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仲里鈴音は死んでない✽.。.:*・゚
①
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ある平日の夕方、家のインターホンが鳴った。
「はい、どちらさまですか?」
お母さんが出て、私も後ろから様子を伺う。
また、お母さんのお友達かと思ったけど、明らかに雰囲気が違った。
なんだか、空気が重苦しい。
「突然、失礼します、私、こういった者ですが」
カメラに映る警察手帳。
警察官の制服。
すぐにお姉ちゃんのことだと分かった。
あれから何ヶ月も経ってるけど、きっと新しい情報が入ったんだ。
「いま行きます」
お母さんが玄関に向かう。
私は怖くて、リビングに残った。
でも、扉は開いてて、話は聞こえる。
「失礼します」
玄関の扉が開く音の次におまわりさんの声が聞こえてきた。
しんと静まった空間に声だけが響く。
「娘さんのことなんですが、自殺ではありませんでした」
ずしんと心に来る言葉だった。
「え……」
思わず、自分の口から声が漏れる。
お姉ちゃんが自殺じゃなかったって?
「小学一年生の子で、一人で土手で遊んでいて、川に転げ落ちてしまったそうなんです。それで溺れていたところを娘さんが助けてくれたと」
ドクンドクンと私の胸が鳴る。
おまわりさんは続けた。
「その子とお母さんが、謝罪とお礼をしたいと。――よろしいですか?」
「……はい」
私のお母さんは断ることも出来たのに、おまわりさんの言葉を受け入れた。
その会話を聞いて、私はこっそりリビングから顔を覗かせた。
若いお母さんとまだまだ小さい男の子が玄関に立っていた。
向こうは私に気付いていない。
「息子を救ってくださってありがとうございました……。怖くて言えなかったそうなんです。申し訳ありませんでした。大事な娘さんを……」
「いえ……」
深々と頭を下げる相手のお母さん。
私のお母さんはどんな顔をしてるだろう。
見えない。
でも、小さい子を救ったなんて、もう誰も何も言えないじゃん。
文句なんて言えない。
だって、お姉ちゃんはいいことをしたんだもん。
自分の命と引き換えに小さい子の命を救った。
あの子だって、何も悪いことはしてない。
事故だもの。
そう思うしかなかった。
お姉ちゃんは自殺じゃなかった。
それだけでよかった、って思うしかないじゃん。
「それでは、これで……」
終わりを告げるおまわりさんの声。
「あ、助けてくれたお姉ちゃんだ。ありがとう、お姉ちゃん」
気が付くと、男の子が私に手を振っていた。
男の子は分かっていないみたいだった。
分かるはずない。私たちはよく似てるから。
でも、私じゃない。私じゃないの。
そう思いながら、私は静かに手を振り替えした。
お姉ちゃんの代わりに。
「はい、どちらさまですか?」
お母さんが出て、私も後ろから様子を伺う。
また、お母さんのお友達かと思ったけど、明らかに雰囲気が違った。
なんだか、空気が重苦しい。
「突然、失礼します、私、こういった者ですが」
カメラに映る警察手帳。
警察官の制服。
すぐにお姉ちゃんのことだと分かった。
あれから何ヶ月も経ってるけど、きっと新しい情報が入ったんだ。
「いま行きます」
お母さんが玄関に向かう。
私は怖くて、リビングに残った。
でも、扉は開いてて、話は聞こえる。
「失礼します」
玄関の扉が開く音の次におまわりさんの声が聞こえてきた。
しんと静まった空間に声だけが響く。
「娘さんのことなんですが、自殺ではありませんでした」
ずしんと心に来る言葉だった。
「え……」
思わず、自分の口から声が漏れる。
お姉ちゃんが自殺じゃなかったって?
「小学一年生の子で、一人で土手で遊んでいて、川に転げ落ちてしまったそうなんです。それで溺れていたところを娘さんが助けてくれたと」
ドクンドクンと私の胸が鳴る。
おまわりさんは続けた。
「その子とお母さんが、謝罪とお礼をしたいと。――よろしいですか?」
「……はい」
私のお母さんは断ることも出来たのに、おまわりさんの言葉を受け入れた。
その会話を聞いて、私はこっそりリビングから顔を覗かせた。
若いお母さんとまだまだ小さい男の子が玄関に立っていた。
向こうは私に気付いていない。
「息子を救ってくださってありがとうございました……。怖くて言えなかったそうなんです。申し訳ありませんでした。大事な娘さんを……」
「いえ……」
深々と頭を下げる相手のお母さん。
私のお母さんはどんな顔をしてるだろう。
見えない。
でも、小さい子を救ったなんて、もう誰も何も言えないじゃん。
文句なんて言えない。
だって、お姉ちゃんはいいことをしたんだもん。
自分の命と引き換えに小さい子の命を救った。
あの子だって、何も悪いことはしてない。
事故だもの。
そう思うしかなかった。
お姉ちゃんは自殺じゃなかった。
それだけでよかった、って思うしかないじゃん。
「それでは、これで……」
終わりを告げるおまわりさんの声。
「あ、助けてくれたお姉ちゃんだ。ありがとう、お姉ちゃん」
気が付くと、男の子が私に手を振っていた。
男の子は分かっていないみたいだった。
分かるはずない。私たちはよく似てるから。
でも、私じゃない。私じゃないの。
そう思いながら、私は静かに手を振り替えした。
お姉ちゃんの代わりに。
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