訳あり新聞部の部長が"陽"気すぎる

純鈍

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第4話 体育倉庫の綺麗好き嫌いさん

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「「「あ……」」」

 蛍光灯が割れて、三人の口からほぼ同時に声がもれた。

「あ、でも、消えた」

 蛍光灯が割れた瞬間だったのか、少ししてからだったのか分からないけれど、気付いたら女の人が消えていた。

「しまったな、とりあえず、このちりとりに集めて……」

 やっちゃった、という顔をしながら部長が蛍光灯の破片をホウキで集めていく。
 それ、ホウキ大丈夫なんだろうか? と思ったけれど、もう止めるべきときは過ぎてしまった。

「ん? あれ、出た。怒ってる」

 すぐに体育倉庫の床は綺麗になって、気付くと角にまた女の人がこわい顔で立っていた。

「もしかして……!」

 ハッとなった部長が行動に出る。

「「あ……」」

 私と立花さんの声が重なった。

 少し離れた場所で部長がパリンッと蛍光灯をわざと割ったのだ。
 降り注ぐ、蛍光灯の破片。
 良い子は真似してはいけないやつ。

 でも、女の人は消えていた。

「なるほど、分かったよ。彼女は綺麗な場所が嫌いなだけなんだ」

 ひとり納得したように部長は言った。

「立花さんが体育倉庫を綺麗にしすぎてしまって怒った、と?」
「そういうこと。だから、少し汚しておけば、彼女は現れない」

 私の問いにうんと頷いて、部長は立花さんを見た。
 彼女はなんとも言えない表情で固まっていた。
 まさか、自分の掃除が理由とは思わなかったのだろう。

「さすがに蛍光灯の破片をそのままにしておくわけにはいかないから、ボールの一個でも転がしておくかな。いや、でも誰かが気付いて片してくれたときにトラップにはまったみたいになってしまうな」

 またぶつぶつなにかを考えるように呟く甲斐枝部長。
 そして

「分かった。これをこうだ」

 急に思いついたように柱を登って、上のほうにUNOの赤のスキップカードを挟み込んだ。
 たしかに、これならすごい見上げないかぎり誰も気付かないだろう。

「なんかお札みたいですね。でも、それ、一枚なくなっても遊べるんですか?」

 ついつい気になってしまった。
 一枚なくして、カードゲームとしての機能はなくならないのだろうか?

「トランプとは違うからね。赤を集めてしまった人がちょっと不利になるかもだけど、一枚くらいなくなっても大丈夫だよ。これは僕の私物だし」

 陽気に笑いながら先輩はぴょんっと飛んで床に降り立った。

 このあと、UNOのスキップカードは無事に無駄な汚れと判断されたらしく、蛍光灯の破片を片付けても彼女が現れることはなかった。

「ありがとうございました。これからはあまり掃除をしすぎないように気をつけます」

 体育倉庫のシャッターを閉めたところで立花さんは私たちに頭を下げて去っていった。

「さて、小森くん、僕たちも戻ろうか」

 笑顔で振り向く甲斐枝部長。

 すべて終わったみたいな顔してますけど、部長、私、忘れてませんから。
 
「部長、どうしますか、この蛍光灯」

 私はちりとりに入った蛍光灯の破片を部長に見せつけて言った。
 体育倉庫の蛍光灯が二本も割れていれば、そのうち誰かには気付かれることだろう。
 それに私が訳あり新聞も書くのだから、察しのいい長谷川先生なら甲斐枝部長がやったと分かるはずだ。

「訳あり新聞に幽霊が割ったこととして書いては……くれないよな」

 ――声ちっさ。

 こちらを伺いながら部長はそんなことを言ったけれど、ダメだと分かっているのだろう。

「長谷川先生にはバレると思いますよ?」

 私は部長を甘やかさなかった。
 蛍光灯を割ったのは部長だ。

「そう、だよな……」

 蛍光灯割り犯の部長が深いため息を吐いたと思ったら、今度はパッと顔を上げた。

「小森くん、今回の見出しは“体育倉庫の綺麗好き嫌いさん”にしよう?」

 急に明るい口調で言う部長。

 ――あ、逃げた。

「分かりましたけど、ちゃんと正直に言いに行ったほうがいいです。正直に言えば、きっと長谷川先生も許してくれますよ。私も一緒に行きますし」

 まるで警察に自首に行くように犯人を説得してるみたいだ、と自分で言っていて思った。

「……わかった」

 最終的に部長は小さい子が観念したときみたいに頷いた。
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