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仲里さん、付き合ってくれないかな

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「ごめん、嘘、本当は知ってるんだ。仲里さんが他校の人と付き合ってること」

 間宮くんは悲しそうに笑いながら、そう言った。
 あんなに騒がれていたら、もしかしたら間宮くんも知ってると思ってたけど、やっぱり知ってたんだ。

「知ってて、どうして?」

 どうして、付き合ってなんて言ってきたの?

「まだ先だけど、僕の気持ちを隠したまま卒業したくなかったから。言葉にしなきゃ、僕が仲里さんを好きだったことは一生、君に知られることはない。知っていてほしかったんだ」

 路地を前にして、間宮くんが立ち止まる。
 真っ直ぐな子なんだな、と思った。 
 だから、ちゃんと返事をしてあげなきゃいけないんだ。

「ありがとう。でも、ごめんなさい。間宮くんとは付き合えない」

 この「ごめんなさいに」すべての謝罪を込める。
 嘘を吐いてごめんなさい。
 気が合わないなんて思ってごめんなさい。
 利用しようとしてごめんなさい。
 付き合えなくてごめんなさい。

「うん、はっきり言ってくれてありがとう」

 間宮くんは優しく笑った。
 彼はこの先、きっと素敵な恋をする。
 そんな気がした。

「帰ろうか」
「うん」

 二人で頷き合って、歩き出す。

 彼をフッたことによって、心のどこかが一つ欠けてしまった気がした。
 それに胸が落ち着かない。
悪いものじゃなくても、人に感情をぶつけられるってこんな感じになるんだ。

 ちょっとぼーっとしていたかもしれない。

「え?」

 気が付くと、正面から歩いてきた男子高校生に私は腕を掴まれていた。

「君、可愛いね、中学生?」
「ほんとだ、可愛い」
「何年生?」

 三人組で、私を囲う。茶髪で耳にはピアスで明らかに私とはタイプが違う世界の人たちだった。

「やめてください! その子から手を離せ!」

 すぐに間宮くんが私の腕を掴んでいる高校生の手を解こうとしてくれた。でも

「生意気だねぇ。お兄ちゃんさ、俺たちにお金くれない?」

 他の二人が間宮くんに怖い顔で詰め寄る。
 まだこんなことをする人たちがいるんだ。

「こんなことして恥ずかしくないんですか?」
「うるせぇな! 先輩に説教かましてんなよ!」
「うっ」

 注意した間宮くんの胸ぐらを掴んで、高校生の一人が彼を地面に転がした。

「間宮くん!」

 叫んだけど、間宮くんはなすすべがなくて、立ち上がれそうになかった。

「もうそいつはいいや、放っておこうぜ。君は俺たちと行こうな」

 間宮くんのことは転がしたままで、私の手を掴んで高校生たちはどんどん路地のほうに進んでいく。

「いや! やめてください! 離して!」

 抵抗したけど、元々人通りの少ない場所で、さらに路地に引きずり込まれて、誰も気付いてくれない。

 ――助けて! 颯馬くん!

 頭に浮かんだのは颯馬くんの顔だった。

「ぐはっ!」

 突然、一番後ろを歩いていた高校生が壁にぶつかって倒れた。

 何が、起こったの……?

 そう思って固まったのは、私だけではなかった。
 高校生たちが固まって見つめている先に彼はいた。

「颯馬くん……」

 怒りをあらわにした颯馬くんの姿を見て、心が震える。
 こんな表情の颯馬くん、見たことない。

「俺の彼女になにしてんだよ」

 静かな声がじりじりと高校生たちに近付いていく。

「なんだよ、お前。中学生が生意気なんだよ!」

 先に手を出したのは高校生だった。
 拳を颯馬くんの顔面めがけて勢いよく繰り出す。

「遅いな」

 それを軽々よけて、颯馬くんは高校生の腹部に蹴りを一つお見舞いした。

「うぐっ!」

 ドゴっという音と共に高校生がそこに転がる。

「こいつやべぇって!」

 一番最初に壁にぶつけられた高校生が逃げるように走り出した。

「うわあ!」

 次いで、私を掴んでいた高校生。そして「置いていかないでくれ!」と情けないことを言いながら、さっき地面に転がった高校生が逃げていった。

 お姉ちゃんが……、ううん、颯馬くんがこんなに強いなんて知らなかった。
 お姉ちゃんの面影なんて、一つもない。

「Aちゃん!」

 高校生が消えたのを確認して、颯馬くんは私に駆け寄ってきた。

「颯馬くん……」

 彼の顔を見て、私はそこにへたり込んでしまった。
 とても怖かった。

「大丈夫か? とりあえず、落ち着けるところまで連れていく」
「ひゃっ」

 ふわっと身体が浮いて、声がもれる。
 私のもとへ来た瞬間、颯馬くんは私のことをお姫様抱っこしたのだ。

「仲里さん! 大丈夫!?」

 少し遅れて路地に入ってきた間宮くんと目が合う。
 私を心配してこっちまで来てくれたんだ?

 でも、なんだか固まってる。
 颯馬くんを見てる?
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