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本編
前夜
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「ルナ」
ノックをして入ってきたのはレオンだった。
彼がいたから、ステラも気兼ねなく外に行けたのだろう。レオンに呼ばれて、視線をそちらに向け立ち上がりながらそう思う。
お辞儀をしようとすれば、片手で止められた。
「いい。今は貴方と私だけだ。」
「・・・はい。」
無言で促されて二人で丸テーブルを挟み向かい合って座る。
この宿は、貴族御用達なだけあって一室が広い。テーブルやソファもあってくつろげる空間だが目的があるためにくつろぐとまではいかなかった。
「ルナ大丈夫か?」
レオンが心配そうにこちらを見る。
(・・・サベージの事か、ノクスの事か。どちらを言っているのでしょう?)
一瞬どちらか迷ったが、レオンなら両方の事を言っているのだと気づいた。
「・・・・・大丈夫、ではありませんわ。私自身、情け無さに思うところがありますもの。」
「そうだな。」
レオンはそれ以上何も言わずに肯定した。励ますでもなく、正論を言うでもなくただ肯定した。その事にありがたく思う。なんの根拠もなく心配するなと言うのは簡単だ。かといって分かっている事を改めて言われるのもなんとも言えない気持ちになる。だから、ただ肯定してくれたのにありがたく思ったのだ。
そんな事に、こんな状況にも関わらず心が温かくなる。しかし、それに罪悪感を覚え手持ち無沙汰になってしまった。
(ノクスは今も苦しんでるのに!気を緩めてはいけないわ!ルナリア。)
そう思い服を握りしめた手を見つめる。
その際視界の端にテーブルが目に映り、レオンにお茶を出していないのを思い出した。
「お茶をお出ししますね。」
無言の空気の中ソワソワと動き始める。何かしていなければ、落ち着かないのだ。
ステラが作ってくれた紅茶が入ったティーポットから紅茶をお出しする。
紅茶を出せば、レオンは一口飲んでこちらを見る。
「ルナ、私は今回の交渉で無条件降伏を提示しようと思う。」
何も言わずにただ話を聞く。皇帝であるレオンの決定ならばルナリアが言えることはない。
「まぁ、王家は権力を放棄させてカルチェレに送るがな。」
レオンはさらりと言うがルナリアはカルチェレという言葉に冷や汗がつたう。
カルチェレそれは、島そのものを監獄にしたものだ。この大陸の人ならば誰でも知っていて恐る場所だ。子供の頃から、親や学校でおそわるそれは一種の洗脳のような恐怖を刷り込ませる。
「・・・それは」
今度は言葉に詰まってしまった。
「それ相応の処置だろう。この国の状況、我が国への攻撃を考えれば罪は重い。」
そのまま何も言わず目を伏せるルナリアにレオンは淡々と言う。
「君の母国だろ?すまないな。冷酷な男と謗るか?」
笑ってみせるがそれはどこか自虐を含んでいる。それを読み取れるくらいには、共にいたのだ。
「いえ。・・・・私はこの国を母国などとは思っておりません。」
母が居なくなり追い出されたその日から母国は滅んだと思い生きてきた。だからその言葉は本心でレオンの視線を合わせてさらに言い募る。
「それに、レオン様が下した決断ならそれはより良い決断でしょう。甘言ばかりを言う指導者には、人はついていきません。時には、冷静に決めなければならないでしょう。私はレオン様を冷酷だとは思いませんわ。」
そのままレオンを見つめていれば、驚いたように目を丸くしてこちらを見てそれから、フフと笑った。
「・・・これだから貴方が好きだ。」
初めて見た表情で笑ったレオンに、先ほどの鬱々とした空気も忘れて息を飲んだ。
レオンはそう言って、丸テーブルの向かい側から身を乗り出してルナリアの頬を包み額にキスを落とす。
「では、私はもう一仕事して休むとするよ。ルナもしっかり休め。じゃあ、お休み。」
そう言ってレオンは部屋を後にした。
ノックをして入ってきたのはレオンだった。
彼がいたから、ステラも気兼ねなく外に行けたのだろう。レオンに呼ばれて、視線をそちらに向け立ち上がりながらそう思う。
お辞儀をしようとすれば、片手で止められた。
「いい。今は貴方と私だけだ。」
「・・・はい。」
無言で促されて二人で丸テーブルを挟み向かい合って座る。
この宿は、貴族御用達なだけあって一室が広い。テーブルやソファもあってくつろげる空間だが目的があるためにくつろぐとまではいかなかった。
「ルナ大丈夫か?」
レオンが心配そうにこちらを見る。
(・・・サベージの事か、ノクスの事か。どちらを言っているのでしょう?)
一瞬どちらか迷ったが、レオンなら両方の事を言っているのだと気づいた。
「・・・・・大丈夫、ではありませんわ。私自身、情け無さに思うところがありますもの。」
「そうだな。」
レオンはそれ以上何も言わずに肯定した。励ますでもなく、正論を言うでもなくただ肯定した。その事にありがたく思う。なんの根拠もなく心配するなと言うのは簡単だ。かといって分かっている事を改めて言われるのもなんとも言えない気持ちになる。だから、ただ肯定してくれたのにありがたく思ったのだ。
そんな事に、こんな状況にも関わらず心が温かくなる。しかし、それに罪悪感を覚え手持ち無沙汰になってしまった。
(ノクスは今も苦しんでるのに!気を緩めてはいけないわ!ルナリア。)
そう思い服を握りしめた手を見つめる。
その際視界の端にテーブルが目に映り、レオンにお茶を出していないのを思い出した。
「お茶をお出ししますね。」
無言の空気の中ソワソワと動き始める。何かしていなければ、落ち着かないのだ。
ステラが作ってくれた紅茶が入ったティーポットから紅茶をお出しする。
紅茶を出せば、レオンは一口飲んでこちらを見る。
「ルナ、私は今回の交渉で無条件降伏を提示しようと思う。」
何も言わずにただ話を聞く。皇帝であるレオンの決定ならばルナリアが言えることはない。
「まぁ、王家は権力を放棄させてカルチェレに送るがな。」
レオンはさらりと言うがルナリアはカルチェレという言葉に冷や汗がつたう。
カルチェレそれは、島そのものを監獄にしたものだ。この大陸の人ならば誰でも知っていて恐る場所だ。子供の頃から、親や学校でおそわるそれは一種の洗脳のような恐怖を刷り込ませる。
「・・・それは」
今度は言葉に詰まってしまった。
「それ相応の処置だろう。この国の状況、我が国への攻撃を考えれば罪は重い。」
そのまま何も言わず目を伏せるルナリアにレオンは淡々と言う。
「君の母国だろ?すまないな。冷酷な男と謗るか?」
笑ってみせるがそれはどこか自虐を含んでいる。それを読み取れるくらいには、共にいたのだ。
「いえ。・・・・私はこの国を母国などとは思っておりません。」
母が居なくなり追い出されたその日から母国は滅んだと思い生きてきた。だからその言葉は本心でレオンの視線を合わせてさらに言い募る。
「それに、レオン様が下した決断ならそれはより良い決断でしょう。甘言ばかりを言う指導者には、人はついていきません。時には、冷静に決めなければならないでしょう。私はレオン様を冷酷だとは思いませんわ。」
そのままレオンを見つめていれば、驚いたように目を丸くしてこちらを見てそれから、フフと笑った。
「・・・これだから貴方が好きだ。」
初めて見た表情で笑ったレオンに、先ほどの鬱々とした空気も忘れて息を飲んだ。
レオンはそう言って、丸テーブルの向かい側から身を乗り出してルナリアの頬を包み額にキスを落とす。
「では、私はもう一仕事して休むとするよ。ルナもしっかり休め。じゃあ、お休み。」
そう言ってレオンは部屋を後にした。
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