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35.ある日『――の消えた日』
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新しい週が始まった。夕方、家に帰ってきたあつ子は酷く落ち込んでいた。
「あの子、有給使って暫く休むんですって……。部屋にも帰ってないみたいだし……、もしかして、このまま辞めてしまうのかしら?」
ソファに力無く座りながら、気の抜けたような表情であつ子が言う。後輩が居なくなったのだ。
「消える……つもりなのかもな」
俺は窓のこちら側から真っ暗な空を見つめて言った。消えるなって言ったのに、あの人は馬鹿なのかもしれない。
「アタシ、もっと話しておけば良かったわ」
窓にあつ子の姿が映っている。もう泣いてんのか、これから泣くつもりなのか、奴は両手で自分の顔を覆った。必死に次に掛ける言葉を探す。
「連絡、取れないのか?」
俺が振り向きながら問い掛けると「メールも電話も、その他も全部ダメ」とあつ子は顔を覆ったまま首を横に振った。
「なぁ、そんなに落ち込むなよ」
あつ子の横に移動して、必死に慰める。だが、俺だって、あの人が急に居なくなって動揺してて、悲しんでないわけじゃない。涙だって出ないわけじゃない。
「アタシがいけなかったのかしら……?」
記憶を思い起こすように顔を上げてあつ子が言う。
「そんなことねぇよ」
今はそれしか言えねぇ。だって、あつ子は後輩の家のことを知らねぇし、本人が話してねぇのに俺の口から勝手に言うわけにはいかねぇだろう。
あつ子には後輩に話していない秘密があって、後輩にはあつ子に話していない秘密がある。
「じゃあ、なんで居なくなったの……!」
「俺にも分かんねぇよ」
あつ子に縋り付かれて答えた俺の言葉に偽りは無い。奴が消えた本当の理由は分からない。家のことを解決しに行ったのだとしても、詳しいことは知らないのだから。
「あんた、あの人のこと本当に好きだったんだな」
いつも分かってた。いつだって、あんたはあの人のことを考えてた。イケメンだの何だの言って、ふざけてんのかと思ってたが、本当は恋愛対象として真面目に好きだったんだろう?
「……好き……だったわよ。なんだか、放っておけなかったの」
――なんだ、俺と一緒じゃねぇか……。じゃあ、俺のこの気持ちも恋愛対象としての感情なのか……? 放っておけねぇ=好き、なのか?
「どこに行くの?」
黙ってスッと立ち上がるとあつ子に腕を掴まれて引き止められた。
「止めんな」
そっとあつ子の手から逃れる。
「でも……」
涙目のあつ子が俺を見つめた。だが、その瞳に応えることは出来ない。
「好きなやつのため、だから」
背中を向けて、ただぼそりと言い、俺は部屋を飛び出した。
「ちょっと、やこ!」
そう聞こえた気がしたが、つま先だけに引っ掛けた靴をエレベーターの中でちゃんと履いて、そこから降りたらエントランスを出て走り出す。
目指す場所はとある道路だ。
俺は後輩の実家を知ってるわけでも、他に行きそうな場所を知ってるわけでもねぇ。ただ、今は暗くても夕方の六時半過ぎ、熱心な学生なら、部活を終えて帰ってくる頃だろう。
「見つけた!」
俺が道路に着いたとき、そこには黒いツヤツヤとした高級車が停まっていた。
ここは前に後輩の弟を見掛けた場所なのだ。
「すみません!」
「はい」
運転席の横から運転手に声を掛けたは良いが、よく考えてみれば、後輩の名前を知らないことに気が付いた。
「え、えっと……」
なんて言えば良いんだ?
なんて言えば分かってもらえる?
「あの……」
「どうした? 汐留」
俺が黙って悩み、運転手さんが困っているところで後ろから声がした。
「あ! 後輩の弟!」
勢い良く振り向くと、今サッカー部終わりました、なジャージ姿の後輩の弟が立っていた。
「ん?」
「俺のこと覚えてる?」
不思議がる弟にずいっと近寄る。頼むから分かってくれ!
「あ、兄貴の……えっと、やこ」
弟が無理矢理絞り出すみたいな言い方をする。どうして、名前を知ってるのか知らないが、俺の名前は靖彦だ。だが、今は訂正してる場合じゃねぇ。
「覚えててくれてありがとう。お兄さんに会って話しがしたいんだけど、力を貸してくれないか?」
「兄貴に? 良いよ」
「ほんとに!?」
意外とあっさりオーケーが貰えた。後輩の弟が「そのままで」と運転手さんに言って、自分で車の扉を開けてくれた。
「さあ、どうぞ」
「し、失礼します」
俺が乗って、弟が乗ってきて、扉が閉まって、すぐに車が走り出した。
――高級な匂いがする……。
「ふーん」
そう言ったのは弟だ。俺の顔を間近で見つめながら、まるで観察してるみてぇだ。
「なに?」
刺さる視線に堪えきれなくなって、思わず尋ねてしまった。
「目付き悪いね」
「生まれつきなもんで……」
聞かなきゃ良かった。俺、この目付きの所為で友達居ねぇのかな……。(※今さら)
「兄貴は君のどこが良いのかな……」
「へ!?」
ぼそりと言われて、大きな声を出してしまった。どうして、後輩が俺のことを気になっていると知っているのか……、まさか、兄貴のことを探偵を使って調べ上げたんじゃ……?
「兄貴、いっつも君の話ばかりしてたよ。だから、つまらなくなって俺は家に戻った。庶民の体験は楽しいのに」
ああ、なんだ、自分で話してたのか。というか、本当に金持ちの坊ちゃんって感じの話しするんだな、弟は。
つーか、それって嫉妬じゃね? 兄貴に興味持ってもらえないからって実家戻るって……。
「お兄さんは君と仲良くゲームがしたかった、とか俺に言ってたけど?」
しかも至近距離で。
「それほんとに?」
「本当だって、なんで疑うんだよ?」
自分の兄貴なのに、何を疑う必要があるのか。
「兄貴、俺のこと嫌いなんだと思ってた……」
信じられないという風に弟がぼそりと言った。
「何言ってんだ。洗濯んとき……えっと、最初に君と会ったときもお兄さんは君の優しさに気付いてたし、素直じゃないって言いながら喜んでたよ」
この兄弟、仲悪かったのか? 俺にはどっちもお互いに大事にしてるように見えたんだが?
「そう、か……。――そうだ、俺、未幸(みゆき)、宜しく」
「あ、え、靖彦だ、宜しく」
急に挨拶だし、なんで下の名前か知らねぇけど、人と握手とかしたことねぇから照れ臭いな。コミュ障が出ちまうぜ。
「あれ? やこじゃないんだ?」
「それはあだ名みてぇなもん」
「ふーん、じゃあ、靖彦――」
なんか誰も俺のこと正式名称で呼ばねぇから新鮮だな。
「今度、俺と遊んでよ」
「へ?」
暢気なこと考えてたら、未幸が自分の兄貴みてぇなことを言ってきた。勘違いでも忌み嫌い合ってる割には似てんじゃねぇかよ!
「これ、恩だから」
「いや、部活忙しいだろう?」
どうにか回避しようとする俺、を「なんとかする」と躱す未幸。回避に回避を被せてくんじゃねぇよ。
「なんとかするって、そんな無理矢理時間作んなくても……」
「ちゃんと兄貴のとこまで連れて行ってやるから、俺に恩返ししろ」
なんか、急にこのお坊ちゃん、俺様出してきたんだが? 意味分からヌンティウスなんだが?
「ま、まあ、そのうち」
俺の得意の『まあ、そのうち』攻撃!
「じゃあ、連絡先教えて」
――んだよ、この流れ。
そう思ったが後輩に辿り着くためには仕方ねぇと思って、未幸と連絡先を交換した。そしたら、いつの間にか、車は未幸の家に着いていたらしく「よし、じゃあ、ついてきて」と車の外に連れ出された。
大きな家だな。外側を見て西洋の城かと思ったぜ。どこもかしこも、装飾ばっかで、美術館みてぇにも見える。
玄関を開けて中に入ると、執事とメイドが立っていて、マジでビビった。こんなんフィクションの中だけの存在だと思ってた。
「おかえりなさいませ、未幸坊ちゃま」
「ただいま」
スッと未幸が人の横を通っていく。俺は軽く頭を下げて、彼の後を追った。
「そこ、兄貴の部屋」
階段を上って、三個くらい扉を過ぎたところで未幸が俺の横の扉を指差した。
「へ? ここ?」
「そう、じゃ頑張って」
俺だけを残して、片手を上げた未幸はそのまま先に歩いて行ってしまう。
「ありがとう」
礼を言う俺の声は彼に届かなかったかもしれない。
「兄貴は気に掛けてくれるやつが居て羨ましいな……」
廊下を歩いて行くときに未幸がそんなことを言っていたように聞こえた。
コンコンッ
「はい」
未幸が去ってから扉を叩くと、中から小さく返事が聞こえてきた。何を話せば良いのか分かんねぇけど、とにかく、何か話さないとだよな。
「失礼します」
後輩の部屋に入るのに扉の高級さの所為なのか、職員室に入るくらい緊張しながら中に入って、……って、え?
「誰かな、君は」
――ぜんっぜん知らないオッサンの部屋じゃんか! ここ! 何してんだよ! 未幸! マジで何話したら良いか分かんねぇよ!
部屋に入ったら、知らないオジさんが社長室のテーブルと椅子みたいなとこに座っていました。
「俺は……未幸くんとそのお兄さんの友達です……、二人からは靖彦とかやことか呼ばれています」
後輩に会う前に怪しまれて外に放り出されたくねぇから仕方なく自己紹介をする。なんだよ、これ、滑り止めで受けた私立入試の面接かよ。
「まあ、良いから、そこに座りなさい」
「し、つれいします」
なんで、追い出さねぇんだよ、この人。
仕方ねぇから、近くにあった黒い小さなソファに座るけどさ。
「君は……目付きが悪いね」
社長椅子から動くことなく、そんなことを言われた。
――なんで皆、同じこと言……はっ、もしかして、このオッサン、二人の親父さんなんじゃ……。
「すみません、そういう遺伝子なもので。……あの、もしかして二人のお父様ですか?」
聞かずにはいられなかった。自分がここに居る意味もよく分からねぇが、それより、この人が二人の父親なのかが気になったのだ。
「君はそれを知っていて私に会いに来たのでは?」
「いえ、あの……」
未幸に騙されてお父様の部屋に入ってしまったなんて、とてもじゃねぇけど言えねぇ。こういう時は何を話せば良いんだ? つーか、後輩どこだ? 早く話して、ここから連れ帰りてぇ、腹減った。
「えっと、三人とも似てない様で似てるなぁ、と思って」
言ってしまってから、しまった! と思った。これはもしかして、失礼なことを言ってしまったのではないのか?
「それはそうだろう。二人とも母親が違うとしても半分は私の血が入っているのだから」
そう言う後輩の父親の顔は穏やかにも悲しそうにも見えた。
「え……」
「こんなことを赤の他人の君に話すのはどうかと……いや、赤の他人の君だからこそ話すが、本妻の子供は弟である未幸だけなんだよ」
「じゃ、じゃあ、お兄さんは?」
聞いて良いのか分からないが、どうしても尋ねたがる自分を止められなかった。
「私の愛人だった女性の子だよ。彼女は一人で育てると言ったが、十年前に彼女が亡くなってしまって、あの子を私が引き取ったんだ。彼女が亡くなったことは、あの子に伝えていないが……」
俺の方は見ずに後輩の父親は遠くを見て、まるで過去でも見ているようだ。
「なんで愛人なんて……」
愛人なんて、その本人だって生まれた子だって幸せになんてなれねぇじゃねぇか。いつだって二番目で……。
「死にそうだったんだよ」
父親がボソリと呟く。
「え?」
「息が詰まって死にそうだったんだ。お金があるというだけで色んな人間に言い寄られて、利用されそうになって、人間というものが嫌いになった。でも、彼女だけは私からは普通に見えたんだ」
――普通って、なんなんだよ……、皆普通じゃ駄目なのかよ?
思っても言えなかった。俺には普通じゃないってのが分からなかったから。
「あの子は私のことを嫌っているのかな……。君は自分のお父さんのことをどう思う?」
――あ……。
「俺……両親居ないので、よく分からないんです。事故で死んじゃって……、死ぬ前も俺のことに興味無かったみたいで、本当は思っちゃいけないんでしょうけど、数日後には死んで良かったって気持ちに変わってました。勿論、直後には悲しかったですけど」
「それは……すまなかった」
申し訳なさそうに謝られて、それは昔のことなのだと、ちゃんと説明したくなった。
「いえ、でも自分は周りの人間に恵まれてると思います。俺、こんな目付きで同級生との付き合いも上手くなくて、友達居なかったし……でも、一緒に住んでる叔父さんとか、未幸のお兄さんとか、凄く良くしてくれて、多分、俺の性格って二人のおかげでなんとか良い方に保たれてるんだろうなって思うんですよね……って、すみません、何も関係ないことを長々と」
やっぱり、他人に話し過ぎたかな。
「そうか、あの子が連絡して来なかった理由は君だったのか」
「え?」
言葉の意味が理解出来なくて、俺は間抜けな声を口から溢してしまった。
「あの子は元々引き籠もりでね。私は外の世界じゃ生きられないと思ったんだよ。最初に一般企業に就職させて欲しいと言われたときも数日で諦めて、また引き籠もりになるだろうと思っていた。だが、すぐに帰って来なくなって連絡もつかなくなったんだ」
少しずつ、後輩の父親の表情が変わっていく。心配したような表情から
「それで、こっそり調べてみると今居る会社では成績がずっと二位らしいじゃないか」
驚いたような表情へ。
「あの……それ、二位でも怒らないでください。一位は俺の叔父なので」
一応、説明しておいた。完璧人間のあつ子が誰かに負けることなんてねぇんだよ。だから、後輩があいつを抜くことなんて一生不可能だ。
「はは、怒らないさ。あの子が自分の力でそこまでのし上がって、二位で満足してることに驚いているんだよ。あの子はいつだって一番じゃなきゃ自分さえ許さなかったのに」
ついに後輩の父親が笑った。
いつだって二番目で、それを嫌っていたはずなのに、それさえも気にならないくらい、俺たちとの生活を楽しんでくれてたってことか?
「早くに結婚させて、私の目の届くところで働かせて、何の心配もないような生活をさせてやりたかったんだが、あの子は、外の方が生き生きと暮らしていけるのかもしれないな」
後輩が、どんな風に育って、どんな想いで生きてきたのか、俺には分からない。でも、金持ちは金持ちなりに苦労することがあるということだけは分かった。あの人はたまにしか、そんな姿見せなかったけど。
――違う、俺にだけ……見せたんだ。
「あの、お兄さんは今、どうしてるんですか?」
俺がそう言おうとした時だった。
コンコンッ
静かなノック音が聞こえた。俺より何倍も品の良い音だった。
「どうぞ」
俺が居るというのに、後輩の父親が外に居る人間を中に招き入れた。
「失礼します」
あ、後輩だ。後輩が颯爽と父親の部屋に入ってきて、扉の前に立っている。
「なんだ?」
少し不機嫌そうに父親が言う。別にさっきのままで良いじゃねぇか、そんなわざわざ厳しいお父さん像出さなくても。
そう思いながらも俺はその緊張感から、黙って小さなソファに座っていた。
「父さん、俺、決めました。家を継ぎま、やこくん……?」
後輩が視線を父親に向けた時、視界の端に俺の姿が入ったのだろう。俺と目が合った後輩は、すげぇ驚いた顔をしていた。
「どうして、ここに?」
父親のことなんて放ったらかしで、後輩が俺の方に寄ってきた。そして、座っている俺に視線を合わせるように、横で片膝をつく。
こんな時でも王子に見えるぜ、馬鹿か、俺の目。
「あー、あんたが居ないと死にそうな人が居てさ」
嬉しそうな、困ったような、そんな顔を向けられて少し戸惑う。
「先輩、心配してた……? ごめんね、急に居なくなって」
「え、ちょ……」
困った顔のままで謝って、後輩が俺の手を掴んできた。そして、そのまま立ち上がる。必然的に俺も立ち上がることになった。
「父さん、俺、家は継ぎません。この家を捨てます」
部屋の奥まで通るハッキリとした声で後輩が言い切った。
「……」
後輩の父親は押し黙って何も言わない。怒っているのか、言葉を探しているのか……。それでも後輩は話を続ける。
「それと俺はこの子とこの子の叔父さんが好きなんです。だから、誰かと結婚をして家庭を持つということは無いと思ってください」
――い、言い切った……!
「……そうか……、分かった」
やっと口を開いたと思ったら、それだけかよ? 自分の息子が家を出て行くっていうのに、他に何か言うことがあるだろう?
「今まで、お世話になりました」
「な、おい……」
父親に向かって深く頭を下げて、それからすぐに俺の腕を引っ張って扉に向かおうとする後輩。
後ろに身体と首を向けながら、俺は後輩の父親に「良いのかよ?」という視線を向けた。
それでも父親は何も言わず、部屋の扉が後輩の手によって開けられた。引っ張られて、俺も前を向いてしまう。
――本当に良いのかよ? これで一生さよならかもしれねぇのに。お互い生きてるのに、本当は大事にされてんのに……
「なあ」
俺が後輩を引き止めようとした時だった。
「未散」
父親の声に後輩の足が止まった。
この人、未散って言うのか……、初めて名前を知った。
「たまには……家に帰ってきなさい」
凄く静かな声だった。その声に、さっきまでの厳しさは無かった。
「……」
ピタリと止まった後輩は振り向かない。頭の中で考えているんだと思う。これが愛情故の言葉なのか、それとも自分を縛るための言葉なのか。
「……父さんが寂しいんだ」
父親のその言葉を聞いて、後輩がハッと顔を上げたのが分かった。
「……はい」
一向に振り向かず、それでも返事をした後輩の横顔は少しだけ嬉しさを浮かべていた気がした。
そのまま後輩が俺の手を引いて部屋から出て行く。
――んだよ、あのオッサン、ちゃんと言えんじゃねぇか。
「あの人、良い人だな」
どこに向かってるかも分からないまま、後輩に手を引かれながら俺は言った。
「良い人?」
後輩は複雑そうな顔をした。その手を引っ張って引き止める。
「あんたのこと、嬉しそうに話してたよ。ただ単純にあんたのこと心配してただけだったのかもしれねぇ。きっと心配しながら大切に想ってたんだ。だって、あの人、あんたのこと、ずっと“あの子”って言ってたから。いくつになってもあの人にとっては大切な子供なんだな、あんた」
大切に想ってくれる父親が居て羨ましいって言ったら、後輩は少し嫌な顔をするんだろうな。だから、これ以上は何も言わない。
「ああ……俺、完全に家に戻る気だったのに、君の顔見たら……、君が迎えに来てくれたから、正反対なこと言っちゃったよ」
この人、こんなに表情が変わる人だったかなって思うくらい、今日の後輩はコロコロと表情が変わる。困ったような顔をしたり、悲しそうな顔をしたり、決心をしたような顔をしたり、嬉しそうな顔をしたり……笑いながら涙したり……。
「なんで来てくれたの?」
屈んだ後輩に顔を覗き込まれて、「この人、綺麗に泣くなぁ」と思った。
「よく考えたんだけど、あんたに敦彦さん取られたら俺が一人になっちまうんだから……あんたが俺を一人にすんなよ」
なんか、俺自分でもよく分かんねぇ哲学的なこと言ってる。
「あはは、君は優しいよね、それって、別に俺じゃなくても良いじゃないか」
今度は腹の底からおかしいみてぇに笑われた。
「あんたが思うのと一緒だよ」
ハッキリとは分かんねぇから、口でもハッキリとは言わねぇ。だが、あつ子の近くに居るのも俺の近くに居るのも、あんたじゃねぇと駄目みてぇだ。
「ありがとう」
また、いつもみてぇに俺の心を読んだのか、それとも分かってねぇけど良いやと思ったのか、後輩はニッコリと笑いながら俺に礼を言って、それから、「帰ろうか、やこくん」と言った。
◆ ◆ ◆
汐留さんに車で送ってもらって、俺と後輩はあつ子のもとに帰ってきた。もう夜の九時だ。
「俺が有給使って休んだだけで心配し過ぎじゃないですか? 先輩」
忘れず連れてきたアツコを抱いて、後輩がうちの玄関で笑って言った。俺は廊下に立つあつ子の後ろに立って、二
人の会話を見守っている。
「少し嫌な予感がしてな」
澄ました先輩顔で言っているが、確かにオネおじは後輩が悩みを抱えているなんて気が付いていなかったはずだ。まさか、これが女の勘……!? いや、まさかな。
「少し休んだら復帰しますので、また宜しくお願いします」
「ああ、頑張ろうな」
「はい! ――あ……部屋の片付けがあるので、では、また」
うんうん、何のトラブルもなく、会話が終わりそうだ。
「やこくん、ありがとね」
それはさっき聞いたっての。
「へいへい」
適当に返事して、俺はリビングに向かった。
「失礼します」
そう言って後輩が去って、玄関の扉が閉まって、あつ子がホッとして廊下で泣き崩れて、面倒臭ぇから放置して、腹が減ったから冷蔵庫を開けて、あつ子の用意した豚肉の生姜焼きをチンして静かに食べて、それでも廊下から立ち直れそうにないあつ子の横に立って……
「ああ! しまった!」
俺は思い出した。思い出してしまった。
後輩の部屋のベランダに、後輩から貰った金○握り潰すよパンツを飛ばしてしまったことに……!
「どけぇ! あつ子ぉぉおお!」
「え、ちょ、何よぉ……っ」
弾丸のように駆け出して行こうとしたが、廊下でぐずっていたあつ子に道を阻まれた。両腕が俺の胴体に巻き付く。
「んだよ! 離せ!」
「行かないでよぉ……、そばに居てよぉ……」
うじうじしてるくせにあつ子はやけに強い力で俺を抱き締めている。
「うるせぇ、俺はおめぇの後輩のところに行かなくちゃいけねぇんだよ!」
――くそ、俺のパンツが! 後輩に見つかったら、ぜってぇ色んな意味で勘違いされる!
「アタシも行く」
「いや、良いから。おめぇはここに居て良いから。今行ったら後輩に泣いてたことバレるぞ」
「それは嫌」
――よっしゃセーッフ! これで行け……
「行かないで」
「はぁ?」
全然解放されねぇ! 寧ろ、なんか壁の方に押し寄せられてんですけど! グイグイ下に身体が引き下ろされてるんですけど! あと、なんかピンポーン、ピンポーン鳴ってるんですけど!
「いい加減、気付きなさいよ」
――壁……ドン!?
「は、意味分かんねぇ」
なんとなく目が合わせづらくて、俺は玄関の方に目を逸らした。
「こっち見ろよ」
――顎クイ!? つか、声がマジじゃんか!
「なっ、んだよ?」
さっきまで泣いてたやつと思えねぇギラギラした視線にドギマギした。そんな時だった。
「大丈夫です……か?」
ガチャリと玄関の扉が少し開いて、後輩の声がした。
「声掛けたんですけど、返事が無かったから……」
申し訳無さそうに、そう小さく言う後輩と横目でそちらに視線を向ける俺とあつ子……。
――んだよ! この状況!
「あ、あー転んでしまった。やこ、すまなかったな」
いや、そりゃ無理あるだろ、と俺は思ったがあつ子は何食わぬ顔で、すっと立ち上がり
「あ、そうだ、やこがお前に話があるそうだ。聞いてやってくれ」
と、扉の隙間から覗く後輩に向かって言った。そんで自分はそそくさとリビングの方に歩いていってしまった。
「やこくんの話したいことって、もしかして――」
「あー! 大きな声で言うな」
後輩が玄関に入ってきて離れたままで会話を始めようとしたため、俺は慌てて立ち上がって彼に駆け寄った。
「……パンツのこと? あれ本当に返してくれたんだ? ちょっと返し方は雑だったけど、君ってやっぱり変態なんだね」
「いや、違っ……違くないけど、違うんだって」
後輩が早口で言うから肯定するところと否定するところが混ざっていて、おかしな返事の仕方をしてしまい、どうにもならなかった。
「君が次に泊まりに来るまで大切に保管しておくね?」
なんで、そんなニコニコ顔でそんな怪しい言い方しか出来ねぇんだよ? その言い方、コレクターの言い方だかんな?
「それで……久しぶりに未幸に連絡してみたんだ。そしたら、君と連絡先を交換したっていうじゃないか。俺にも教えてよ」
「やだよ、面倒臭ぇ」
兄弟仲が少し回復したってのは喜ばしいことだが、俺を巻き込まないでほしい。俺は顔面に「嫌だ」という気持ちを貼り付けた。
「スマホ貸してくれたら俺が入れてあげるから」
そう言って、後輩が俺の方に手を差し出す。その瞬間、ハッとして俺は焦った。今、俺のスマホの壁紙は女装して加工しまくったあつ子の写真になっているのだ。(※誕生日に貰ったやつ)
「いや、良い! あんたが貸せ!」
そう言ってから、いや、断るだけでスマホ貸せという必要は無かったじゃねぇか、と思ったが時は既に遅かった。
「え? 良いの? はい」
後輩がロックを解除したスマホを差し出してきたのだが……
「……」
俺は一瞬固まってしまった。
何故なら後輩のスマホの壁紙が俺の写真だったからだ。いや、それだけなら、まあ、いつも通りな感じなのだが、何かがおかしい……。(※おかしな耐性のつき方をしているやこ)
「どうしたの?」
「いや、ちょっと待ってください」
何が一体、おかしいんだ? と目を凝らしてみる。あ……
――敦彦さぁぁあああああん! この人、催眠術使ってますよぉぉぉおおお!
俺は心の中で叫んだ。
後輩のスマホの壁紙は明らかに『後輩が泊まりに来た日、夢で後輩に撮られた俺の寝顔写真』だった。
あれは夢だと思っていたが、この人、ぜってぇ俺とあつ子に催眠術掛けただろう? そうじゃなきゃ、この写真がここに存在してるって有り得ないだろう? つか、俺、マジで死人みてぇな顔して寝てんじゃねぇか!
何故、後輩は何も言わないのか……、これは俺の反応を待っているのか? けっ、反応なんてしてやんねぇよ。
「ほらよ」
黙って連絡先を交換してやった。
「ありがとう。これで、いつでも君を部屋に呼べるね」
「俺はハイヤーじゃねぇっての」
「ん? うん、それじゃあね」
後輩は何ともねぇみてぇな顔で帰っていったが、ぜってぇ分かってねぇだろう。そして、あつ子よ、俺とおめぇの気持ち、多分嘘だぜ? 操られてるんだよ。だから、これは、きっと……恋じゃねぇ!
この後、後輩から『今度、一緒にパンツ買いに行こうね』とメールが来た。もういい加減パンツから離れろ、と思った。
全世界の催眠術師に操られた俺とパンツの呪縛に掛けられた俺が泣いた。
「あの子、有給使って暫く休むんですって……。部屋にも帰ってないみたいだし……、もしかして、このまま辞めてしまうのかしら?」
ソファに力無く座りながら、気の抜けたような表情であつ子が言う。後輩が居なくなったのだ。
「消える……つもりなのかもな」
俺は窓のこちら側から真っ暗な空を見つめて言った。消えるなって言ったのに、あの人は馬鹿なのかもしれない。
「アタシ、もっと話しておけば良かったわ」
窓にあつ子の姿が映っている。もう泣いてんのか、これから泣くつもりなのか、奴は両手で自分の顔を覆った。必死に次に掛ける言葉を探す。
「連絡、取れないのか?」
俺が振り向きながら問い掛けると「メールも電話も、その他も全部ダメ」とあつ子は顔を覆ったまま首を横に振った。
「なぁ、そんなに落ち込むなよ」
あつ子の横に移動して、必死に慰める。だが、俺だって、あの人が急に居なくなって動揺してて、悲しんでないわけじゃない。涙だって出ないわけじゃない。
「アタシがいけなかったのかしら……?」
記憶を思い起こすように顔を上げてあつ子が言う。
「そんなことねぇよ」
今はそれしか言えねぇ。だって、あつ子は後輩の家のことを知らねぇし、本人が話してねぇのに俺の口から勝手に言うわけにはいかねぇだろう。
あつ子には後輩に話していない秘密があって、後輩にはあつ子に話していない秘密がある。
「じゃあ、なんで居なくなったの……!」
「俺にも分かんねぇよ」
あつ子に縋り付かれて答えた俺の言葉に偽りは無い。奴が消えた本当の理由は分からない。家のことを解決しに行ったのだとしても、詳しいことは知らないのだから。
「あんた、あの人のこと本当に好きだったんだな」
いつも分かってた。いつだって、あんたはあの人のことを考えてた。イケメンだの何だの言って、ふざけてんのかと思ってたが、本当は恋愛対象として真面目に好きだったんだろう?
「……好き……だったわよ。なんだか、放っておけなかったの」
――なんだ、俺と一緒じゃねぇか……。じゃあ、俺のこの気持ちも恋愛対象としての感情なのか……? 放っておけねぇ=好き、なのか?
「どこに行くの?」
黙ってスッと立ち上がるとあつ子に腕を掴まれて引き止められた。
「止めんな」
そっとあつ子の手から逃れる。
「でも……」
涙目のあつ子が俺を見つめた。だが、その瞳に応えることは出来ない。
「好きなやつのため、だから」
背中を向けて、ただぼそりと言い、俺は部屋を飛び出した。
「ちょっと、やこ!」
そう聞こえた気がしたが、つま先だけに引っ掛けた靴をエレベーターの中でちゃんと履いて、そこから降りたらエントランスを出て走り出す。
目指す場所はとある道路だ。
俺は後輩の実家を知ってるわけでも、他に行きそうな場所を知ってるわけでもねぇ。ただ、今は暗くても夕方の六時半過ぎ、熱心な学生なら、部活を終えて帰ってくる頃だろう。
「見つけた!」
俺が道路に着いたとき、そこには黒いツヤツヤとした高級車が停まっていた。
ここは前に後輩の弟を見掛けた場所なのだ。
「すみません!」
「はい」
運転席の横から運転手に声を掛けたは良いが、よく考えてみれば、後輩の名前を知らないことに気が付いた。
「え、えっと……」
なんて言えば良いんだ?
なんて言えば分かってもらえる?
「あの……」
「どうした? 汐留」
俺が黙って悩み、運転手さんが困っているところで後ろから声がした。
「あ! 後輩の弟!」
勢い良く振り向くと、今サッカー部終わりました、なジャージ姿の後輩の弟が立っていた。
「ん?」
「俺のこと覚えてる?」
不思議がる弟にずいっと近寄る。頼むから分かってくれ!
「あ、兄貴の……えっと、やこ」
弟が無理矢理絞り出すみたいな言い方をする。どうして、名前を知ってるのか知らないが、俺の名前は靖彦だ。だが、今は訂正してる場合じゃねぇ。
「覚えててくれてありがとう。お兄さんに会って話しがしたいんだけど、力を貸してくれないか?」
「兄貴に? 良いよ」
「ほんとに!?」
意外とあっさりオーケーが貰えた。後輩の弟が「そのままで」と運転手さんに言って、自分で車の扉を開けてくれた。
「さあ、どうぞ」
「し、失礼します」
俺が乗って、弟が乗ってきて、扉が閉まって、すぐに車が走り出した。
――高級な匂いがする……。
「ふーん」
そう言ったのは弟だ。俺の顔を間近で見つめながら、まるで観察してるみてぇだ。
「なに?」
刺さる視線に堪えきれなくなって、思わず尋ねてしまった。
「目付き悪いね」
「生まれつきなもんで……」
聞かなきゃ良かった。俺、この目付きの所為で友達居ねぇのかな……。(※今さら)
「兄貴は君のどこが良いのかな……」
「へ!?」
ぼそりと言われて、大きな声を出してしまった。どうして、後輩が俺のことを気になっていると知っているのか……、まさか、兄貴のことを探偵を使って調べ上げたんじゃ……?
「兄貴、いっつも君の話ばかりしてたよ。だから、つまらなくなって俺は家に戻った。庶民の体験は楽しいのに」
ああ、なんだ、自分で話してたのか。というか、本当に金持ちの坊ちゃんって感じの話しするんだな、弟は。
つーか、それって嫉妬じゃね? 兄貴に興味持ってもらえないからって実家戻るって……。
「お兄さんは君と仲良くゲームがしたかった、とか俺に言ってたけど?」
しかも至近距離で。
「それほんとに?」
「本当だって、なんで疑うんだよ?」
自分の兄貴なのに、何を疑う必要があるのか。
「兄貴、俺のこと嫌いなんだと思ってた……」
信じられないという風に弟がぼそりと言った。
「何言ってんだ。洗濯んとき……えっと、最初に君と会ったときもお兄さんは君の優しさに気付いてたし、素直じゃないって言いながら喜んでたよ」
この兄弟、仲悪かったのか? 俺にはどっちもお互いに大事にしてるように見えたんだが?
「そう、か……。――そうだ、俺、未幸(みゆき)、宜しく」
「あ、え、靖彦だ、宜しく」
急に挨拶だし、なんで下の名前か知らねぇけど、人と握手とかしたことねぇから照れ臭いな。コミュ障が出ちまうぜ。
「あれ? やこじゃないんだ?」
「それはあだ名みてぇなもん」
「ふーん、じゃあ、靖彦――」
なんか誰も俺のこと正式名称で呼ばねぇから新鮮だな。
「今度、俺と遊んでよ」
「へ?」
暢気なこと考えてたら、未幸が自分の兄貴みてぇなことを言ってきた。勘違いでも忌み嫌い合ってる割には似てんじゃねぇかよ!
「これ、恩だから」
「いや、部活忙しいだろう?」
どうにか回避しようとする俺、を「なんとかする」と躱す未幸。回避に回避を被せてくんじゃねぇよ。
「なんとかするって、そんな無理矢理時間作んなくても……」
「ちゃんと兄貴のとこまで連れて行ってやるから、俺に恩返ししろ」
なんか、急にこのお坊ちゃん、俺様出してきたんだが? 意味分からヌンティウスなんだが?
「ま、まあ、そのうち」
俺の得意の『まあ、そのうち』攻撃!
「じゃあ、連絡先教えて」
――んだよ、この流れ。
そう思ったが後輩に辿り着くためには仕方ねぇと思って、未幸と連絡先を交換した。そしたら、いつの間にか、車は未幸の家に着いていたらしく「よし、じゃあ、ついてきて」と車の外に連れ出された。
大きな家だな。外側を見て西洋の城かと思ったぜ。どこもかしこも、装飾ばっかで、美術館みてぇにも見える。
玄関を開けて中に入ると、執事とメイドが立っていて、マジでビビった。こんなんフィクションの中だけの存在だと思ってた。
「おかえりなさいませ、未幸坊ちゃま」
「ただいま」
スッと未幸が人の横を通っていく。俺は軽く頭を下げて、彼の後を追った。
「そこ、兄貴の部屋」
階段を上って、三個くらい扉を過ぎたところで未幸が俺の横の扉を指差した。
「へ? ここ?」
「そう、じゃ頑張って」
俺だけを残して、片手を上げた未幸はそのまま先に歩いて行ってしまう。
「ありがとう」
礼を言う俺の声は彼に届かなかったかもしれない。
「兄貴は気に掛けてくれるやつが居て羨ましいな……」
廊下を歩いて行くときに未幸がそんなことを言っていたように聞こえた。
コンコンッ
「はい」
未幸が去ってから扉を叩くと、中から小さく返事が聞こえてきた。何を話せば良いのか分かんねぇけど、とにかく、何か話さないとだよな。
「失礼します」
後輩の部屋に入るのに扉の高級さの所為なのか、職員室に入るくらい緊張しながら中に入って、……って、え?
「誰かな、君は」
――ぜんっぜん知らないオッサンの部屋じゃんか! ここ! 何してんだよ! 未幸! マジで何話したら良いか分かんねぇよ!
部屋に入ったら、知らないオジさんが社長室のテーブルと椅子みたいなとこに座っていました。
「俺は……未幸くんとそのお兄さんの友達です……、二人からは靖彦とかやことか呼ばれています」
後輩に会う前に怪しまれて外に放り出されたくねぇから仕方なく自己紹介をする。なんだよ、これ、滑り止めで受けた私立入試の面接かよ。
「まあ、良いから、そこに座りなさい」
「し、つれいします」
なんで、追い出さねぇんだよ、この人。
仕方ねぇから、近くにあった黒い小さなソファに座るけどさ。
「君は……目付きが悪いね」
社長椅子から動くことなく、そんなことを言われた。
――なんで皆、同じこと言……はっ、もしかして、このオッサン、二人の親父さんなんじゃ……。
「すみません、そういう遺伝子なもので。……あの、もしかして二人のお父様ですか?」
聞かずにはいられなかった。自分がここに居る意味もよく分からねぇが、それより、この人が二人の父親なのかが気になったのだ。
「君はそれを知っていて私に会いに来たのでは?」
「いえ、あの……」
未幸に騙されてお父様の部屋に入ってしまったなんて、とてもじゃねぇけど言えねぇ。こういう時は何を話せば良いんだ? つーか、後輩どこだ? 早く話して、ここから連れ帰りてぇ、腹減った。
「えっと、三人とも似てない様で似てるなぁ、と思って」
言ってしまってから、しまった! と思った。これはもしかして、失礼なことを言ってしまったのではないのか?
「それはそうだろう。二人とも母親が違うとしても半分は私の血が入っているのだから」
そう言う後輩の父親の顔は穏やかにも悲しそうにも見えた。
「え……」
「こんなことを赤の他人の君に話すのはどうかと……いや、赤の他人の君だからこそ話すが、本妻の子供は弟である未幸だけなんだよ」
「じゃ、じゃあ、お兄さんは?」
聞いて良いのか分からないが、どうしても尋ねたがる自分を止められなかった。
「私の愛人だった女性の子だよ。彼女は一人で育てると言ったが、十年前に彼女が亡くなってしまって、あの子を私が引き取ったんだ。彼女が亡くなったことは、あの子に伝えていないが……」
俺の方は見ずに後輩の父親は遠くを見て、まるで過去でも見ているようだ。
「なんで愛人なんて……」
愛人なんて、その本人だって生まれた子だって幸せになんてなれねぇじゃねぇか。いつだって二番目で……。
「死にそうだったんだよ」
父親がボソリと呟く。
「え?」
「息が詰まって死にそうだったんだ。お金があるというだけで色んな人間に言い寄られて、利用されそうになって、人間というものが嫌いになった。でも、彼女だけは私からは普通に見えたんだ」
――普通って、なんなんだよ……、皆普通じゃ駄目なのかよ?
思っても言えなかった。俺には普通じゃないってのが分からなかったから。
「あの子は私のことを嫌っているのかな……。君は自分のお父さんのことをどう思う?」
――あ……。
「俺……両親居ないので、よく分からないんです。事故で死んじゃって……、死ぬ前も俺のことに興味無かったみたいで、本当は思っちゃいけないんでしょうけど、数日後には死んで良かったって気持ちに変わってました。勿論、直後には悲しかったですけど」
「それは……すまなかった」
申し訳なさそうに謝られて、それは昔のことなのだと、ちゃんと説明したくなった。
「いえ、でも自分は周りの人間に恵まれてると思います。俺、こんな目付きで同級生との付き合いも上手くなくて、友達居なかったし……でも、一緒に住んでる叔父さんとか、未幸のお兄さんとか、凄く良くしてくれて、多分、俺の性格って二人のおかげでなんとか良い方に保たれてるんだろうなって思うんですよね……って、すみません、何も関係ないことを長々と」
やっぱり、他人に話し過ぎたかな。
「そうか、あの子が連絡して来なかった理由は君だったのか」
「え?」
言葉の意味が理解出来なくて、俺は間抜けな声を口から溢してしまった。
「あの子は元々引き籠もりでね。私は外の世界じゃ生きられないと思ったんだよ。最初に一般企業に就職させて欲しいと言われたときも数日で諦めて、また引き籠もりになるだろうと思っていた。だが、すぐに帰って来なくなって連絡もつかなくなったんだ」
少しずつ、後輩の父親の表情が変わっていく。心配したような表情から
「それで、こっそり調べてみると今居る会社では成績がずっと二位らしいじゃないか」
驚いたような表情へ。
「あの……それ、二位でも怒らないでください。一位は俺の叔父なので」
一応、説明しておいた。完璧人間のあつ子が誰かに負けることなんてねぇんだよ。だから、後輩があいつを抜くことなんて一生不可能だ。
「はは、怒らないさ。あの子が自分の力でそこまでのし上がって、二位で満足してることに驚いているんだよ。あの子はいつだって一番じゃなきゃ自分さえ許さなかったのに」
ついに後輩の父親が笑った。
いつだって二番目で、それを嫌っていたはずなのに、それさえも気にならないくらい、俺たちとの生活を楽しんでくれてたってことか?
「早くに結婚させて、私の目の届くところで働かせて、何の心配もないような生活をさせてやりたかったんだが、あの子は、外の方が生き生きと暮らしていけるのかもしれないな」
後輩が、どんな風に育って、どんな想いで生きてきたのか、俺には分からない。でも、金持ちは金持ちなりに苦労することがあるということだけは分かった。あの人はたまにしか、そんな姿見せなかったけど。
――違う、俺にだけ……見せたんだ。
「あの、お兄さんは今、どうしてるんですか?」
俺がそう言おうとした時だった。
コンコンッ
静かなノック音が聞こえた。俺より何倍も品の良い音だった。
「どうぞ」
俺が居るというのに、後輩の父親が外に居る人間を中に招き入れた。
「失礼します」
あ、後輩だ。後輩が颯爽と父親の部屋に入ってきて、扉の前に立っている。
「なんだ?」
少し不機嫌そうに父親が言う。別にさっきのままで良いじゃねぇか、そんなわざわざ厳しいお父さん像出さなくても。
そう思いながらも俺はその緊張感から、黙って小さなソファに座っていた。
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後輩が視線を父親に向けた時、視界の端に俺の姿が入ったのだろう。俺と目が合った後輩は、すげぇ驚いた顔をしていた。
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父親のことなんて放ったらかしで、後輩が俺の方に寄ってきた。そして、座っている俺に視線を合わせるように、横で片膝をつく。
こんな時でも王子に見えるぜ、馬鹿か、俺の目。
「あー、あんたが居ないと死にそうな人が居てさ」
嬉しそうな、困ったような、そんな顔を向けられて少し戸惑う。
「先輩、心配してた……? ごめんね、急に居なくなって」
「え、ちょ……」
困った顔のままで謝って、後輩が俺の手を掴んできた。そして、そのまま立ち上がる。必然的に俺も立ち上がることになった。
「父さん、俺、家は継ぎません。この家を捨てます」
部屋の奥まで通るハッキリとした声で後輩が言い切った。
「……」
後輩の父親は押し黙って何も言わない。怒っているのか、言葉を探しているのか……。それでも後輩は話を続ける。
「それと俺はこの子とこの子の叔父さんが好きなんです。だから、誰かと結婚をして家庭を持つということは無いと思ってください」
――い、言い切った……!
「……そうか……、分かった」
やっと口を開いたと思ったら、それだけかよ? 自分の息子が家を出て行くっていうのに、他に何か言うことがあるだろう?
「今まで、お世話になりました」
「な、おい……」
父親に向かって深く頭を下げて、それからすぐに俺の腕を引っ張って扉に向かおうとする後輩。
後ろに身体と首を向けながら、俺は後輩の父親に「良いのかよ?」という視線を向けた。
それでも父親は何も言わず、部屋の扉が後輩の手によって開けられた。引っ張られて、俺も前を向いてしまう。
――本当に良いのかよ? これで一生さよならかもしれねぇのに。お互い生きてるのに、本当は大事にされてんのに……
「なあ」
俺が後輩を引き止めようとした時だった。
「未散」
父親の声に後輩の足が止まった。
この人、未散って言うのか……、初めて名前を知った。
「たまには……家に帰ってきなさい」
凄く静かな声だった。その声に、さっきまでの厳しさは無かった。
「……」
ピタリと止まった後輩は振り向かない。頭の中で考えているんだと思う。これが愛情故の言葉なのか、それとも自分を縛るための言葉なのか。
「……父さんが寂しいんだ」
父親のその言葉を聞いて、後輩がハッと顔を上げたのが分かった。
「……はい」
一向に振り向かず、それでも返事をした後輩の横顔は少しだけ嬉しさを浮かべていた気がした。
そのまま後輩が俺の手を引いて部屋から出て行く。
――んだよ、あのオッサン、ちゃんと言えんじゃねぇか。
「あの人、良い人だな」
どこに向かってるかも分からないまま、後輩に手を引かれながら俺は言った。
「良い人?」
後輩は複雑そうな顔をした。その手を引っ張って引き止める。
「あんたのこと、嬉しそうに話してたよ。ただ単純にあんたのこと心配してただけだったのかもしれねぇ。きっと心配しながら大切に想ってたんだ。だって、あの人、あんたのこと、ずっと“あの子”って言ってたから。いくつになってもあの人にとっては大切な子供なんだな、あんた」
大切に想ってくれる父親が居て羨ましいって言ったら、後輩は少し嫌な顔をするんだろうな。だから、これ以上は何も言わない。
「ああ……俺、完全に家に戻る気だったのに、君の顔見たら……、君が迎えに来てくれたから、正反対なこと言っちゃったよ」
この人、こんなに表情が変わる人だったかなって思うくらい、今日の後輩はコロコロと表情が変わる。困ったような顔をしたり、悲しそうな顔をしたり、決心をしたような顔をしたり、嬉しそうな顔をしたり……笑いながら涙したり……。
「なんで来てくれたの?」
屈んだ後輩に顔を覗き込まれて、「この人、綺麗に泣くなぁ」と思った。
「よく考えたんだけど、あんたに敦彦さん取られたら俺が一人になっちまうんだから……あんたが俺を一人にすんなよ」
なんか、俺自分でもよく分かんねぇ哲学的なこと言ってる。
「あはは、君は優しいよね、それって、別に俺じゃなくても良いじゃないか」
今度は腹の底からおかしいみてぇに笑われた。
「あんたが思うのと一緒だよ」
ハッキリとは分かんねぇから、口でもハッキリとは言わねぇ。だが、あつ子の近くに居るのも俺の近くに居るのも、あんたじゃねぇと駄目みてぇだ。
「ありがとう」
また、いつもみてぇに俺の心を読んだのか、それとも分かってねぇけど良いやと思ったのか、後輩はニッコリと笑いながら俺に礼を言って、それから、「帰ろうか、やこくん」と言った。
◆ ◆ ◆
汐留さんに車で送ってもらって、俺と後輩はあつ子のもとに帰ってきた。もう夜の九時だ。
「俺が有給使って休んだだけで心配し過ぎじゃないですか? 先輩」
忘れず連れてきたアツコを抱いて、後輩がうちの玄関で笑って言った。俺は廊下に立つあつ子の後ろに立って、二
人の会話を見守っている。
「少し嫌な予感がしてな」
澄ました先輩顔で言っているが、確かにオネおじは後輩が悩みを抱えているなんて気が付いていなかったはずだ。まさか、これが女の勘……!? いや、まさかな。
「少し休んだら復帰しますので、また宜しくお願いします」
「ああ、頑張ろうな」
「はい! ――あ……部屋の片付けがあるので、では、また」
うんうん、何のトラブルもなく、会話が終わりそうだ。
「やこくん、ありがとね」
それはさっき聞いたっての。
「へいへい」
適当に返事して、俺はリビングに向かった。
「失礼します」
そう言って後輩が去って、玄関の扉が閉まって、あつ子がホッとして廊下で泣き崩れて、面倒臭ぇから放置して、腹が減ったから冷蔵庫を開けて、あつ子の用意した豚肉の生姜焼きをチンして静かに食べて、それでも廊下から立ち直れそうにないあつ子の横に立って……
「ああ! しまった!」
俺は思い出した。思い出してしまった。
後輩の部屋のベランダに、後輩から貰った金○握り潰すよパンツを飛ばしてしまったことに……!
「どけぇ! あつ子ぉぉおお!」
「え、ちょ、何よぉ……っ」
弾丸のように駆け出して行こうとしたが、廊下でぐずっていたあつ子に道を阻まれた。両腕が俺の胴体に巻き付く。
「んだよ! 離せ!」
「行かないでよぉ……、そばに居てよぉ……」
うじうじしてるくせにあつ子はやけに強い力で俺を抱き締めている。
「うるせぇ、俺はおめぇの後輩のところに行かなくちゃいけねぇんだよ!」
――くそ、俺のパンツが! 後輩に見つかったら、ぜってぇ色んな意味で勘違いされる!
「アタシも行く」
「いや、良いから。おめぇはここに居て良いから。今行ったら後輩に泣いてたことバレるぞ」
「それは嫌」
――よっしゃセーッフ! これで行け……
「行かないで」
「はぁ?」
全然解放されねぇ! 寧ろ、なんか壁の方に押し寄せられてんですけど! グイグイ下に身体が引き下ろされてるんですけど! あと、なんかピンポーン、ピンポーン鳴ってるんですけど!
「いい加減、気付きなさいよ」
――壁……ドン!?
「は、意味分かんねぇ」
なんとなく目が合わせづらくて、俺は玄関の方に目を逸らした。
「こっち見ろよ」
――顎クイ!? つか、声がマジじゃんか!
「なっ、んだよ?」
さっきまで泣いてたやつと思えねぇギラギラした視線にドギマギした。そんな時だった。
「大丈夫です……か?」
ガチャリと玄関の扉が少し開いて、後輩の声がした。
「声掛けたんですけど、返事が無かったから……」
申し訳無さそうに、そう小さく言う後輩と横目でそちらに視線を向ける俺とあつ子……。
――んだよ! この状況!
「あ、あー転んでしまった。やこ、すまなかったな」
いや、そりゃ無理あるだろ、と俺は思ったがあつ子は何食わぬ顔で、すっと立ち上がり
「あ、そうだ、やこがお前に話があるそうだ。聞いてやってくれ」
と、扉の隙間から覗く後輩に向かって言った。そんで自分はそそくさとリビングの方に歩いていってしまった。
「やこくんの話したいことって、もしかして――」
「あー! 大きな声で言うな」
後輩が玄関に入ってきて離れたままで会話を始めようとしたため、俺は慌てて立ち上がって彼に駆け寄った。
「……パンツのこと? あれ本当に返してくれたんだ? ちょっと返し方は雑だったけど、君ってやっぱり変態なんだね」
「いや、違っ……違くないけど、違うんだって」
後輩が早口で言うから肯定するところと否定するところが混ざっていて、おかしな返事の仕方をしてしまい、どうにもならなかった。
「君が次に泊まりに来るまで大切に保管しておくね?」
なんで、そんなニコニコ顔でそんな怪しい言い方しか出来ねぇんだよ? その言い方、コレクターの言い方だかんな?
「それで……久しぶりに未幸に連絡してみたんだ。そしたら、君と連絡先を交換したっていうじゃないか。俺にも教えてよ」
「やだよ、面倒臭ぇ」
兄弟仲が少し回復したってのは喜ばしいことだが、俺を巻き込まないでほしい。俺は顔面に「嫌だ」という気持ちを貼り付けた。
「スマホ貸してくれたら俺が入れてあげるから」
そう言って、後輩が俺の方に手を差し出す。その瞬間、ハッとして俺は焦った。今、俺のスマホの壁紙は女装して加工しまくったあつ子の写真になっているのだ。(※誕生日に貰ったやつ)
「いや、良い! あんたが貸せ!」
そう言ってから、いや、断るだけでスマホ貸せという必要は無かったじゃねぇか、と思ったが時は既に遅かった。
「え? 良いの? はい」
後輩がロックを解除したスマホを差し出してきたのだが……
「……」
俺は一瞬固まってしまった。
何故なら後輩のスマホの壁紙が俺の写真だったからだ。いや、それだけなら、まあ、いつも通りな感じなのだが、何かがおかしい……。(※おかしな耐性のつき方をしているやこ)
「どうしたの?」
「いや、ちょっと待ってください」
何が一体、おかしいんだ? と目を凝らしてみる。あ……
――敦彦さぁぁあああああん! この人、催眠術使ってますよぉぉぉおおお!
俺は心の中で叫んだ。
後輩のスマホの壁紙は明らかに『後輩が泊まりに来た日、夢で後輩に撮られた俺の寝顔写真』だった。
あれは夢だと思っていたが、この人、ぜってぇ俺とあつ子に催眠術掛けただろう? そうじゃなきゃ、この写真がここに存在してるって有り得ないだろう? つか、俺、マジで死人みてぇな顔して寝てんじゃねぇか!
何故、後輩は何も言わないのか……、これは俺の反応を待っているのか? けっ、反応なんてしてやんねぇよ。
「ほらよ」
黙って連絡先を交換してやった。
「ありがとう。これで、いつでも君を部屋に呼べるね」
「俺はハイヤーじゃねぇっての」
「ん? うん、それじゃあね」
後輩は何ともねぇみてぇな顔で帰っていったが、ぜってぇ分かってねぇだろう。そして、あつ子よ、俺とおめぇの気持ち、多分嘘だぜ? 操られてるんだよ。だから、これは、きっと……恋じゃねぇ!
この後、後輩から『今度、一緒にパンツ買いに行こうね』とメールが来た。もういい加減パンツから離れろ、と思った。
全世界の催眠術師に操られた俺とパンツの呪縛に掛けられた俺が泣いた。
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