ワイルドアットハート

壱(いち)

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「お前なんか死ねばいいのにっ!」

わんわんと周りに恥ずかしげもなく泣き喚いて俺に暴言を吐く奴は、真っ黒な長髪をぐちゃぐちゃにしたノミでもいそうな鬘をして圧縮もせず半透明なレンズをはめた黒いフレームの眼鏡をし、制服を転校してきてまだ一度も洗濯しないで着ていると豪語する清潔さが見えない生徒。
ここは屋上で、今にも俺は地面へと突き落とされそうな状態だ。

ことの発端は昼休み、屋上で生徒会メンバーと転校生で昼御飯を食べようということになり、その他メンバーは勝手にそんなことを決めて無理矢理俺を参加させた。屋上は一般生徒も利用出来る場所でベンチもあるからチラホラこっちを気にする生徒がいる。

そんなところで、なにを興奮したのか転校生は自己自慢と言ったらいいのか?一人でペラペラ喋り、ナルシストなことを言い出してご自慢の鬘と眼鏡を外し、こう言った。

「どーだ!俺って可愛い上に綺麗で美人だろ!みんな可愛い可愛いって言って口説いてくるだ!」

うん。にこにこ笑って言ってくれるのはいいけど屋上は季節外れの木枯らしが吹くみたいに寒くなってきたよ。
その場はシーンと静まっていて反応出来ずにいる俺以外の生徒会メンバーの顔を見る。
分かる、分かるよその反応。どーせみんな絶世の美女みたいなの想像してたんだよね。目を見開いて驚く顔の副会長と二年の書記。会長はなんかがっかりした顔をしてみせ、ペットボトルのお茶を飲む。

ここは閉鎖的な男子校で顔が整ったジャニ系男子や肉食系男子とか清楚や清純派な女顔の奴なんかごまんといて、その中でも見た目がずば抜けてる奴が生徒会に選ばれる。
一週間前に転校してきた騒がしい奴は初日、案内役として目の前に現れた副会長に退屈凌ぎの接吻をされて舞い上がり、社交辞令の言葉を真に受けて一方的な友人関係を築き、理事長室までの道のりで鬘や眼鏡は変装だとバラす。
なんやかんや騒動を起こす転校生の行動を気に入った奴らは何かしら理由を付けて転校生につきまとい、本人自慢の素顔が隠れていると聞いたためかちやほやしだし、その様子を見ていた一部の生徒たちから転校生は反感をかった。それから奴は生徒会室に入り浸って会長には口説かれ、書記たちからはセクハラをされ、満更でもない転校生は顔を赤らめながら嬉しそうにデレた顔で怒鳴るようになった。俺からしてみれば気色悪い対象の奴だ。
周りにもてはやされる俺たちの前で変装を取った転校生は真っ白な髪に赤い目をし、形は猫っぽいか?ここに来る前にリップでも塗ったのか唇はグロス付けたみたいにベタベタしてる。身長は百六十あるかないかって書記が言ってたな。

絋貴コウキ!俺の目綺麗だろ?!」

名前呼びを許した覚えもなく馴れ馴れしい転校生は俺に近付いてきて座り、上目遣いで聞いてきた。

「普通」
「え?!」
「いやー、なに隠してんだろうって思ったけど、まさかこうくるとか」

はははは。どーすんの会長。前に転校生が生徒会室から出ていったあと、あれはグラビアの誰かに似ているに違いないや歌手の誰かににてるんじゃない?だのみんなで言ってたのに、蓋を開ければこの様だ。
大袈裟に言ったことに対して驚く奴は放置して会長を見れば。

「あーあー、期待外れだ。くそったれ。勿体ぶる見かけかよ」
「え?えっ」
「はぁっ、ざーんねーん」
「紘貴の言った通りでしたね」

会長と書記の間に若干焦り出す転校生の声が入るけど、苦笑いの副会長は残念がりながら肩を竦めた。

「な、なんでっ、なんでそんなことゆーんだお前ら!」

焦って俺たちを見ていた転校生は次に逆ギレして指を指してくる。主に俺めがけて。

「可愛いだろ!綺麗だろ?!」

今度はボロボロ涙を零して泣き出した。出会った当初から面倒くさいと思ってたけど更に上乗せさせた面倒くささだ。
声がやたらデカイせいで周りにいた生徒たちが遠まきに見ているのが分かる。

「残念だけど、その白い髪も赤い目もここでは対して珍しくない」
「う、嘘だ!」
「嘘じゃないよ。現にあそこにいる赤目の奴は裸眼」
「え?!」
「で、そこに立って見てる子の目は金色。ね?」
「そ、そんなっ」

赤目だって教える前にタンクの方に座る奴を見れば聞こえていたのか手を振られたので振り返す。ちょうど近くにいた子に聞けば裸眼のまま頷く。この子は綺麗だと思うよ。

「まさかお前だけが赤目だと思ってたのか」
「・・・っ。ち、違う!」
「アホラシー」

会長の言葉に動揺し、首を横に振っても説得力がないため書記に呆れられた。一人、美味しそうにサンドウィッチを食べている副会長は放置する。

「ねぇ、ここがどんなところか理事長に聞かなかったの?」
「聞いた!」
「・・・聞いてなかったんだろ」
「ここは日本でも稀な金持ち連中の巣窟なんだよ。そのせいか、お前みたいにどこかしら特異体質の奴は沢山いる。自惚れるのも大概にしとけ」
「会長に俺、副会長は三代財閥の血筋だからね。その辺にある学校とは規模が違うから」

ねぇ?って周りに目を向ければ頷いてくれてる。
会長が結構親切にしてることには驚きだけど、もう帰ろうとするので腕を掴んで止める。歩かせるもんか。

「なんでっ、なんで俺ばっかり悪者にするんだ!俺は悪くない!」
「はぁ?って、ちょっと?!」
「紘貴!」
「三井さん!!」

最初の方はもうやけくそになって言ってたけど、今までのは分かるように聞かせて知ればいいと思って言っていたのに、関係ない自分擁護ばかりを喚いて俺の腕を掴んだかとおもえば力強く体を引っ張られるように動かされて、今まさに屋上から突き落とされる寸前みたいな。笑えないんだけど。

会長や副会長に書記、後から来た生徒会の奴、周りの生徒が追い込まれたこっちを見て動き、声を出す。

「お前は酷いことばかり言ったりして俺を傷つけるっ!お前なんか死ねばいーんだっ!!」

あーあ、何を言っても聞かず、挙げ句の果てに人を突き落として殺そうだなんて、なんつー短絡的な考えだ。
離せ!と上半身を動かした隙に足を引っかけられてふらつき、近くにあったフェンスの縁を掴んだわいいが、がむしゃらに動いて無鉄砲な攻撃をしてくる相手に対した打撃は出来ない。

走り寄る会長と書記がいるけど、思いのほか体育会系な転校生は掴まれた腕なんかを振り解いて俺に最後の一撃を振り絞る。体勢を整える時間もくれやしない。

もう縋るものさえなく、会長の手が俺へと伸ばされても指先を掠って掴めなくてふわっとしたのち体が落ちていく。
人が死ぬって結構呆気ないもんだなと呑気に思い、痛いのは嫌だから一発で終わらせてぇ!とか頭の中で叫んだ俺は死ぬ覚悟を決めて目を閉じた。





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