真実

すず

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三章

佐々木結衣子

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駅の電車を乗り継ぎすし詰め電車を降り職場となるデパートへ向かう。
東京の中でも一、二位を争う大きさのデパートで結衣子はインフォーメーションで働いていた。MIZUNOデパートと大きな看板が目に入る。結衣子は大きく深呼吸をし関係者専用の入り口から中に入って行く。
スッタフルームに着くといつも一緒にインフォメーションで立っている
杉崎月乃と百田奈々がいた。二人は世間話をしながらコーヒーを口にしている。そのせいかスッタフルームにはコーヒーの匂いが充満している。
「おはようございます!」
最初に挨拶をしてきたのは杉崎だった。
杉崎月乃は結衣子と同じ年に入社してきた。だからなんでも話せる仲であった。彼氏がいるらしく時々残業を代わってあげることが多い。どうせ家に帰って何もやらないくらいなら会社で同僚と仕事をしていた方が気が紛れるだろう。と思い交代していた。
「おはようございます!佐々木さん。あれ髪留め新しくしました?」
そう話しかけてきたのは結衣子と杉崎より一つ年下。一年遅く入社してきた百田だった。仕事覚えが悪く、すぐにミスをしていた。部下のミスは上司の責任。にされてしまう。結衣子は今日は失敗しないでよ。などと密かに思っていた。今もミスは度々するが入社したての頃に比べたら成長しただろう。最初は新規のカードを作るお客さんの名前を間違えたり、パソコンのデーターを消したりと大変だった。
今は、お客様の駐車カードに押すスタンプの数を間違えたりしてお客様に指摘されている。最も恥ずかしいことに変わりはないが、これは自己責任と結衣子も、そして杉崎も捉えているようだった。せっかく綺麗に着こなしたスーツも脱ぎ制服に着替える。
スッタフルームを出て扉の前に立つ。開店まで後十分もあると言うのに店の前は客で賑わっていた。時々聞こえてくる中国語の賑やかなイントネーション。何を言っているかわからないがとにかく楽しそうだ。
開店の時刻十時ぴったりに音楽が流れ始めドアマンがガラス製の綺麗なドアを開ける。
店員全員で二列にそして両はしに並び頭を下げ挨拶をする。皆急いでいるのか、友人、家族と話しているのか返してくれる人は稀にいるくらいだ。
お客様は神様。
と言われているデパートでは店員誰もが嫌な顔一つ見せず対応する。入社当時はよく意味が理解出来なかった。お客様のいうことすべてを鵜呑みにするなんて想像すらもしていなかっただろう。と三年経った今は思える。
このデパートはお客様に自宅から商品を注文してもらうことも多い。専門店は注文できないが、デパート六階にあるMIZUNOデパート商品なら届けられることになっている。
グラス、陶器、ネクタイにブラウス。と言った風に何から何まで揃っているため六階の四分の一は占めているのではないか。結衣子は時々レジ係として応援に行くことがあった。若い女性がマグカップを買っていたり、学生がノートや文具を買って行く。都会なので勿論年齢層の高い夫人も沢山買い物に来る。陶器にガラス製の食器。結構値がはるだろう。きっと二つ合わせて五千円は簡単に超えてしまう。MIZUNO商品は安易な値段で手に入るものから裕福な人でないと手が届かないだろうというような商品が揃っている。
結衣子の仕事の中には注文された商品を発注するための伝票を書く仕事や直接届ける仕事も任されていた。杉崎も任されている。部長が百田に頼んだことがあったが初っ端からガラス製のグラスを落として割った。それからは直接届けることはなくなった。
挨拶が終わると急いでデパート一階、コーヒーショップの前にあるサービスカウンターに行き仕事を始める。続けて杉崎、百田という風にカウンターに入ってくる。
開始から三十分もしないうちに客がやってくる。四十代前半の女性。おそらく一人で買い物だろい。
「MIZUNOカードの期限が切れたみたいだから、引き継ぎ、新規登録?したいんだけどお願いできるかしら。」
甲高い声で夫人が言う。
「はい。勿論です。ありがとうございます。それではそちらのお席におすわりいただけまか?すぐにお伺いいたいします。少々お待ちください。」
結衣子は丁寧な口調でそして笑顔で返す。
MIZUNOカードとはMIZUNO商品を買い物するとポイントが貯まる。食料品もそうだ。ポイントが千ポイント以上たまると商品券と交換することができる。また無料でデパート内にある図書館に入ることが出来たりと色々な特典がある。年会費はかかっているがサービスがたくさんある。
「お客様にカードお作りします。」
と声をかけ引き出しから、ボールペン、バインダー。後ろの棚から書類を出す。そして机の上にあった機会を持ち夫人の待つテーブルに向かう。
「大変お待たせいたしました。」
十五分前後で手続きを済ませると夫人は去っていた。一週間後にカードを送るためにパソコンに入力する。
その後、落し物や他のカード手続き電話対応。杉崎も急がそうだ。百田はノートパソコンで色々と記録をしている。そっちの方が楽だと思うが失敗をされて手間がかかるよりは何倍もいい。きっと杉崎もそう思っているだろう。そうしている間にお昼休憩になる。お昼の時間帯一時間は他の店員に代わってもらえるので落ち着いて昼食をとることができた。朝は基本弁当などをつきっている暇は到底ない。それは三人とも共通していた。ごく稀に二人のうちのどちらかが
明日は弁当にしよう。
と提案すると朝出勤前にコンビニに寄って弁当を買ったり作ったりとするが、その割合は二ヶ月に一回程度だった。残りはほぼ外食だ。ここは東京の街。一歩でも外に出れば少し歩くだけでお洒落なフレンチレストランから落ち着いた感じの和食屋、安くて美味しいと評判のうどん屋もあった。
今日は三人で最近できたばかりの洋食屋に行くことになった。
スタッフルームに戻り鞄を手にする。帽子をロッカールームに置き鍵をする。
スマートフォンをチェックする。メールが一件来ているマークが出ている。開こうとしたところで
「結衣子ちゃん、そろそろ行こう。昼休み終わっちゃう。」
杉崎の声だ。急いでスマートフォンをかばんいに突っ込み
「はーい。今行く。」
簡単な返事をしロッカールームを出る。
「ごめん。ごめん。行こう。」
「お腹空いちゃったー。初めてだから特典あるかな。」
そんな会話をしながら関係者専用通路から外に出る。朝は快晴だったのにどんよりと厚い雲に覆われジメジメしてなんだか気持ちが悪い。折り畳み傘を持って来てよかった。と思いながら三人で並んで歩く。


洋食店はとても綺麗だった。綺麗な照明に緑の植物が溢れている。
結衣子はペペロンチーノ、杉崎は海鮮パスタ、百田は野菜パスタを選んだ。
「そういえば、昨日実家から電話があったんです。」
百田が言うと烏龍茶を飲みながら結衣子と杉崎は頷いた。
「たまにはこっちにも帰って来いって。いいお婿さんを紹介するぞ。なんて。何考えてるのか分かりません。こっちに上京して来たばっかりなのに。広島に帰るなんて絶対嫌です。」
百田は首を横に振りながら言った。百田は広島県の出身だ。歓迎会の時鉄板焼きの店に行きお好み焼きや、焼きそばなどを上手く焼き上司から人気を集めていたな。と思い出した。
ふと向かいに座っている杉崎を見ると右手を左手の下に置いている。時々見せる杉崎の手のくせ。
まるで…田辺千春みたいだ。
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