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第3話 天邪鬼
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その黒いものはドームのようにどんどん大きくなって先生と亜蘭さんを囲ってしまった。半透明で中が見えるけれど、どうやら二人とも外に出られないみたいだ。
「兄さん、闇玉を投げたね? 兄さんだって天邪鬼なんだ。どうなるか分かってるだろう?」
「ああ、これには醜い心の記憶が詰まってる。俺たちは誰かの醜い心ばかり見ることになる。そこから抜け出せるかは自分の意志の強さ次第だ」
二人は素早く動くのをやめ、向き合ってジッとお互いの方を見ている。
「馬鹿だなぁ、兄さんのほうが心を読む力は強いんだから、僕より深く闇に取り込まれるよ」
「分からないだろう? さあ、勝負だ」
先生がそう言った瞬間、半透明だったものがパッと真っ黒になり、急に中が見えなくなった。外にいる僕らには中で一体なにが起こっているのか分からない。
それから、どのくらい経ったのか。数分かもしれない。すうっとドームが無くなると、先生と亜蘭さんはその場に立ったまま動かなくなっていた。二人とも、目は開いているけれど、まるで抜け殻のようになっていて人形みたいで怖くなる。先生の意識はきっとここにはないんだ、心の深いところで戦ってるんだ。
「あ……」
僕の口から声がもれる。突然、亜蘭さんの指がピクリと動いた気がしたのだ。
――このままだと亜蘭さんのほうが先に戻ってきてしまうかもしれない。透キヨさんは倒れてる。先生を呼び戻せるのは僕しかいない。僕しかいないじゃないか……っ、勇気を出さないと……!
先生のほうをジッと見て、僕はすっくと立ち上がった。
「だめです。危ないですよ」
僕がしようとしていることに気が付いたのか、姑獲鳥さんが僕の右腕を掴んで引き留めてきた。
「でも、僕が行かなくちゃ」
――先生に力を貸してあげなくちゃ。だって、先生はいつも僕を助けてくれるから。
先生にお願いなんてされていないし、もしかしたら、また「危ないことをするな!」と怒られるかもしれない。それでも、僕は姑獲鳥さんの手を振りほどいて先生のもとへ走り出していた。
「先生! 天乃先生!」
近付いて、真正面から呼び掛け、身体を揺すってみる。しかし、反応がない。
「先生! 新海です! 聞こえますか!? 戻ってきてください!」
僕の声で亜蘭さんのほうを起こしてしまうかもしれない。でも、僕は先生を信じてる。先生のほうが先に戻ってきてくれるって。
「兄さん、闇玉を投げたね? 兄さんだって天邪鬼なんだ。どうなるか分かってるだろう?」
「ああ、これには醜い心の記憶が詰まってる。俺たちは誰かの醜い心ばかり見ることになる。そこから抜け出せるかは自分の意志の強さ次第だ」
二人は素早く動くのをやめ、向き合ってジッとお互いの方を見ている。
「馬鹿だなぁ、兄さんのほうが心を読む力は強いんだから、僕より深く闇に取り込まれるよ」
「分からないだろう? さあ、勝負だ」
先生がそう言った瞬間、半透明だったものがパッと真っ黒になり、急に中が見えなくなった。外にいる僕らには中で一体なにが起こっているのか分からない。
それから、どのくらい経ったのか。数分かもしれない。すうっとドームが無くなると、先生と亜蘭さんはその場に立ったまま動かなくなっていた。二人とも、目は開いているけれど、まるで抜け殻のようになっていて人形みたいで怖くなる。先生の意識はきっとここにはないんだ、心の深いところで戦ってるんだ。
「あ……」
僕の口から声がもれる。突然、亜蘭さんの指がピクリと動いた気がしたのだ。
――このままだと亜蘭さんのほうが先に戻ってきてしまうかもしれない。透キヨさんは倒れてる。先生を呼び戻せるのは僕しかいない。僕しかいないじゃないか……っ、勇気を出さないと……!
先生のほうをジッと見て、僕はすっくと立ち上がった。
「だめです。危ないですよ」
僕がしようとしていることに気が付いたのか、姑獲鳥さんが僕の右腕を掴んで引き留めてきた。
「でも、僕が行かなくちゃ」
――先生に力を貸してあげなくちゃ。だって、先生はいつも僕を助けてくれるから。
先生にお願いなんてされていないし、もしかしたら、また「危ないことをするな!」と怒られるかもしれない。それでも、僕は姑獲鳥さんの手を振りほどいて先生のもとへ走り出していた。
「先生! 天乃先生!」
近付いて、真正面から呼び掛け、身体を揺すってみる。しかし、反応がない。
「先生! 新海です! 聞こえますか!? 戻ってきてください!」
僕の声で亜蘭さんのほうを起こしてしまうかもしれない。でも、僕は先生を信じてる。先生のほうが先に戻ってきてくれるって。
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