20kHz

べいかー

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20kHz 四

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 ※ ※ ※ ※
 「へえ~。2020年には、東京で2回目の、オリンピックが開かれるんですね!」
「そうなんです。私、こう見えてスポーツ観戦も好きなので、すごく楽しみにしています!まあ、こう見えてって言っても、トシさんには姿は見えないですけどね。」
「僕もスポーツ観戦は好きですよ!こっちは今度、1988年に、ソウルでオリンピックが開かれます。まあご存知かとは思いますが…。でも、ちょっと、見ることはできないかもしれませんね。」
「え、どうしてですか?」
「いやまあちょっと、忙しかったりして…。」
「ふうん、そうなんだ。何なら私が結果、教えましょうか?」
「それは止めてください。楽しみがなくなっちゃいますから。これ、未来のことを必要以上に話さないってこと、過去の人と話す時のマナーですよ!」
「そんなマナー、誰が考えたんですか?」
「もちろん、僕が今考えました。」
「何ですかそれ!そのマナー、絶対ここ以外では通用しないですよね!」
「まあ、そうかもしれませんが…。冗談ですよ。」
「分かってます!」
2015年12月22日。(1985年12月22日)亜美子とトシの2人は、オリンピックの話題で、楽しそうに話をしていた。ちょうど、たまたま話題が好きなスポーツのことになり、亜美子がトシに、東京オリンピック開催について、伝えたのであった。
 2人は、亜美子がトシの写真を見つけ、トシに謝ってから、毎日、夜の時間に通話をしていた。そして、2人の話は弾み、話題は2人の通う大学のことや、今流行っている映画、音楽など、多岐にわたった。(そしてそれらの話題で、2人はお互いに過去、また未来のことについて伝え合うので、2人は普通の友達との会話では得られない、新鮮さを感じていた。)
 そして、オリンピックのことで会話が弾んだこの日、亜美子が、トシにある提案をした。
「そういえばトシさん、この通話に、コミュニティネーム、つけません?」
「?コミュニティネーム?何ですかそれ?」
そうか、トシさんには分からないか、亜美子は瞬時にそう思い、SNSの説明を、トシにしようとした。
「私がいる2010年代には、SNSというものがあります。これは、『インターネット上の交流を通して社会的ネットワークを構築するサービスのことである。』…ネットの辞書にはそう書いてあります。すみません、うまく説明できなくて。
 要は、『インターネット』という、パソコンとパソコンを繋ぐようなシステムで、私たちは通話をしたり、手紙のようなものを送ったりできる、ということです。ちなみに、この『インターネット』では、辞書を見たり、好きな芸能人のことについて調べたり、いろんなことができます。トシさんは、インターネットについても、知らないですよね?」
「そうですね…。ちょっとピンと来ないですが、要はパソコンで、情報のやりとりができる、そういうことですかね?」
「すごい!私の拙い説明で、そこまで理解してくれて、嬉しいです。
 それで、『コミュニティ』の説明なんですが、これはパソコン上の、サークルみたいなものです。私たち2010年代の人間は、その、パソコンやスマホ上の『コミュニティ』に入って、お互いに情報のやりとりをしたりしています。そのコミュニティの名前を、『コミュニティネーム』って言います。」
「なるほど。何となく分かりました。要は、サークルネームと似てるってことですね。」
「そうですね。」
亜美子は、トシの説明に対する飲み込みの速さに、少し驚いた。自分が逆の立場で、例えば30年後の、2040年代の人から説明を受けた場合、ここまで理解できるだろうか?そう思うと、亜美子は自信がなかった。
「それで、もちろん無線とパソコンは違いますが、私たちも一応通話しているわけですし、その『コミュニティネーム』、欲しいなと思いまして。どうですトシさん、いいアイデアありますか?」
そう訊かれたトシは、少しの間黙り込んで考え、こう答えた。
 「そうですね…。では、『20kHz(キロヘルツ)』っていうのはどうですか?」
「『20kHz』ですか?名前の由来は?」
「そうですね。実は、20kHzっていうのは、超音波のヘルツなんです。もちろん、諸説あるのですが、超音波は、一般的に20kHz以上のヘルツ数の、音波であると言われています。ちなみに、僕は一応無線をやっているので、ヘルツに関しては詳しいですよ。超音波は、ご存知かもしれませんがコウモリが使っていて、…」
 「あ、また話が脱線してますよ!」
亜美子は、夢中になるとすぐに話を脱線させるトシを、かわいいと思った。
「すみません、つい…。
 名前の由来でしたね。それで、その、超音波みたいに、本来は聴こえないはずの、過去・未来の声同士で、僕たちは通話をしている、これってすごいことだと思うんです。だから、超音波になぞらえて、『20kHz』!どうです、格好よくありません?」
「なるほど。超音波ですか。私はその辺は詳しくないので、素直になるほど、って思いました。いいですね、『20kHz』!よし、それにしましょう!」
「気に入ってもらえて良かったです。ありがとうございます!」
 亜美子は、新たに決まったトシとのコミュニティネームに、ご満悦の様子である。トシも、そんな亜美子の様子を、ヘッドホン越しに感じ、嬉しくなった。
 「ところで、超音波の話、もっと聴かせてくれません?さっきの話の続き、お願いします!」
「え、いいんですか?脱線した話ですよ?」
「もちろん!」
「では遠慮なく。…」
亜美子は、トシの話を、楽しそうに聴いていた。実際にトシの顔は見えなかったが、いきいきとしゃべるトシは、きっとキラキラした目をしている、亜美子はそう思った。
 そして、2人のコミュニティ、「20kHz」は、この日から、本格的にスタートした。
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