20kHz

べいかー

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恋心 二

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 亜美子とトシが通話を始めてから、約1週間が経とうとしていた。その間、2人は、2010年代について、また1980年代について互いに語り合い、お互いの情報交換をしていた。また、お互いに同じ大学のフランス文学の専攻ということもあり、大学に関する話をしたり、フランス文学について語ったりもしていた。
 その中でも特に、2015年現在の、亜美子の大学のフランス文学の教授が、1985年の時点では同じ大学の大学院生だったということが分かり、2人はその話で大いに盛り上がった。
 「えっ、河北誠教授って、そっちでは大学院生なんですか?」
「え、あ、はい。ということは、河北さんは教授になったんですね?」
「え、まあそういうことになりますかね。
 でも若い頃の河北教授って、どんなでした?やっぱり厳しい人ですよね?私、この間もレポート提出したんですけど、
『中田さんのレポートは、いつも詰めが甘いですよ。』
って言われちゃいました。本当に、河北教授は厳しいんです。」
「え、そうなんですか?意外だな~。河北さん、文学に対する造詣は確かに深いみたいなんですけど、ちょっと抜けてるっていうか、何というか…。この間も、修士論文の発表会があったんですけど、その当日に、何と自分の論文のレジュメ、忘れてきたんです。」
「え~そうなんですか!?ちょっと驚きです。河北教授、忘れ物に対しても、厳しいですよ。
『忘れ物をするということは、気が抜けているということです。』
とか何とか、よく言っています。」
「え、そんなこと言ってるんですか?こっちも驚きですね。」
「全く、それじゃ人のこと言えないですよね!
 でも、河北教授の、若い頃の意外な一面、知ることができました。ありがとうございます!」
「いえいえ、それは僕も同じです。
 ただ、その後レジュメを取りに帰って、遅れて発表をされたんですが、その発表は、素晴らしかったです。テーマはモーパッサンについてだったんですが、やっぱり、この人は文学に対する造詣が深いだけではなく、文学を愛しているな、そう思わせる内容でした。その河北さんが30年後には教授…、分かる気がします。」
「私も、ちょっと厳しいけど、河北教授のこと、嫌いじゃないです。」
 このような話で、2人は盛り上がっていた。
 また、2人はフランス文学や、フランスについても、話をした。
 「ところでアミさんは、フランスに行かれたことはないんですか?」
「私、まだないんです…。いつか、行ってみたいとは思うんですけど。トシさんは?」
「僕もないです。行ってみたいんですけどね。 
でもこれから、行けるかどうか…」
「えっ、行きましょうよ、フランス。」
「そ、そうですね。また行けたら、行きたいと思います。
 ところでアミさんは、好きなフランスの作家はいますか?」
「私は、作家というか、哲学者のサルトルが好きです。今、彼の『嘔吐』を、フランス語の原文で読もうと頑張っています。でも、なかなか難しいです…。」
「なるほど。サルトルは、日本語で読んでも難しいですよね。
 僕は、カミュが好きです。僕も彼の『異邦人』を、原著で読もうとしています。でも、フランス語って難しいですよね…。」
「私もそう思います…。でも、お互い頑張りましょうね!」
「そうですね。Merci beaucoup!(ありがとうございます!)」
「Il n‘y a pas de quoi!(いえいえ!)」
2人は、フランス語も冗談で交え、こう言い合った。
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