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アレンディナの大立ち回り

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 帝国中の王侯貴族が集う新年の宴。

 今年は例年にも増して贅を凝らした衣装を身に着けて出席することにしました。

 私はデザインもシンプルで飾りも最小限にした衣装の方が好きなのですが、今回はこれから行う大立ち回りの演出を考えても、誰よりも豪奢な見た目でいなければならないのです。

 ノヴィリエナ公爵家揃っての入場は出席している人々の注目を集めます。

 私のことは兄がエスコートしてくださいました。

 私のドレスの裾に小粒のダイヤモンドがいくつもちりばめられているのですが、それに合わせて兄の衣装の上着にも、今まで以上にダイヤを縫い込んでおります。

「いつにもましてブティックのマネキンになった気分だ」

 衣装を身に着けた兄が言います。

 ふふ、そうですわね。
 私たち高位貴族、特に筆頭公爵家の者は帝都のトレンドをリードする存在ですから。

 ああ、さっそくたくさんの人、特に私たちと同じくらいの若い令嬢や令息が集まってまいりました。 
 久しぶりに帝都のお友達とおしゃべりする機会ができましたわ。

 私や兄を中心に談笑の輪が広まっていたところ、無粋にもその中に割って入り、これ見よがしに大声で楽しい空気をぶち壊すものが現れました。

「おい、アレンディナ!」

 ヴァカロ様です。

「どういうつもりだ、年末も今も夫となる俺のところに挨拶にも来ず、こんなところで……」

 ぶしつけにも私の目の前に立っていた令嬢たちの背中を押しのけて近づいてきました。

「衛兵! ろうぜき者だ、取り押さえよ!」

 兄が大きな声で衛兵を呼び、衛兵は直ちにヴァカロ様を組み伏せました。

「ぐっ、何をする! 俺はエストゥード王太子……、貴様ら、俺にこんなことをして……」

 じたばたとまだ抵抗の様子を見せるヴァカロ様。

 私は腕を払って衛兵たちにひくように命じました。

「ヴァカロ様、あなたは先ほど、ご令嬢たちの背後から不用意に近づいてそのお身体に触れましたね。見てください、彼女たちはすっかり脅えて。若い未婚の女性へのそのような振る舞い、帝国紳士としてふさわしくありませんわ」

 衛兵から解放されて立ち上がったヴァカロ様に私は注意しました。

「うっ、それは……。いや、しかし、そもそもそなたが悪いのであろう。婚約者たる我が帝都に赴いたというのに、挨拶もなしで。本来ならエストゥードでの償いに、われとわが姉や両親を招き歓待をせねばならぬところではないのか!」

 ヴァカロ様の言いたいことは要するに、俺たち家族をもてなせ、と、言うことですね。

「どこまでも厚かましいな」

 兄が私に耳打ちしました。

「償いとは何ですの? そもそもそこから理解できませんわ?」

「なんだと! 貴様、婚約者としてその態度は何だ! エストゥードに世話になっておきながら……」

 大きな声で下品にがなる様といい、見るに堪えなかったので、私は扇でヴァカロ様の顔をはたきました。

「痛っ、何をする!」

「歓待しろとおっしゃるので、そうさせていただいたまでですわ。エストゥードでは帝都では考えられない歓待を受けましたので、それがその土地のやり方だと理解いたしました」

「はあ?」

 私は再び扇で彼の顔をはたきました。

「エストゥードの王女ホアナさまはいきなり私の顔を扇ではたきました。最初はびっくり致しましたが、あれはホアナ様なりの親しみの表現だったのですね。ですから私もそのやり方に倣ったまでのことでございます」

「そんなやり方がエストゥード風なわけがない!」

「これは異なことを? 帝国貴族の序列は降嫁しようと変わらないので、私はどこへ行っても序列第四位の公女です。生家は皇位継承権一位。それが第五位の家に嫁がれ、序列のうえでは、ええ、第何位かは数えるのも面倒なくらいですが、そのような方が私に対して『叱責』を意味する行為をされるなんて、そうとでも理解せねば納得できないじゃありませんか」

「ええい、二言目には序列序列と! そなたが至らぬところを義姉の立場で叱責しただけであろうが!」

「それがわからぬと申し上げているのです。ヴァカロ様が本来ならやるべき視察を私は代わりに行っていたのです。その間ヴァカロ様は王宮におられ手が空いていたのに何もせず、それでホアナ様の歓待が行き届かないと私を責められた。いくら私でも体が二つあるわけじゃなし、怠けておられたヴァカロ様の尻拭いをしなかったことを責められましても」

 ふたたび、えいっ、えいっ、と、二回扇ではたきました。

 さらにくるっとターンをして一回。

 踊りの動作の中に扇ではたく動作を混じらせるやり方、なんだか癖になりそうですわ。

 あらあら、会場のそこかしこからくすくす笑う声が漏れ聞こえてまいりましたわね。



【作者メモ】

 アレンディナのやっていることがなんだかハリセンで相手をどつく漫才みたいになってきました。
 もちろん帝都育ちの彼女が、ハリセンやどつき漫才を知っているは思えませんが。


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