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第3話 天邪鬼

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 その人はまぶしいくらい真っ白な服を着ていたから、すぐに分かった。

「待って、どうして姑獲鳥を封印してしまったの? どこに封印したの?」
「急に私に話し掛けてくるなんて失礼な子供だな。あのあやかしは人の子を喰らっていた悪しきものだったんだ封印されて当然だろう。それに場所は言わん。万が一封印が解けたら困る」

 若い陰陽師は僕が尋ねたことだけに淡々と答えた。

「僕たちはあの人を待っていたんだ」

 亜蘭が悲しそうに言う。

「お前たちは救われたんだよ」

 冷たい表情がそれだけ言って去っていく。

 心の中に浮かんだ「誰も救われていない」という言葉は先生のものであり、僕の考えた言葉でもあった。姑獲鳥さんが本当に悪いあやかしなのか知るために、心を見る能力を自分が持っていたら良かったのに、と先生である僕は思った。

「兄ちゃん、お腹空いたよ」

 二人の空腹感は限界に達していた。だから、仕方なく食べ物を人の畑から盗んだ。それがいけないことだと分かっていた。でも、子供だけで生きていくためにはそうするしかなかった。けれど、悪いことをすれば、いずれバチが当たる。それはいつの時代も変わらないことだった。

「待て! 碧い瞳のバケモノ!」

 その日、村に住んでいるある男から米を盗んだ。ちょうど都の役人に奉納するところで、追ってきたのは刀を持った役人の侍だった。僕は亜蘭さんを先に山の中に逃がし、自分はススキのところに逃げ込んだ。

「ごめんなさい、お腹が空いていたんだ。返す、返すから許して」

 追ってきた役人に僕は土下座をして正直に謝った。子供だから許してくれると思ったのだ。でも、その考えは甘かった。

「許されると思うな! このバケモノ!」
「うっ!」

 気が付いたら、僕はススキの中で横向きに転がっていた。背中が熱い。がさがさと役人が去っていく音が聞こえた。

 役人が去って、どのくらい経っただろうか、金色に光るススキをかき分けて亜蘭さんが僕を見つけた。その顔がみるみる恐怖に染まり、涙を流し始める。この光景は前に夢で見たものとまったく一緒だ。

「……!」

 やっぱり何を言っているか聞こえない。でも、今の僕には分かる。「兄ちゃん!」と亜蘭さんは僕のことを呼んだのだ。弟を一人には出来ないと思うけれど、頭がぼーっとしてきて、次第に目を開けていられなくなる。最後にはふわっと身体から魂が抜けたのが分かった。
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