天乃ジャック先生は放課後あやかしポリス

第１話 悪商人

４

　先生は自信満々な顔で言い切った。瞬間、クラス中の視線が先生に向けられる。「何言ってるんだ？」という視線だ。

「悪いことをしたやつはすぐに分かるぞ。さあ、席につけ」

　表情を変えず、先生はパンパンと手を二回叩いた。

「せんせー、本当に心の中が見えるんすか？　じゃあ、俺の心を見てくださいよー」

　諸江が先生を馬鹿にしたように言った。周りの人間もニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべている。

「良いぞ。諸江、お前が遠藤と冬木先生をいじめた主犯格だな。恐怖で周りの人間を操ってる。あと、今でもたまに夜中におもらしをする」

　先生の言葉にハッと静まり返る教室内、そして、その空気がクスクスという笑い声で埋まっていく。

「嘘を吐くなぁ！　親に言いつけてやる！　あんたは先生をクビになるぞ！　俺の親は教育委員会に顔がきくんだからな！」

　諸江は顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らした。

「別に言ってもらって結構だ。それじゃあ、出席を取るぞ？」

　何食わぬ顔で先生はクラスの出席を取った。そして、不思議なことにみんなちゃんと返事をした。数ヶ月ぶりの出席確認だった。

「これで朝礼は終わりとする。みんな、ちゃんと授業受けろよ？　——ああ、そうだ。今日の日直誰だ？　シンカイ？」

　　僕のクラスに日直なんてあったのか、と思うほど日直を気にされたのは久しぶりだった。そして、いじめられている僕の名前が黒板の日直の欄に勝手に書かれてあって、先生は僕が日直だと思ったらしい。しかも、さっき出席を取ったばかりなのに名前の読み方を間違えられた。

「ニイノミです」

　僕は席に座ったまま小さな声で言った。

「そうだったな、すまない。お前——へぇ……」

　先生は僕の顔を見た瞬間、関心したような表情をした。

「なんです？」
「いいや、なんでもない。黒板を綺麗に消しておいてくれ」

　そう言って先生は何食わぬ顔で教室から出ていった。一体何だったのだろうか。