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第2話 駄菓子化し
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「ん?」
視線を右横に向けてみると、古い木造の建物から見知らぬおじさんがゆっくりと手招きをしていた。怖くなって一応首に掛けた勾玉を見てみたけれど、特に変わった様子はなく、碧いままだった。
――良かった、あのおじさんはあやかしじゃないや。
「ぼ、僕ですか?」
恐る恐る開いているガラス戸から中を覗き込んでみると、そこは昔懐かしい駄菓子屋さんだった。街から駄菓子屋さんが減っている、という地域新聞の記事を学校の図書館で読んだことがある。確か、そこに載っていた写真にこんな感じの店内が写っていたはずだ。細い通路の両脇にずらっと小さな駄菓子が並んでいる。
――こんなところに駄菓子屋さんなんてあったかな?
「そうだよ、君だよ。少し寄っていかないか?」
店の奥の方に立ったままでニコニコ顔のおじさんは言った。
「いえ、僕、お金を持っていないので」
「別に良いよ、一つほしいのをあげるよ」
「いえ、いらないです」
おじさんは優しく言ってくれたけれど、僕はちゃんと断って歩き出した。もともと、そんなに裕福ではなくてお菓子なんて食べてこない生活を送ってきたからか、別に僕はお菓子がなくても大丈夫な人間になっていた。それよりも、数時間後に寮で出されるお昼ご飯の内容のほうが気になる。
そんなことを考えていると、僕のクラスメイトの森田という男子が前から歩いてきて僕とすれ違った。でも、いつも僕のことを無視しているから気が付いていないようだった。
「そこの君、駄菓子はいらないかい?」
僕と同じように森田はおじさんに声を掛けられていた。少し気になって僕は近くの電信柱の陰から二人のことを見てみることにした。
「お金ないから無理だよ」
森田はぶっきらぼうに答えて駄菓子屋の前を通り過ぎようとする。でも、おじさんは優しい声で「別に良いよ、一つほしいのをあげるよ」と言った。僕に言ったのと同じ言葉だ。
「え? タダ? じゃあ……」
森田は甘い言葉に誘われるようにお店の中に入って行ってしまった。見ている僕はドキドキしてしまう。このまま森田が出てこなかったらどうしよう、と思ってしまったのだ。
視線を右横に向けてみると、古い木造の建物から見知らぬおじさんがゆっくりと手招きをしていた。怖くなって一応首に掛けた勾玉を見てみたけれど、特に変わった様子はなく、碧いままだった。
――良かった、あのおじさんはあやかしじゃないや。
「ぼ、僕ですか?」
恐る恐る開いているガラス戸から中を覗き込んでみると、そこは昔懐かしい駄菓子屋さんだった。街から駄菓子屋さんが減っている、という地域新聞の記事を学校の図書館で読んだことがある。確か、そこに載っていた写真にこんな感じの店内が写っていたはずだ。細い通路の両脇にずらっと小さな駄菓子が並んでいる。
――こんなところに駄菓子屋さんなんてあったかな?
「そうだよ、君だよ。少し寄っていかないか?」
店の奥の方に立ったままでニコニコ顔のおじさんは言った。
「いえ、僕、お金を持っていないので」
「別に良いよ、一つほしいのをあげるよ」
「いえ、いらないです」
おじさんは優しく言ってくれたけれど、僕はちゃんと断って歩き出した。もともと、そんなに裕福ではなくてお菓子なんて食べてこない生活を送ってきたからか、別に僕はお菓子がなくても大丈夫な人間になっていた。それよりも、数時間後に寮で出されるお昼ご飯の内容のほうが気になる。
そんなことを考えていると、僕のクラスメイトの森田という男子が前から歩いてきて僕とすれ違った。でも、いつも僕のことを無視しているから気が付いていないようだった。
「そこの君、駄菓子はいらないかい?」
僕と同じように森田はおじさんに声を掛けられていた。少し気になって僕は近くの電信柱の陰から二人のことを見てみることにした。
「お金ないから無理だよ」
森田はぶっきらぼうに答えて駄菓子屋の前を通り過ぎようとする。でも、おじさんは優しい声で「別に良いよ、一つほしいのをあげるよ」と言った。僕に言ったのと同じ言葉だ。
「え? タダ? じゃあ……」
森田は甘い言葉に誘われるようにお店の中に入って行ってしまった。見ている僕はドキドキしてしまう。このまま森田が出てこなかったらどうしよう、と思ってしまったのだ。
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