赤獅子皇帝の花嫁

桃源郷

文字の大きさ
上 下
69 / 72
本編

前夜

しおりを挟む
「ルナ」

ノックをして入ってきたのはレオンだった。
彼がいたから、ステラも気兼ねなく外に行けたのだろう。レオンに呼ばれて、視線をそちらに向け立ち上がりながらそう思う。
お辞儀をしようとすれば、片手で止められた。

「いい。今は貴方と私だけだ。」

「・・・はい。」

無言で促されて二人で丸テーブルを挟み向かい合って座る。
この宿は、貴族御用達なだけあって一室が広い。テーブルやソファもあってくつろげる空間だが目的があるためにくつろぐとまではいかなかった。

「ルナ大丈夫か?」

レオンが心配そうにこちらを見る。

(・・・サベージの事か、ノクスの事か。どちらを言っているのでしょう?)

一瞬どちらか迷ったが、レオンなら両方の事を言っているのだと気づいた。

「・・・・・大丈夫、ではありませんわ。私自身、情け無さに思うところがありますもの。」

「そうだな。」

レオンはそれ以上何も言わずに肯定した。励ますでもなく、正論を言うでもなくただ肯定した。その事にありがたく思う。なんの根拠もなく心配するなと言うのは簡単だ。かといって分かっている事を改めて言われるのもなんとも言えない気持ちになる。だから、ただ肯定してくれたのにありがたく思ったのだ。

そんな事に、こんな状況にも関わらず心が温かくなる。しかし、それに罪悪感を覚え手持ち無沙汰になってしまった。

(ノクスは今も苦しんでるのに!気を緩めてはいけないわ!ルナリア。)

そう思い服を握りしめた手を見つめる。
その際視界の端にテーブルが目に映り、レオンにお茶を出していないのを思い出した。

「お茶をお出ししますね。」

無言の空気の中ソワソワと動き始める。何かしていなければ、落ち着かないのだ。
ステラが作ってくれた紅茶が入ったティーポットから紅茶をお出しする。

紅茶を出せば、レオンは一口飲んでこちらを見る。

「ルナ、私は今回の交渉で無条件降伏を提示しようと思う。」

何も言わずにただ話を聞く。皇帝であるレオンの決定ならばルナリアが言えることはない。

「まぁ、王家は権力を放棄させてカルチェレに送るがな。」

レオンはさらりと言うがルナリアはカルチェレという言葉に冷や汗がつたう。
カルチェレそれは、島そのものを監獄にしたものだ。この大陸の人ならば誰でも知っていて恐る場所だ。子供の頃から、親や学校でおそわるそれは一種の洗脳のような恐怖を刷り込ませる。

「・・・それは」

今度は言葉に詰まってしまった。

「それ相応の処置だろう。この国の状況、我が国への攻撃を考えれば罪は重い。」

そのまま何も言わず目を伏せるルナリアにレオンは淡々と言う。

「君の母国だろ?すまないな。冷酷な男とそしるか?」

笑ってみせるがそれはどこか自虐を含んでいる。それを読み取れるくらいには、共にいたのだ。

「いえ。・・・・私はこの国を母国などとは思っておりません。」

母が居なくなり追い出されたその日から母国は滅んだと思い生きてきた。だからその言葉は本心でレオンの視線を合わせてさらに言い募る。

「それに、レオン様が下した決断ならそれはより良い決断でしょう。甘言ばかりを言う指導者には、人はついていきません。時には、冷静に決めなければならないでしょう。私はレオン様を冷酷だとは思いませんわ。」

そのままレオンを見つめていれば、驚いたように目を丸くしてこちらを見てそれから、フフと笑った。

「・・・これだから貴方が好きだ。」

初めて見た表情で笑ったレオンに、先ほどの鬱々とした空気も忘れて息を飲んだ。
レオンはそう言って、丸テーブルの向かい側から身を乗り出してルナリアの頬を包み額にキスを落とす。

「では、私はもう一仕事して休むとするよ。ルナもしっかり休め。じゃあ、お休み。」

そう言ってレオンは部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】監禁ルートと病んで殺害ルートしかないヤンデレ攻略対象の妻になりました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
裏路地で破落戸に囲まれ、特にピンチでもない状況で前世の記憶が戻った私。恋愛小説『黒薔薇をあなたに捧ぐ』の悪役令嬢レオンティーヌだった。ヒロインを襲わせるはずの悪漢に絡まれた私は、自力で解決を試みた。だって、悪役令嬢を助けてくれるヒーローは登場しないもの。シモン侯爵家の一風変わった育られ方をした私は、貴族令嬢とは思えない戦いを繰り広げる。 物語の展開を回避すべく、攻略対象との婚約を解消しようとしたけれど……彼は私にご執心。美しい顔と甘い囁きで私を口説いて来る。 待って! この小説って、ヤンデレ攻略対象ばかりが出てくるお話じゃない?! 逃げられずに結婚まで押し切られたレオンティーヌは、溶けるほど溺愛される。物語はどうなっちゃうの? シナリオと強制力、仕事しなさいよ!! 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/01/09……小説家になろう、異世界恋愛 19位 2023/01/08……完結 2022/11/26……アルファポリス、女性向けHOT 35位 2022/11/23……カクヨム、恋愛週間 29位 2022/11/21……エブリスタ、恋愛トレンド 26位 2022/11/19……連載開始

処理中です...