁ、あれは我がマルガス村ではないのだよ。」
セージ村長曰く、ここスルベ村・マルガス村の両村には昔から定期的に所謂”よそ者”がやって来るらしい。その昔はそれこそ温かく向かい入れていた頃もあったのだが、やはり辺境の地まで流れてくる様な”よそ者”、大きな問題を抱えているものが大半で、その問題を村に持ち込む者も少なくなかったのだと言う。スルベ村とマルガス村の分裂騒動が起きた際も、問題を起こす様な”よそ者”は敬遠され、どちらの村にも入れずと言った宙ぶらりんの状態に、結果両村の中間に居を構える様になったのがこの地区の始まりなんだそうだ。

「とは言えそれなりに村との交流もあり、中にはそれぞれの村に移り住む者もいる。だがどうしても馴染めないものと言う者は出るものでね。都市部で言う所のスラムに近いのがこの場所だよ。」
うわ~、マジかよ。辺境の最果てにあってさらにスラムって、いったいどんだけだよ。でもな~、村に住んでてもスラム以下の生活をしていたザルバさんの所みたいな話もあるからな~。実体を知らない以上何とも言えない。
セージ村長、ちょっと寄ってみてもいいですか?
俺は渋い顔をするセージ村長を余所にバラック小屋のような建物に向かい歩いて行くのでした。

「なんだ坊主、マルガス村ならまだ先だぞ。ここはどちら付かずの無名の土地だ、さっさと向こうに行きな。」
そう声を掛けて来たのはガタイの良いボロボロの衣類を着込んだ男性。一見するとみすぼらしい風体にも見えるこの男性、でもおかしくね?この人元気そうだよね?

「突然済みません、僕はマルセル村から参りましたケビンと申します。今回この周辺五箇村にマルセル村で開発しましたビッグワーム農法と言うものを広める為に村長代理のドレイク・ブラウンさんと一緒にマルガス村に向かっていた所、この地区の事をお伺いいたしました。この地区の代表の方がおりましたらお会いしたいのですがお取次ぎをお願い出来ませんでしょうか?」
俺はそこまで語り終えると深々と頭を下げた。そんな俺の様子に男性はしばらく考え込んだのち、ちょっと待ってろと言って奥へと引っ込んで行った。

「ケビン君、一体どうしたと言うのかね?」
後ろから心配そうに声を掛けて来るドレイク村長代理。俺はそんな村長代理にしばらく時間が掛かりそうだと伝え、二人して先にマルガス村に向かって貰い、マルガス村の皆さんに野菜スープとビッグワームの肉入りスープを振る舞って欲しいとお願いした。
ビッグワームの肉入りスープと聞いて途端目を輝かせるセージ村長、あなた本当に自分に素直です事。俺は”多分必要になるから”と幾つかの椀とスプーン、乾燥野菜とビッグワームの干し肉を荷台から下ろし、村長二人を送り出すのだった。

「待たせて悪かったな、お婆様がお会いになるそうだ。」
そう言い俺をバラック群の中に案内する男性。おい、お前もう隠す気ないだろう!
俺は心の中で激しくツッコミを入れながら、男性の後ろを付いて行くのであった。
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