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こんにちは、転生勇者様
第28話 村人転生者、四箇村を巡る 一村目ゴルド村
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「うん、やはり冬場の草原は余り警戒しなくてもいい分早く着くね。ケビン君、あそこに見えるのが隣村のゴルドだよ。」
マルセル村を出てから大体二時間半から三時間と言った頃だろうか、隣の村ゴルドの建物が見えて来た。と言うか何気にマルセル村からの初めての遠出、テンションが上がってついついキャタピラーを探しまくっちゃいました。残念ながら一匹も見つからなかったんですけどね。良いもん良いもん、どうせまだ糸紬の段階だもん。癒し草以外の魔力の豊富な代替え植物を見つけてある程度先行きに目処が立ったら、本格的に捜索してやる。それまで首を長くして待ってるんだな、キャタピラーども!
そんな負け惜しみをしつつゴルド村に向かったんですが、うん、ウチの村と大差ないですね。服装やら村の雰囲気からするとウチの村の方が余程上って感じ。ザ・辺境、もしくは寒村。これが現実ですよね、本当にこう言ったものを見せられるとドレイク村長代理がいかに優秀か、いかに必死になって村民を守って来たのかって事が分かります。ゴルド村に必要なものはまずは食べ物ですよ、村の改革はその後なんじゃないですかね。
俺がそんな事を考えながら村の様子を眺めていると、馬車は一軒の屋敷の前に到着。どうやらここがゴルド村の村長の家の様です。
「こんにちは、マルセル村のドレイクです。ホルン村長は御在宅でしょうか。」
扉をノックし、大きな声で呼びかけるドレイク村長代理。基本田舎の人間は大声で屋敷の者に呼び掛けます。冬の期間とは言え室内で何か作業をしていたりすれば聞こえない、庭先に出ていたりしたら小声じゃ絶対無理だしね。
”ドタドタドタッ”
「おぉ、ドレイク村長、よく来てくれ・・・ドレイク村長だよな?随分と痩せたんじゃないのか?もしかして病気なのか?しっかり食べてるか?」
ブフォ、村長代理目茶苦茶心配されてるし。ゴルド村の村長さん、なんかいい人みたいでホッとしました。でもそうだよな、こんな時代村長同士が顔を合わせるのなんて年に一回あればいい方だもんな。
情報の伝達スピードの遅さ、これが現実。改めて辺境の村に暮らしているんだと納得してしまったケビンなのでありました。
「寒い中よく来てくれた、身体が冷えて大変だろう、先ずは中で温まってくれ。」
そう言い俺たちを温かくむかい入れてくれたホルン村長。でも俺たちそんなに身体が冷えてる訳じゃないんですけどね、やっぱり便利”魔力纏い”。マルセル村からの道中、ずっと魔力を纏って保温して来たので二人とも全く支障なし。何だったら馬車を引いてるお馬さんも俺が魔力を伸ばして覆ってたんでさほど疲れてないって言うね。やっぱり寒い中の移動は体力を消耗しますから、温かいってだけでも相当違った様です。
”コトリッ”
差し出されたのは温かな湯気を立てた野草茶ですね。今の時期は身体を温めてくれる偽癒し草のお茶かな?要はヨモギ茶です。田舎ではよく飲まれているんですけどね、町場では飲まないんだろうか。でもよくお茶お茶言いますけど、俗に言う紅茶や緑茶なんてものは生まれてこの方見た事も聞いた事もないんですけどね。ミランダさんの所で出される物は大体が薬効のある野草を乾燥させてブレンドした薬茶。ミランダさんはハーブティーなんて小洒落た言い方をしていますが、調薬系の職業の人が好んで飲むお茶らしいです。で、俺みたいな一般の村民は寒い時期には偽癒し草のお茶、春と秋はドクダミ茶、暑い夏は麦茶ですね。ドクダミは解毒ポーションの材料にもなるのでよく知られています。名称は”毒出し草”、ミランダさんに教えられて”おしい”と思ったのは内緒です。麦茶はまんま麦茶、麦を焙煎して作ります。
「ところでドレイク村長、この寒い中今日は一体どう言った要件でこちらに?」
この国で比較的魔物の大人しいこの季節、人や物の移動が活発化しそうなものですが実はあまり動きません。理由は簡単、寒いから。野外で寝泊まりしなければならないほど各地域が離れている辺境では寒い時期の移動はそれだけで一苦労、下手をすれば凍死のリスク在りって言うね、そりゃ家で大人しくしてますっての。
お前ら平気だったじゃんって思うでしょ?”田舎暮らしの必須技能魔力纏い”、実は相当な高等技術だったらしいです。(元冒険者のお爺さん情報)
ウチの村じゃ全員出来る様になったんですけどね、無論病人と高齢者を含めて。どちらかと言えばその人たちの方が上手かもしれない。やっぱりモチベーションを上げる名目でビッグワーム肉の香草焼きを出したのが良かったのかな~。体力も魔力も衰えてるだろうからってスライム泥抜きバージョンにしたのが効いたのかもしれない。あれは感動ものの美味しさだもんな、流石にポーションビッグワームは出せないけど。
「実は前々からお話ししていました我が村のビッグワーム農法の事なんですよ。我が村の実証実験も終わりましたし品質、安全面共に問題は見られません。マルセル村がここ二年で急速に豊かになったのはこの農法のお陰とも言えます。そこで以前のお約束の通り、五箇村の農業重要地区入りを目指し各村に試験用のビッグワームプールの建設を行おうとお伺いした次第です。」
ドレイク村長の流れるようなプレゼン、マジで優秀だぞ、おい。ゴルド村の村長さん感動で打ち震えてるじゃん。あ、ホルン村長があの立派な腕で抱き着いたってドレイク村長代理身体に魔力纏って防御してるし。見た目爽やか笑顔をキープって卒がない、流石元商人。
「ありがとう、ドレイク村長。”マルセル村の奇跡”は我が村の希望、是非我々も協力させてください。」
ホルン村長目茶苦茶乗り気、マルセル一族とは大違い。これが普通の寒村の村長だよな、みんな必死なんだよ。何で馬鹿息子はあんな感じになったんだか。親が優秀過ぎるのも考え物ですな~。
「では早速で悪いのですが村の男衆を集めてもらえますか?それと建設予定地を見せてもらっても。」
「あぁ、男衆はすぐに集めよう。それと建設予定の畑は妻に案内させよう。」
そう言い家を飛び出すホルン村長。本当に切実な問題だと言う事が分かっているんだろう。残された俺とドレイク村長代理は、ホルン村長の奥さんに案内されて建設予定のホルン村長の畑に。
で、ドレイク村長代理、ここに来たのは良いんですがレンガの手配とかどうするんです?穴は俺が掘れますけど、流石にレンガは用意できませんよ?
「あぁ、その点は大丈夫だと思うよ?ホルン村長、ああ見えて元石工職人だからね。街道の補修や建設、石橋の建設なんかにも携わっていたそうだから、ある程度の説明でも理解してくれると思うよ。それに土属性魔法を使えるって言ってたからクリエートブロックも出来るんじゃないかな。」
ほ~、それは凄い。そんな人が何で寒村の村長なんか。まぁ、色々あったんでしょう、ここら辺は何処もそんな土地ですし。それじゃ、皆さんが集まる前にサクッと穴だけ掘っちゃいますか。
俺はそう言うと早速手持ちのスコップで横三メートル、縦四メートル、深さ一メートルの大穴の作製に取り掛かるのでした。
”サクッ、サクッ、サクッ、サクッ”
めっちゃ快適、これまでの木べらなんて目じゃないじゃないですか。流石ご神木様の枝、魔力の通りが抜群、凍てつく地面がプリンの様。
「わっはっはっは、冬の大地が何ほどのものか、我こそは穴掘り職人ケビン成り~!」
もうテンション上げ上げで穴を掘りまくっちゃいました。
で、大穴が掘り上がってふと顔を上げるとお口ポカ~ンとした大勢の男衆。ドレイク村長が一人笑いを堪えてるって。えっと、これって一体どんな状況なんでしょうか?
「いや~、流石は仮性、見事な勇者振りでございました。ってもう最高、ゴルド村の皆さん固まっちゃったよ?ケビン君凄い勢いで穴を掘っちゃうんだもん。普通この大きさの穴を一人で掘ろうと思ったら一日二日じゃ済まないからね?それをこんな短時間でやっちゃうし、ゴルド村の人たちが持って来た木べらの出番が無くなっちゃったよ。」
そう言われてみれば皆さん各自木べらをお持ちで。これは余計な事をしましたかね、申し訳ない。
「イヤイヤイヤ、これだけ見事な大穴を我々が集まるまでの短い時間で掘り上げた少年に驚いていただけだから、気にしなくてもいいよ。おそらく剛力系の才能にでも目覚めているのかな?時々授けの儀の前にスキルに目覚める子供がいるとは聞いていたけど、実際に目にしたのは初めてだったからびっくりしてしまったよ。将来は聖騎士か重装騎士か、これは授けの儀が楽しみだね。」
そう言いにこやかに笑うホルン村長、有名どころの職業名を上げたのは勇者病(仮性)の俺を気遣っての事なんだろうな。やっぱりこの人は優しい。
それと後ろのギャラリー、”あれが仮性か、あれほどの罹患者は初めて見た”とか言わない。ちょっとテンションが上がっちゃっただけなんだからね。(ぷんすか)
「それでここから先はレンガが必要なんですが、ホルン村長、そこの掘り出した土からお願い出来ますか?」
「あ、あぁ。すぐに用意出来るのは五十個が限界だが、残りは随時って事でいいかな?」
「ええ、大体の概要だけ説明できれば後はホルン村長の方が御詳しいでしょうから。」
ホルン村長はドレイク村長代理と短い会話を交わした後、俺が積み上げた土の山に近寄り土属性魔法の詠唱を始めました。
「”大いなる神よ、その御業により我に五十個のレンガを与えたまえ、クリエイトブロック”」
おぉ、この詠唱は初めて聞いたぞ。クリエイトブロックは数量指定迄出来るのか、凄いな。しかもきちんと積み上げられたレンガが出現って、流石魔法、ファンタジー以外の何ものでもないわ。
俺は目の前で起きた現象に、改めて魔法って理不尽と思わざるを得ないのでした。
「それじゃあまずここの土をこのバケツに移してヘラで捏ねます、その時生活魔法の”ウォーター”で出した水を使うと魔力の通りが良くなってより丈夫になります。それでこの並べたレンガの間に捏ねた土を挟んできちんと準備できたら”ブロック”。これで丈夫な床面が出来ます。でもこのままだと雨が降った際に水が溜まってしまうので水抜きが必要です、そこで部分的にあえて粘土を塗り込まない個所を作ってそこには水の通りの良い砂を入れます。周りに砂が見当たらない場合はレンガを一つ使って”破砕”、こうやって砂を作りましょう。この際に細かい砂を想像しながらやると上手く行きます。ただ”破砕”しただけだと粒の大きな礫になってしまうので注意してください。って皆さん聞いてます?」
俺が説明を始めたのは良いのですが、なぜかまたしても固まる男衆。俺は訳が分からずドレイク村長代理の方を見ます。
「あ~、ケビン君は無意識にやってるみたいだけど、君生活魔法を詠唱短縮で行ってるからね。さっきから魔法名しか言ってないから、そんな事出来るのは高位の魔法使いくらいだよ?それと”破砕”だっけ?砂とか石礫を作る土属性の生活魔法。そんな生活魔法聞いた事ないから。それってどこから習ったの?」
いや、習ったと言うより必要だったから土属性の魔力を込めながらレンガを粉々にしようと頑張ってたら出来た感じ?破砕って魔法名は後から付けた感じかな?でも魔法名を付けたら次からは簡単に出来る様になった、みたいな?
ドレイク村長代理、頭を抱えてどうなさいました?ホルン村長も一緒になって仲良しさんなんですか?
「えっとね、ケビン君は分からないと思うんだけど、それって魔法を創造しちゃったって事なんだよ。それこそ魔法職の人達が何年、何十年と掛けても出来ない事をケビン君がやってしまったって事かな。まぁ、魔法職の人達は認めないと思うけどね、”生活魔法は魔法ではない”って言うのが彼らの主張だから。でもその魔法の有用性はホルン村長ならよく分かると思うよ。」
「あぁ、ケビン君と言ったかな、君は土属性の生活魔法が極端に少ないって言うのは知っているかな?土属性は余り普段の生活には関係ないからね。そんな中、君は新しい土属性魔法を作った、これは大きい進歩なんだよ。それに”破砕”だったかな、石を砕きたいって場面は石工なら当然一杯あったからね、普段は道具を使って行うんだけどこれほど均一に砂にする事なんて出来ないんだよ。まぁ使い様によっては犯罪にも使える魔法だけどそれはどんなものでも同じだ、ただ誰にでも使える生活魔法って所が問題でね。あまり大っぴらにはしない事をお勧めするよ。」
マジかよ、ちょっとした便利魔法がとってもデンジャーって、それが知れただけでもここに来た甲斐があったんですけど。畑の岩を砂にしたり固い地面を耕し易くする便利魔法だと思っていたのがとんだ地雷って、世の中嘗めてたわ。この世界の民度は俺が思っている以上に低い様です。
人生の先輩からの思わぬ忠告に、改めて身を引き締めるケビン少年なのでありました。
マルセル村を出てから大体二時間半から三時間と言った頃だろうか、隣の村ゴルドの建物が見えて来た。と言うか何気にマルセル村からの初めての遠出、テンションが上がってついついキャタピラーを探しまくっちゃいました。残念ながら一匹も見つからなかったんですけどね。良いもん良いもん、どうせまだ糸紬の段階だもん。癒し草以外の魔力の豊富な代替え植物を見つけてある程度先行きに目処が立ったら、本格的に捜索してやる。それまで首を長くして待ってるんだな、キャタピラーども!
そんな負け惜しみをしつつゴルド村に向かったんですが、うん、ウチの村と大差ないですね。服装やら村の雰囲気からするとウチの村の方が余程上って感じ。ザ・辺境、もしくは寒村。これが現実ですよね、本当にこう言ったものを見せられるとドレイク村長代理がいかに優秀か、いかに必死になって村民を守って来たのかって事が分かります。ゴルド村に必要なものはまずは食べ物ですよ、村の改革はその後なんじゃないですかね。
俺がそんな事を考えながら村の様子を眺めていると、馬車は一軒の屋敷の前に到着。どうやらここがゴルド村の村長の家の様です。
「こんにちは、マルセル村のドレイクです。ホルン村長は御在宅でしょうか。」
扉をノックし、大きな声で呼びかけるドレイク村長代理。基本田舎の人間は大声で屋敷の者に呼び掛けます。冬の期間とは言え室内で何か作業をしていたりすれば聞こえない、庭先に出ていたりしたら小声じゃ絶対無理だしね。
”ドタドタドタッ”
「おぉ、ドレイク村長、よく来てくれ・・・ドレイク村長だよな?随分と痩せたんじゃないのか?もしかして病気なのか?しっかり食べてるか?」
ブフォ、村長代理目茶苦茶心配されてるし。ゴルド村の村長さん、なんかいい人みたいでホッとしました。でもそうだよな、こんな時代村長同士が顔を合わせるのなんて年に一回あればいい方だもんな。
情報の伝達スピードの遅さ、これが現実。改めて辺境の村に暮らしているんだと納得してしまったケビンなのでありました。
「寒い中よく来てくれた、身体が冷えて大変だろう、先ずは中で温まってくれ。」
そう言い俺たちを温かくむかい入れてくれたホルン村長。でも俺たちそんなに身体が冷えてる訳じゃないんですけどね、やっぱり便利”魔力纏い”。マルセル村からの道中、ずっと魔力を纏って保温して来たので二人とも全く支障なし。何だったら馬車を引いてるお馬さんも俺が魔力を伸ばして覆ってたんでさほど疲れてないって言うね。やっぱり寒い中の移動は体力を消耗しますから、温かいってだけでも相当違った様です。
”コトリッ”
差し出されたのは温かな湯気を立てた野草茶ですね。今の時期は身体を温めてくれる偽癒し草のお茶かな?要はヨモギ茶です。田舎ではよく飲まれているんですけどね、町場では飲まないんだろうか。でもよくお茶お茶言いますけど、俗に言う紅茶や緑茶なんてものは生まれてこの方見た事も聞いた事もないんですけどね。ミランダさんの所で出される物は大体が薬効のある野草を乾燥させてブレンドした薬茶。ミランダさんはハーブティーなんて小洒落た言い方をしていますが、調薬系の職業の人が好んで飲むお茶らしいです。で、俺みたいな一般の村民は寒い時期には偽癒し草のお茶、春と秋はドクダミ茶、暑い夏は麦茶ですね。ドクダミは解毒ポーションの材料にもなるのでよく知られています。名称は”毒出し草”、ミランダさんに教えられて”おしい”と思ったのは内緒です。麦茶はまんま麦茶、麦を焙煎して作ります。
「ところでドレイク村長、この寒い中今日は一体どう言った要件でこちらに?」
この国で比較的魔物の大人しいこの季節、人や物の移動が活発化しそうなものですが実はあまり動きません。理由は簡単、寒いから。野外で寝泊まりしなければならないほど各地域が離れている辺境では寒い時期の移動はそれだけで一苦労、下手をすれば凍死のリスク在りって言うね、そりゃ家で大人しくしてますっての。
お前ら平気だったじゃんって思うでしょ?”田舎暮らしの必須技能魔力纏い”、実は相当な高等技術だったらしいです。(元冒険者のお爺さん情報)
ウチの村じゃ全員出来る様になったんですけどね、無論病人と高齢者を含めて。どちらかと言えばその人たちの方が上手かもしれない。やっぱりモチベーションを上げる名目でビッグワーム肉の香草焼きを出したのが良かったのかな~。体力も魔力も衰えてるだろうからってスライム泥抜きバージョンにしたのが効いたのかもしれない。あれは感動ものの美味しさだもんな、流石にポーションビッグワームは出せないけど。
「実は前々からお話ししていました我が村のビッグワーム農法の事なんですよ。我が村の実証実験も終わりましたし品質、安全面共に問題は見られません。マルセル村がここ二年で急速に豊かになったのはこの農法のお陰とも言えます。そこで以前のお約束の通り、五箇村の農業重要地区入りを目指し各村に試験用のビッグワームプールの建設を行おうとお伺いした次第です。」
ドレイク村長の流れるようなプレゼン、マジで優秀だぞ、おい。ゴルド村の村長さん感動で打ち震えてるじゃん。あ、ホルン村長があの立派な腕で抱き着いたってドレイク村長代理身体に魔力纏って防御してるし。見た目爽やか笑顔をキープって卒がない、流石元商人。
「ありがとう、ドレイク村長。”マルセル村の奇跡”は我が村の希望、是非我々も協力させてください。」
ホルン村長目茶苦茶乗り気、マルセル一族とは大違い。これが普通の寒村の村長だよな、みんな必死なんだよ。何で馬鹿息子はあんな感じになったんだか。親が優秀過ぎるのも考え物ですな~。
「では早速で悪いのですが村の男衆を集めてもらえますか?それと建設予定地を見せてもらっても。」
「あぁ、男衆はすぐに集めよう。それと建設予定の畑は妻に案内させよう。」
そう言い家を飛び出すホルン村長。本当に切実な問題だと言う事が分かっているんだろう。残された俺とドレイク村長代理は、ホルン村長の奥さんに案内されて建設予定のホルン村長の畑に。
で、ドレイク村長代理、ここに来たのは良いんですがレンガの手配とかどうするんです?穴は俺が掘れますけど、流石にレンガは用意できませんよ?
「あぁ、その点は大丈夫だと思うよ?ホルン村長、ああ見えて元石工職人だからね。街道の補修や建設、石橋の建設なんかにも携わっていたそうだから、ある程度の説明でも理解してくれると思うよ。それに土属性魔法を使えるって言ってたからクリエートブロックも出来るんじゃないかな。」
ほ~、それは凄い。そんな人が何で寒村の村長なんか。まぁ、色々あったんでしょう、ここら辺は何処もそんな土地ですし。それじゃ、皆さんが集まる前にサクッと穴だけ掘っちゃいますか。
俺はそう言うと早速手持ちのスコップで横三メートル、縦四メートル、深さ一メートルの大穴の作製に取り掛かるのでした。
”サクッ、サクッ、サクッ、サクッ”
めっちゃ快適、これまでの木べらなんて目じゃないじゃないですか。流石ご神木様の枝、魔力の通りが抜群、凍てつく地面がプリンの様。
「わっはっはっは、冬の大地が何ほどのものか、我こそは穴掘り職人ケビン成り~!」
もうテンション上げ上げで穴を掘りまくっちゃいました。
で、大穴が掘り上がってふと顔を上げるとお口ポカ~ンとした大勢の男衆。ドレイク村長が一人笑いを堪えてるって。えっと、これって一体どんな状況なんでしょうか?
「いや~、流石は仮性、見事な勇者振りでございました。ってもう最高、ゴルド村の皆さん固まっちゃったよ?ケビン君凄い勢いで穴を掘っちゃうんだもん。普通この大きさの穴を一人で掘ろうと思ったら一日二日じゃ済まないからね?それをこんな短時間でやっちゃうし、ゴルド村の人たちが持って来た木べらの出番が無くなっちゃったよ。」
そう言われてみれば皆さん各自木べらをお持ちで。これは余計な事をしましたかね、申し訳ない。
「イヤイヤイヤ、これだけ見事な大穴を我々が集まるまでの短い時間で掘り上げた少年に驚いていただけだから、気にしなくてもいいよ。おそらく剛力系の才能にでも目覚めているのかな?時々授けの儀の前にスキルに目覚める子供がいるとは聞いていたけど、実際に目にしたのは初めてだったからびっくりしてしまったよ。将来は聖騎士か重装騎士か、これは授けの儀が楽しみだね。」
そう言いにこやかに笑うホルン村長、有名どころの職業名を上げたのは勇者病(仮性)の俺を気遣っての事なんだろうな。やっぱりこの人は優しい。
それと後ろのギャラリー、”あれが仮性か、あれほどの罹患者は初めて見た”とか言わない。ちょっとテンションが上がっちゃっただけなんだからね。(ぷんすか)
「それでここから先はレンガが必要なんですが、ホルン村長、そこの掘り出した土からお願い出来ますか?」
「あ、あぁ。すぐに用意出来るのは五十個が限界だが、残りは随時って事でいいかな?」
「ええ、大体の概要だけ説明できれば後はホルン村長の方が御詳しいでしょうから。」
ホルン村長はドレイク村長代理と短い会話を交わした後、俺が積み上げた土の山に近寄り土属性魔法の詠唱を始めました。
「”大いなる神よ、その御業により我に五十個のレンガを与えたまえ、クリエイトブロック”」
おぉ、この詠唱は初めて聞いたぞ。クリエイトブロックは数量指定迄出来るのか、凄いな。しかもきちんと積み上げられたレンガが出現って、流石魔法、ファンタジー以外の何ものでもないわ。
俺は目の前で起きた現象に、改めて魔法って理不尽と思わざるを得ないのでした。
「それじゃあまずここの土をこのバケツに移してヘラで捏ねます、その時生活魔法の”ウォーター”で出した水を使うと魔力の通りが良くなってより丈夫になります。それでこの並べたレンガの間に捏ねた土を挟んできちんと準備できたら”ブロック”。これで丈夫な床面が出来ます。でもこのままだと雨が降った際に水が溜まってしまうので水抜きが必要です、そこで部分的にあえて粘土を塗り込まない個所を作ってそこには水の通りの良い砂を入れます。周りに砂が見当たらない場合はレンガを一つ使って”破砕”、こうやって砂を作りましょう。この際に細かい砂を想像しながらやると上手く行きます。ただ”破砕”しただけだと粒の大きな礫になってしまうので注意してください。って皆さん聞いてます?」
俺が説明を始めたのは良いのですが、なぜかまたしても固まる男衆。俺は訳が分からずドレイク村長代理の方を見ます。
「あ~、ケビン君は無意識にやってるみたいだけど、君生活魔法を詠唱短縮で行ってるからね。さっきから魔法名しか言ってないから、そんな事出来るのは高位の魔法使いくらいだよ?それと”破砕”だっけ?砂とか石礫を作る土属性の生活魔法。そんな生活魔法聞いた事ないから。それってどこから習ったの?」
いや、習ったと言うより必要だったから土属性の魔力を込めながらレンガを粉々にしようと頑張ってたら出来た感じ?破砕って魔法名は後から付けた感じかな?でも魔法名を付けたら次からは簡単に出来る様になった、みたいな?
ドレイク村長代理、頭を抱えてどうなさいました?ホルン村長も一緒になって仲良しさんなんですか?
「えっとね、ケビン君は分からないと思うんだけど、それって魔法を創造しちゃったって事なんだよ。それこそ魔法職の人達が何年、何十年と掛けても出来ない事をケビン君がやってしまったって事かな。まぁ、魔法職の人達は認めないと思うけどね、”生活魔法は魔法ではない”って言うのが彼らの主張だから。でもその魔法の有用性はホルン村長ならよく分かると思うよ。」
「あぁ、ケビン君と言ったかな、君は土属性の生活魔法が極端に少ないって言うのは知っているかな?土属性は余り普段の生活には関係ないからね。そんな中、君は新しい土属性魔法を作った、これは大きい進歩なんだよ。それに”破砕”だったかな、石を砕きたいって場面は石工なら当然一杯あったからね、普段は道具を使って行うんだけどこれほど均一に砂にする事なんて出来ないんだよ。まぁ使い様によっては犯罪にも使える魔法だけどそれはどんなものでも同じだ、ただ誰にでも使える生活魔法って所が問題でね。あまり大っぴらにはしない事をお勧めするよ。」
マジかよ、ちょっとした便利魔法がとってもデンジャーって、それが知れただけでもここに来た甲斐があったんですけど。畑の岩を砂にしたり固い地面を耕し易くする便利魔法だと思っていたのがとんだ地雷って、世の中嘗めてたわ。この世界の民度は俺が思っている以上に低い様です。
人生の先輩からの思わぬ忠告に、改めて身を引き締めるケビン少年なのでありました。
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雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
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