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先輩、俺と付き合ってみますか?ver.初めての大皿料理DX

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 ◆ ◆ ◆

 体育祭は白組の勝利、という結果で幕を閉じた。

 今日は疲れただろうし、足の怪我も心配だし、先輩に夕飯を作りに来てもらうのは申し訳なくて、俺から『今日の夕飯は一人で食べます。怪我が治るまでは明日からも来なくて大丈夫です』というメッセージを送った。

 いつもは『そうか』とか『分かった』とか素っ気ない返信がすぐに来るが、今日はそれすらもなかった。

 だが、俺は今、先輩と共に彼の家の前にいる。

「そんなとこに突っ立ってないで早く入れよ」

 いや、気が付いたら、先輩はそんなことを言いながら、先に玄関の扉を開けて家の中に入ろうとしていた。先輩の家はこの辺りでは見掛けるのが珍しくなった木造建ての古い一軒家だった。二階建てだが、先輩の家は家族が多いからこれでも狭いのかもしれない。

「お邪魔します」

 そろりと先輩のあとを追って中に入る。入った瞬間、俺は騒がしい音に包まれた。

「寬太! そこ片付けて!」
「やだー」
「奈央、テーブル拭いて」
「はいはい」

 部屋の中を俺よりも小さい子たちが動き回っていて、誰が何を言っているのか分からない。

「おかえり、莉央」

 そして、台所からひょこっと顔を出したこの人は……先輩のお母さん?

「ごめんね、今日行ってあげられなくて」
「いい、別に。こいつの親も来てなかったし。高校になって来る親、あんまいねぇし」

 申し訳ない表情をする母親に対して、後ろに立つ俺を差しながら静かに言う先輩。ここで初めて、先輩のお母さんは俺に気付いたようだった。

「あれ、お友達? 珍しい。どうしたの?」
「足怪我して、後輩に送ってもらった」

 先輩はさらっと説明しているが、そういうことで俺はここにいるのだ。

 あの時、先輩からの返事が来ないことに不安を覚えた俺は、何か先輩を怒らせるようなことを言っただろうか、素っ気ない態度を取ってしまったから? と少し落ち込みながら校門に向かった。

 すると、そこには先輩が立っていて、友人でも待っているのだろうと俺がスルーしようとしたら、まさかの先輩が待っていたのは俺で、急に「俺んちに来い」と言われたのである。

 付き合うことはない、と言ったのに、やけに積極的だなと思えば、先輩は「歩きづらいから、たまには先輩にパシられろ」と言い、俺は先輩をタクシーに乗せて家まで送ってきた。

 まあ、先輩は俺に身体を支えてもらって、電車で帰ってこようと思っていたに違いないが、俺には将来の成果を対価とした魔法のカードがある。普段、無駄遣いしない代わりに、ここで全力で使わせてもらった。先輩はまた怯えたような眼差しをしていた。

「初めまして、盛満 傑です。お邪魔します」

 俺はぺこっと先輩のお母さんに頭を下げた。

「莉央の母です。莉央のこと、ありがとう。大変だったでしょ? 良かったら、夕飯食べていって」

 そう言って笑う彼女と先輩は雰囲気が似ている。

「良いんですか?」
「良いよ、良いよ。だけど、二人は先に……」

 そこで言葉を途切れさせて先輩のお母さんが俺を上から下まで見た。一体なんだろうか?
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