王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
1 / 51

第1話 姉妹格差

しおりを挟む
「妹に譲ってあげればいいでしょう! 姉なんだから我慢しなさい!」

 メディア王国有数の名家、ファヴォリティス侯爵家の双子姉妹、メルとエメ。

 エメのわがままを受け入れなかったメルに対して、両親が言うことはいつもこれだ。

 双子なので顔立ちや体形はほぼ同じだが、髪と瞳の色の違いから二人の印象は正反対。ハニーブロンドに碧眼のエメは華やかで愛嬌があり、薄茶の髪に深緑の瞳のメルはまじめで硬い印象がある。

 そのせいかいつも大人がかまいたがるのはエメの方。
 物心ついた時から、自分の見た目が姉のメルより他人をひきつけるとエメは気付いていた
 だから、メルよりワンランク上質の物を使い、周囲に気を使ってもらわなければ気が済まない性格となった。

 メルはすっかりあきらめて高価なものを欲しがらない性格となったが、それでもエメはメルの大事なものを取り上げようとする。

 例えば誕生日プレゼント。

 エメが最新流行の宝石がセッティングされたブローチを欲しがったのに対し、メルは色ガラスの細工のペンダントを欲しがった。

 両親はそれぞれ二人にプレゼントをする。

 エメに高価な贈り物をして、自分には安い物しかくれない親の態度に心のざわつきは止められないが、それでもそのペンダントを気に入っていたので大事に使っていると、それをエメが欲しがった。

 そして、あのセリフである。

 手に入れた後、大事に使うわけでもないのに、奪い取るまで両親に泣きついて止まらなかった。

 
 十代半ばになり、貴族の催しに家族そろって出かけるようになると、エメとメルの身に着けている物の格差が衆目にも明らかになり、それについてこそこそと言われるようになった。

 体裁が悪いと感じた母親は、
「この娘は飾りの少ない地味な服装が好きでしてね。私たちももっと華やかに着飾ったらと言ってはいるのですけど……」
 そういってごまかした。

 両親の態度に思うところのあったメルはある日、人々の間でぶちまけた。

「安っぽくて地味なものが好きだなんて嘘です。両親はエメにだけお金を使って私には我慢させるんです。私だって宝石を見ればきれいだと思うし、フリルやレースの付いた衣装を素敵だと思っています!」

 顔をつぶされた両親は、家に帰るとメルを罵倒し頬をひっぱたいた


 そしてその後はメルにも周囲の人々にも、こう言うようになった。

「エメの方が良い家のご子息と結婚できそうな見た目なのだから、お金をかけるのは当たり前でしょう!」

 つまり開き直ったのである。

 貴族にとって婚姻は家の命運をかけるものだから、それを姉妹差別正当化の理由にしたのである。

 

 やがて、姉妹とも十八歳、貴族令息の釣書が寄せられる中、突然父親がメルに言った。

「メル、お前の嫁ぎ先が決まった」

 姉のメルより先に結婚できるだろうと思っていたエメは愕然とし、メルをにらみつけた。

「まあ、安く売れる方を先に出すってやり方もあるわよね」

 母親はつぶやき、エメをそれとなく慰めた。

「嫁ぎ先は王族だ。お前は王太子妃になるのだ」

 
「「「ええっ!」」」

 当の本人のメルも、母親やエメも驚いた。

「あり得ない! 王太子って言ったら国王の次に身分の高い殿方じゃないの! どうしてそんな方のところにメルが?」
「あなた、それならエメの方がいいのではありませんか?」

 エメと母が不満の意を漏らした。

「まあ、いずれわかる。三日後に一家で王族と顔合わせをするからそのつもりでな」

 含みを持った父親の言葉にメルもエメも、そして母親も首をかしげるだけだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...