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第1章 山岳国家シュウィツアー
第11話 アイリスの誤解
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ロゼラインの魂はクロとともに再び現世へ戻った。
何時間も話し込んでいたような気がしたが現世を離れた時から一時間ほどしか経っていなかった。
ロゼラインはアイリスが住むウスタライフェン公爵邸の玄関前にいた。
魂だけなので門も玄関の扉もすり抜けられて便利だ。
屋敷は生きている時に何度か訪れたことがあるので、アイリスの部屋の場所はわかっていた。ロゼラインは一直線にそこに向かった。この世界は日本人の北山美華が生きていた世界より女性に対する貞操観念が厳しく、特に王室に嫁ぐ女性に求められる基準は古臭いほど厳格だ(サルビアのようにすぐに男にしなだれかかる女性を婚約者に決めたのは例外中の例外)。
ゆえに現代日本で例えるならば、アイリスは今、強〇でもされたかのごとくショックを受けているだろう。思いつめて早まった考えに至るのでは、と、ロゼラインは危惧していた。
アイリスは部屋でうずくまって泣いていた。
さきほど、婚約解消を願い出る内容の手紙に封をし、ゼフィーロ王子に届けるよう家の侍従に頼んだばかりだった。侍従は手紙の内容は知らないまま命令通り王宮に向かっていった。
部屋の扉をすり抜けてアイリスの目の前に立ちロゼラインは叫んだ
「アイリス!」
アイリスは目を見張った。悲しみのあまり自分の目がおかしくなったのではないかと思った。
「ロゼライン様……?」
「あなたは悪くない! あなたが自分を責める必要はどこにもない!」
「ロゼライン様、お迎えに来て下さったのですか? こうなった以上、私も……」
おいおい、すでに人生あきらめたようなこと言っているよ。
少女らしい感傷も混じっていると信じたいが。
「ち・が・う!」
ロゼラインは声の限り叫んだ。
肉体を持っていた頃ならそれでせき込んでしまうところだが、魂だけの今はそうならないようだ。そして必死だったので忘れていたが、ロゼラインの姿が見えるのは彼女の死を心から悼んでいる者だけ。アイリスに自分の声が届いていることを心底うれしく思った。
「あのね、ヨハネス・クライレーベンがあなたにしたことも全部知っている、気づかなかっただろうけど、上空から見ていたの。あなたが恥じる必要はない、恥さらしなのはクライレーベンの方よ!」
「見ていた、そんな! でも、だったら……、わかりますよね」
「いやいや、だからね……」
「ロゼライン様がお亡くなりになってから考えていたのです。家同士の都合でいやいや婚約関係を結んでいたのは王太子殿下だけじゃなくゼフィーロ様もではないかと。私は臆病だから面と向かって婚約破棄を告げられるのが怖くて、今回のことを口実に自分からそれを願い出ているというところもあるのですよ」
「それもちがう!」
ロゼラインは再び叫んだ。
どうやらアイリスは、ロゼラインの婚約者だったパリス王太子と同様、弟のゼフィーロ王子も内心彼女との婚約を迷惑がっていると思い込んでいたようだ。確かにゼフィーロは兄のパリス同様、婚約者に対する接し方について、紳士的な丁寧さはあっても恋人のような甘やかさを感じさせる要素は何一つなかった。
しかし、パリスとは違うということをロゼラインは知っている。
王族の婚約者として任された業務に対する質問や手伝いのため、アイリスはしょっちゅう王宮内のロゼラインの部屋を訪れていた。
彼女が訪れている時、彼女の婚約者のゼフィーロも、表向きは未来の義姉であるロゼラインのご機嫌うかがいのような顔でやってくることがよくあった。そこでも、婚約者であるアイリスにかける言葉はそっけないところがあったが、彼女の一挙一動をもらさず目で追っていた様に、ロゼラインは思わず笑いがこぼれそうになることが幾度となくあったのだ。
迷惑がっているなんてないわ、でもそのことを私の口から言っても……。
「さきほど、婚約解消をお願いする手紙を送ったことですし……」
「なんですとっ!」
やっぱり早まっていたか!
「それは、いつ?」
ロゼラインは尋ねた。
「家に帰ってすぐですから、一時間ほど前かと……」
アイリスは答えた。
王宮に隣接するウスタライフェン邸からではすでにゼフィーロ王子の手に届いている可能性が高い。すぐに話をしに行って誤解を解かなければ。
「アイリスはここにいて、私がゼフィーロと話をしてくるから」
そういうとロゼラインはアイリスの目の前から煙のようにかき消えた。
何時間も話し込んでいたような気がしたが現世を離れた時から一時間ほどしか経っていなかった。
ロゼラインはアイリスが住むウスタライフェン公爵邸の玄関前にいた。
魂だけなので門も玄関の扉もすり抜けられて便利だ。
屋敷は生きている時に何度か訪れたことがあるので、アイリスの部屋の場所はわかっていた。ロゼラインは一直線にそこに向かった。この世界は日本人の北山美華が生きていた世界より女性に対する貞操観念が厳しく、特に王室に嫁ぐ女性に求められる基準は古臭いほど厳格だ(サルビアのようにすぐに男にしなだれかかる女性を婚約者に決めたのは例外中の例外)。
ゆえに現代日本で例えるならば、アイリスは今、強〇でもされたかのごとくショックを受けているだろう。思いつめて早まった考えに至るのでは、と、ロゼラインは危惧していた。
アイリスは部屋でうずくまって泣いていた。
さきほど、婚約解消を願い出る内容の手紙に封をし、ゼフィーロ王子に届けるよう家の侍従に頼んだばかりだった。侍従は手紙の内容は知らないまま命令通り王宮に向かっていった。
部屋の扉をすり抜けてアイリスの目の前に立ちロゼラインは叫んだ
「アイリス!」
アイリスは目を見張った。悲しみのあまり自分の目がおかしくなったのではないかと思った。
「ロゼライン様……?」
「あなたは悪くない! あなたが自分を責める必要はどこにもない!」
「ロゼライン様、お迎えに来て下さったのですか? こうなった以上、私も……」
おいおい、すでに人生あきらめたようなこと言っているよ。
少女らしい感傷も混じっていると信じたいが。
「ち・が・う!」
ロゼラインは声の限り叫んだ。
肉体を持っていた頃ならそれでせき込んでしまうところだが、魂だけの今はそうならないようだ。そして必死だったので忘れていたが、ロゼラインの姿が見えるのは彼女の死を心から悼んでいる者だけ。アイリスに自分の声が届いていることを心底うれしく思った。
「あのね、ヨハネス・クライレーベンがあなたにしたことも全部知っている、気づかなかっただろうけど、上空から見ていたの。あなたが恥じる必要はない、恥さらしなのはクライレーベンの方よ!」
「見ていた、そんな! でも、だったら……、わかりますよね」
「いやいや、だからね……」
「ロゼライン様がお亡くなりになってから考えていたのです。家同士の都合でいやいや婚約関係を結んでいたのは王太子殿下だけじゃなくゼフィーロ様もではないかと。私は臆病だから面と向かって婚約破棄を告げられるのが怖くて、今回のことを口実に自分からそれを願い出ているというところもあるのですよ」
「それもちがう!」
ロゼラインは再び叫んだ。
どうやらアイリスは、ロゼラインの婚約者だったパリス王太子と同様、弟のゼフィーロ王子も内心彼女との婚約を迷惑がっていると思い込んでいたようだ。確かにゼフィーロは兄のパリス同様、婚約者に対する接し方について、紳士的な丁寧さはあっても恋人のような甘やかさを感じさせる要素は何一つなかった。
しかし、パリスとは違うということをロゼラインは知っている。
王族の婚約者として任された業務に対する質問や手伝いのため、アイリスはしょっちゅう王宮内のロゼラインの部屋を訪れていた。
彼女が訪れている時、彼女の婚約者のゼフィーロも、表向きは未来の義姉であるロゼラインのご機嫌うかがいのような顔でやってくることがよくあった。そこでも、婚約者であるアイリスにかける言葉はそっけないところがあったが、彼女の一挙一動をもらさず目で追っていた様に、ロゼラインは思わず笑いがこぼれそうになることが幾度となくあったのだ。
迷惑がっているなんてないわ、でもそのことを私の口から言っても……。
「さきほど、婚約解消をお願いする手紙を送ったことですし……」
「なんですとっ!」
やっぱり早まっていたか!
「それは、いつ?」
ロゼラインは尋ねた。
「家に帰ってすぐですから、一時間ほど前かと……」
アイリスは答えた。
王宮に隣接するウスタライフェン邸からではすでにゼフィーロ王子の手に届いている可能性が高い。すぐに話をしに行って誤解を解かなければ。
「アイリスはここにいて、私がゼフィーロと話をしてくるから」
そういうとロゼラインはアイリスの目の前から煙のようにかき消えた。
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