転生勇者の三軒隣んちの俺

@aozora

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こんにちは、転生勇者様

第27話 村人転生者、近隣四箇村を巡る

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基礎工事終了~。漸く全周地下部分のレンガ積みが終わりました。長かった、目茶苦茶時間掛かった、やっぱこれだけの広さの溝掘りを木べらで行うのは無理がある。スコップが欲しいです、切実に。大勢でやるならいいよ、木べらでも、こちとらワンマンアーミーよ、孤独な戦士よ、後方支援は只管レンガ作り援助よ、やってられんわ。

無いのなら、作ってしまえ、ホトトギス。
作っちゃいました、ご神木様の太い枝製総木造りのスコップ。手持ち部分の三角と先端のスコップ部分は削り出し、接続部は柄の部分を凸型に削り、手持ち部分を凹状にして柄をサンドして横から別の木で留める組木式。先端のスコップ部分も同様に接続、接着面にはご神木様の樹脂を塗り込む念の入れよう。この樹脂、ご神木様の前で部品を持って行って説明したらタラリタラリと分けてくれました。やっぱりファンタジー植物半端ないです。
その上から紬の丈夫な繊維から作った糸を巻き付けてまた樹脂を塗ってってのを三回繰り返して出来上がり。少しごついですけど丈夫さが命ですから仕方がありませんね。
使い勝手は上々、サクサク穴が掘れました。
これには父親も脱帽、貸してくれと言うので魔力を纏いながら使うようにと言って渡すと、地面を掘る掘る。あまりの使い勝手の良さに唸りを上げたくらいですんで。
これからの穴掘りはスコップがスタンダードでしょう、木べらの時代は終わったんですよ、ワハハハハハ。

何ですジミー、”ケビンお兄ちゃんの勇者病が”って失礼な。スコップの良さが分かって貰えないとは、お兄ちゃんは悲しいです。スコップの素晴らしさは伝わった?高笑いするお兄ちゃんにドン引きしてると。それは本当に申し訳ない、ついテンションが上がってしまいました。
常に冷静沈着ジミー君、勇者病(仮性)の兄は今日も弟に頭を下げるのでした。


「ケビン君、ちょっと出掛けるよ。」
健康広場での朝の体操を終え家に向かっていると、最近運動効果が如実に表れ別人のようにスリムになり始めた村長代理が突然訳の分からない事を言い始めました。えっと出掛けるとは一体?こんな時期に狩りでもないんですよね?

「うん、前にも話したことがある近隣四箇村なんだけどね、ビッグワーム農法を行うにあたりワームプールについて説明して欲しいという相談があってね、その作製方法をぜひケビン君に実演付きで説明して欲しいんだよ。移動用の馬車はすでに用意してあるんだ、後はケビン君を乗せて出発するだけ。ヘンリーさんの所にはすでに許可は貰っているから今すぐ出発できるよ?」

うん、村長代理ちょっと待とう。行き成り過ぎ、準備くらいさせて、朝ごはんもまだなのよ?
でもあまり遅くなると今日中に帰れないしねって忙しいなおい。隣村だって馬車で半日かかるのよ?今日は隣村だけ?他の村は日を改めてってマジですか。
俺は仕方がなく急いで家に帰り朝ご飯を軽く済ませるとスコップを持って村長の家に向かうのでした。

「ん?ケビン君の持っているその大きなスプーンは一体。普通の木べらじゃないよね?」
あ、これですか?新しく作った木べらの代わりです。ほら、先端が尖っているから土に入り込み易くなってるんですよ。それに曲線状に土を掬えるようにしてあるんで、木べらよりも多くの土を掘り進められるんです。ただ木製ですから完全に魔力纏いありきの道具ですけどね。普通の人用に作るならこの掬いの部分を鉄で作ればいいと思いますよ。
そう言い村長代理にスコップを渡す。村長代理は魔力纏いが出来るから安心して貸せるけど一般人はお断りです、即効壊れますから、だってこれ木ですから、刃の部分に鉄の枠も付いてませんから。
そう、一般的な農具は木製の本体の先の方に鉄の部品、刃の部分が付いていてそれで土を耕したりしております。先が全て金属製なんて高級品は普通の農家には買えないのです。因みに我が父ヘンリー殿は金属製鍬を持っていたりします。何でも冒険者時代に特注したとの事、結構稼いでいた様です。その鍬を一人磨きながら酒を飲む姿はまるで愛剣に語り掛ける剣士のそれ、御病気はまだ完治なさっていない様です。

「それじゃ出発するよ。」
村長代理の掛け声と共に走りだす馬車。隣村に行く途中にはグラスウルフの草原があるんだよな~、行きたくないな~。えっ、今は冬眠中だからまずいない?冬場の街道は結構安全と、なるほど。この時期に四箇村を回るって言うのにはそれだけの理由があったんですね、納得です。
いずれ行かねばならぬなら、なるべく安全な時期がいい。ケビン少年は気持ちを切り替え、隣村に向けて進んで行くのでした。
あ、途中でキャタピラーがいたら捕まえてもいいですか?何をするのかって?実はですね。
ケビン少年とドレイク村長代理の楽しい会話は、隣村に到着するまで続いて行くのでした。

―――――――――――――――――

「ベネットおばあさんにはすでに物は確認して貰って幾つか試し用の糸を作って頂いたんですよ。」
そう言いカバンの中から棒に巻き付けた糸玉を取り出すケビン君。私はその様子に驚きから暫し固まってしまった。魔物素材の糸、それはこの国でも広く使われる繊維の一つ、特に今ケビン君が取り出したキャタピラーの繊維糸は最も多く出回っている繊維の一つであろう。その作製方法は単純で最下層魔物の一つであるキャタピラーの糸袋を集め釜ゆでにして繊維を取り出し、糸車でり合わせながら巻き取ると言うもの。キャタピラー自体草原や浅い森、林などに普通に生息しているうえに攻撃力も皆無、子供でも倒せる魔物と言う事で冒険者や街の子供たちの小遣い稼ぎに狩られていると聞く。
そんなに捕まえてしまっていては普通はすぐに絶滅しそうなものだが、キャタピラーは繁殖力が旺盛で割りと短期間に成体になる為、絶滅したと言う話しは聞いた事が無い。ただ生息地域はスライムほど広くはない為マルセル村周辺では見る事は出来ない。どう言った条件で生息域が決まっているのかは謎である。

そんな生活に密着した魔物キャタピラーを養殖したとしよう。食用でない以上目的は糸袋であろう。その糸袋を取り出し村の産業にするのにどれほどのキャタピラーが必要なのか。事業としての生産性はどれほどなのか。
私がそんな事を考えているとケビン少年はそうではないと言い出した。

「キャタピラーを一々殺してしまうなんてもったいない。そんな事をしなくても糸は取れるじゃないですか。」
ケビン君はそう言うともう一度この糸をよく見て欲しいと言って糸玉を指差した。
ケビン君が渡してきた糸玉。キャタピラーの糸玉・・・ん?もしかしてこれは。
私の顔を見て気付きましたねと言った表情でニヤリと笑うケビン君。
これは、攻撃糸の糸玉。キャタピラー繊維には三種類の糸があるとされている。糸袋から取り出させた通常の糸、最も広く流通し、村人たちが着る衣類もほとんどがこの繊維を使った布で作られている。次に粘着繊維を使った糸、これはキャタピラーが罠や攻撃手段の一つとして用いる繊維で、収縮性に優れるが流通量が少なく貴族の下着などで愛用されている品である。三つ目が同じくキャタピラーが攻撃時に使う繊維で耐久性に優れ冒険者の防具の素材などに使われる品である。その性質上通常の繊維をキャタピラー糸、粘着繊維を収縮糸、耐久性の優れた糸を攻撃糸と分類している。

「攻撃糸は何も殺さなくても手に入るんです。ただこの攻撃糸を作るのにも魔力が必要みたいでしてね。今は実験的に癒し草を与えてみていますが、これでは普通の生産には向かない。新たにその辺で手に入る魔力豊富な植物を見つける必要があるんです。その植物がキャタピラーの食性に合うかどうかの検証も必要ですから、結構時間が掛かると思うんですよ。ビッグワームやホーンラビットは食用ですしいくらでも増えるから割りと簡単ですが、キャタピラーは研究結果次第ですね。」
そう締め括り草原に目をやってキャタピラーを探すケビン君。君は気が付いているのかね?とんでもない事をしようとしている事を。
ケビン君の試みが成功すればグロリア辺境伯領に新たに繊維産業が生まれる事になる。これは辺境の一地域が抱えていい秘密ではなくなってしまう、それこそグロリア辺境伯の庇護下に入らなければ村の命が危うくなる、それほどまでの秘密。
ケビン君、君の言う事が本当なら収縮繊維も生産できると言う事かね?
私の問い掛けにケビン君は肩をすくめながらこう答えた。

「村長代理、欲を掻くと命が短くなりますよ。攻撃糸だけならいい、上手い事キャタピラーを怒らせる方法が見つかった事にすればいい。実際その方法は見つかりましたしね。キャタピラーってどうもゴブリンが大っ嫌いみたいなんですよ、以前商人さんに頼んで仕入れてもらったゴブリンの腰巻、畑の害獣避けに使えないかと思って保管していたんですけどね、あれに向かって目茶苦茶攻撃糸を飛ばしてましたから。おそらく野生のものでも同じだと思いますよ、キャタピラーにとっての天敵なんでしょうね。
でも収縮糸はいけない。貴族が絡んだら終わりです。細く長く、それが辺境の村の生き方ですって。」

ケビン君、君って本当に何者?
私の考えた危険性にはすでに気が付いていてその為の代替案もすでに用意している。その上で危険なモノには手を出さない。中々出来る事ではない。
人は利益には弱いものだ、成功、名声、一見良さそうなものが人生を転落させる罠になる。私はあのマルセル村でその事を嫌と言うほど学んだ。あの村はそんな罠に嵌り逃げ出した者が最後に辿り着く場所。
ケビン君はその事を誰に教わるでもなく肌で感じ学習したのだろう。そう思えば彼の普段からの言動も理解できる。
ホーンラビットの間引きに誘った際に彼が言った言葉。
”そんな危険なマネしないで罠を掛けましょう。”
”冒険者が大型の魔獣討伐の時に薬を使って弱らせたり矢じりに毒を塗って仕留めたりって話しを聞きました、痺れ薬でも作って弓で仕留めた方が良くないですか?”
全てがいかに身の安全を守るかと言う一点に集約している。彼は知っているのだ、己の弱さを。いかに力があろうとも人はすぐに死んでしまうと言う事を。そしてそれは何も直接の戦闘ばかりじゃない、集団が、権力が、社会が殺しに来ることがあると言う事を。
己を知り、決して表には出ず、自身の安全をそして周りの者の安全を第一に考える少年ケビン君。でも君は気が付いているのかい、君の優秀さは決して辺境で隠れている事が出来ないほどのものだと言う事を。君の才能は周りの人々を惹き付けて止まないと言う事を。

今も子供らしくキャタピラーを探すケビン君、願わくば心優しい彼がいつまでも自由な心でいられます様に。
村長代理ドレイク・ブラウンは、マルセル村の隠れた英雄ケビンの未来が彼の望んだものになることを願わずにはいられないのでした。
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