訳あり新聞部の部長が"陽"気すぎる

純鈍

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第6話 真横から見えない巨大な仏像の謎

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 ◆ ◆ ◆

 早くも日曜日になった。

「なんで俺が……」

 車の運転席に座って、ぼそりと文句をこぼす人がいる。――長谷川先生だ。

「先生、僕たちのためにありがとうございます」

 助手席に座った甲斐枝部長の声は嬉しそうだ。
 本日の天気は快晴で、じつに校外活動日和である。

『部活動を認めてもらうためには頻繁に活動し、やっていることを証明すること。そうおっしゃるのに、先生は休日の校外活動には参加してくださらないんですか?』

 金曜日の放課後、私は部長のその言葉が長谷川先生を仕留めたところをこの目で見た。
 先生はぐぬぬっと唸ったものの、顧問として仕方がないと思ったらしく渋々、訳あり新聞部の校外活動の引率を引き受けた。
 部長の口車に乗せられた、ともいう。

 ザ・学校の先生の力。長谷川先生からの説明により、私も両親からの許しをもらうことができ、校外活動に参加することになった。

 別に私は行けなくてもよかったんですけど。
 こわいから。

 私の隣に部長じゃなくて田中くんが座ってるのも気になる。
 だって、なんかすごいこっち見てくるんだもん。
 やっぱり、私、なにか悪いこと言ってしまったかな?

「はぁ……。で、どこに向かうんだっけか?」

 深いため息と共に長谷川先生が目的地を確認する。

町中村まちなかむらだよね?」
「そうです」

 甲斐枝部長もちゃんと目的地を覚えていなかったみたいだ。
 部長が質問して、田中くんが答える。

「曖昧だな。町中村か。町なのか、村なのか分からないな」

 ぼそりと言いながら、先生は目的地へと車を走らせた。
 ラジオもかけず、どんどん進んでいくと徐々に周りから建物が消えていく。
 あるのは田んぼと森林だけ。
 たまにぽつんと家が建っていたりするけど、こんなところに村なんかあるのだろうか、と思ってしまった。

「あれです! あれが例の仏像です!」

 どのくらい走っただろうか、突然、田中くんが森のほうを指差した。

「これはすごい大きな仏像だ……」

 助手席側の窓から外を見て、部長が驚きの声をもらす。
 私からも木々の間にそびえ立つ仏像の背中は見えていた。
 何メートルじゃなくて何十メートルもある。

「あれ? 見えなくなった……。なんで?」

 でも、真横にさしかかったときに急に仏像が見えなくなって、私は驚いてしまった。
 聞いてたけど、実際に見たらやっぱりびっくりする。

「あ、また見えた」

 真横を抜ければ、今度は仏像の正面が車の斜め後ろに見えて、また私は声を出してしまった。

「薄っぺらいんだね。紙みたいだ」

 そう言ったのは部長だ。「そうなんです」と田中くんが頷く。
 たしかに、紙みたいに薄ければ、この現象は説明できるかも。
 ただし、どうやって立ってるのか不思議なくらいとんでもなく大きな紙だけど。

「でも、僕たちを見てないし、笑ってもないね」

 そう部長が言うように、斜め後ろに見える仏像は田中くんの話とは違って、目を閉じるように細めていて、真顔に近い表情をしていた。口角も上がっていない。

 厚さが薄い以外は普通の仏像と変わらないように見えた。

「おい、さっきから、なに訳分からないこと言ってるんだ?」

 ハンドルを握って運転をしている長谷川先生だけが話について来れていなかった。
 たぶん、そもそも仏像が見えていないみたい。
 見えないまま、仏像がどんどん遠ざかっていく。

「先生、きっと心の汚い大人には見えないんですよ」
「なんでだよ、大人だって純粋な心捨ててねぇわ」

 子供にだけしか見えないと判断した甲斐枝部長と仏像が見えなくて少し悔しがる大人な長谷川先生。
 私も大人になったら怪異が見えなくなるのかな? 
 そうなることを心から望んでるんですけど。

「村の看板か?」

 ふと車のスピードを落とし、長谷川先生が言う。
 前方に古い木の看板が立っている。
 横書きでなにか書いてるけれど、字がかすれていて読めなかった。

「そうです、ここが村の入口になります」
「ここが村の入口? あとは、そこを歩いて行くってことかな?」
「はい」

 看板横のちょっと木々が生い茂っている山道を見て、田中くんと甲斐枝部長が話している。
 そんな二人の会話を聞いて

「ここか。……んー」

 長谷川先生は車を道路脇に移動して停車し、大きな伸びをした。
 運転に疲れたのだろう。

「先生、運転おつかれさまでした」

 部長が先生に声をかけ、横を向く。
 でも、すぐに不思議そうな顔をして「あれ? 長谷川先生、寝てる」と言った。

 目的地に着いたから仮眠に入ってしまったのだろうか?
 顧問なのに?

「朝早かったですからね、先生も疲れてらっしゃるんでしょう」

 田中くんが先生をフォローするように言う。

「そうだね、疲れてるだろうね」

 部長も先生をフォローしようとしてるのか、他人事みたいに言うけれど、一番疲れさせてるのは甲斐枝部長だと思う。

「可哀想だから寝かせておいてあげよう」

 そんなふうに言ってしまうあたり、部長には自覚がなさそうだ。

「じゃあ、僕たちだけで行きましょう。大丈夫ですよ、町中村は僕の故郷ですし、ちゃんと案内もできますから」

 田中くんは冷静な口調でそう言って、車からおりた。
 次いで部長も黙っておりていくので、私も車からおりた。
 外は心なしか私たちが住んでいる場所より気温が低い気がした。
 自然が多いからか、ひんやりしている。

「部長、本当に先生を置いていっても大丈夫でしょうか?」

 ずんずん村の入口に入っていく田中くんの背中を見ながら私は小さな声で甲斐枝部長に問いかけた。

「うん、先生なら一人でも大丈夫だろう」
「いえ、そっちじゃないんですけど」

 ――私たちが先生なしで大丈夫かってことなんですけど。

 田中くんを追いながらあっさり答えた部長に私は冷たく言ってしまった。
 でも……

「大丈夫、大丈夫」

 部長はそれしか言わなかった。
 いつも陽気でへんだけど、今回ばかりは取り憑かれてるのかなって思ってしまうほど陽気すぎる気がする。

「こっちです」

 田中くんは足を止めずにどんどん整えられていない道を進んでいく。
 すると、急に少し拓けた場所に出た。
 古い木造の家が何軒かかたまって建っている。
 でも……
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