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「ただいまー」
「・・・・・・ん、オカエリ」
ドアを閉めてキッチン脇を通り過ぎ共同スペースへ歩いて近付く。リビングなんか比較にもならない場所にある三人や四人が余裕で座れそうな黒い革張りのソファーへ悠々と座ってペットボトルの珈琲を飲んでいる男が見えた。言い慣れないことを言った同室者に笑みが零れ出る。
根元が少し黒くなってきたけど綺麗に染まっている赤い髪はコイツに良く似合ってる。
「幸村、顔色悪いぞ」
具合悪いのかって?そりゃあね、あんなアダルトな画像みたいなもの無修正で見たら気分も悪くなるだろ。コイツに八つ当たりしてもどうにもならないと知りながら腹いせに奴の体の左側にもたれかかる。
「八雲は飯食べた?」
「いや、お前待ってた。やけに疲れてるな、なんかあったのか?」
「・・・・・転校生に夜のオカズ扱いされた」
俺の体重が体の左側に掛かっているのに対した抵抗もなく、寧ろ肩を組まれて抱き込む感じにされるのを目を閉じて受け入れる。
また飲んでいた珈琲を噴き零したのか慌ててティッシュを取る八雲に笑ってしまう。
「おまっ、オカズって!なにがどうなってハァ?!」
「落ち着け」
「お前が慌てろよ!」
なんか面白いことになってるぞ。
寄りかかる俺の体を八雲と向き合うようにされて座っていても見上げなきゃいけない顔を見る。
流行りのピアスが片方の耳だけでもごっそりで、いつもは強面の顔が笑うと可愛い感じに崩れるのに今日はなんだか凄みが増してて怖い。
「なにがあったか話せるな」
「あー、うん。ホニャララみたいな?いたっ!」
「漫画みたいなこと言ってないでオカズ云々のことを言え」
「はい」
カクカクシカジカって漫画だと直ぐに相手に伝わるじゃないか。無理だとは分かっていてもやってみたかったんだ。デコピンは痛い、手加減しろよ。
風紀委員長のお使いで生徒会室に書類を持って行き、生徒会長と転校生のウハウハやら媚薬やら、会長にからかわれてまさかの自慰見学のことを話す。
「幸村」
「なーに?」
「二度と生徒会室なんて行くな」
ぎゅっと眉間を寄せて迫力のある顔をする八雲に自分から抱きつく。
煙草と柑橘系の香水の匂いをさせる奴にありがとうと耳元で言い、体を離して八雲を見ると片手で口を抑えて目線が下に下がっていた。
「八雲?」
「あ?飯食えるのか、そんなんで」
「多分」
腹は減ってる感じかな。ぎゅるぎゅる鳴りそうではある。
着替えてくるって言えば頷くので鞄を持って移動し自分の部屋に入った俺は鞄をキャスター付きの椅子に置いて服を物色する。
食堂に行くだけだし、ジーンズに長袖ティーシャツでいっか。風呂に入りたいけど八雲を結構待たせてたし、あとにしよう。
黒の布に銀色の染料で文字や柄が前身頃に描かれたのを、制服のシャツを脱いで着替える。下はダメージがあったよな・・・濃いめの色にするか。指定のズボンを脱いでジーンズに履き替え、ベッドに座るといつもしている長めのチェーンネックレスが小さく鳴った。ティーシャツの中じゃ可笑しいから出したけど、ちょっと目立つかな。今更か?
さて、食堂に行くとしよう。
「八雲、お待たせ」
軽く髪を手櫛で直して部屋から出ると、だらけきってソファーに座る八雲へ声をかける。
こっちを見た八雲は一瞬、目をみはったあとふわりと笑みをみせた。
笑うと印象が変わるよね。みんな知らずにコイツのこと怖がって遠巻きにしてるんだから可笑しな話だ。一匹狼なんて言われてるけど、こんなにスキンシップが好きな一匹狼なんているのかね。
くいっとネックレスに指を引っかけられて少し前のめりになる体をソファーへ膝をついて起き上がった八雲が抱きとめてくれる。
「パンク系好きか?」
「どーだろ。一目惚れしちゃったから買ったんだ。似合う?」
「ああ」
たまたま寄った店で黒いティーシャツをみつけて購入。セールだったのか値段も手頃で得した気分を味わったな、あの時。
ロザリオのチェーンネックレスが気になるのか、触ることを聞いていたから頷いてやる。フリーマーケットで外国からきた男の人が売っていたアクセサリー。かなり激安だったから購入したんだっけ。シルバーで出来たロザリオは甘ったるいデザインじゃなく妙に冷めざめとしたシンプルなデザインで目を惹いた品だ。
「八雲?」
ジッと見る先はチェーンを潜らせた二つの指輪にある。
目線が同じくらいの八雲にどうかしたのかと聞けば、二つの指輪に触れて内側に彫られているネームを確認してるし。何がしたいんだか。
「食堂行かないのか」
「行く」
もうちょっと見せろと言われて軽く笑ってしまった。興味津々だな、コイツ。サイズはデカイがネームは俺のものだ。対したことは分からないのに。
ペットに懐かれた主人の心境でニヤニヤしてたら頭を叩かれた。なに、考えてたこと分かったのか?
「あー、腹減ってきた。今日は定食なんだったか」
「さぁ。俺は麺類食べる」
漸く体を離してソファーから立ち上がった。
腹をさすりながら言う奴に含み笑って後ろに着いて歩き、部屋を出る。
「何食べるんだ?」
「盛り蕎麦」
「渋いな」
でしょ?って、歩きながら話し、エレベーターは使わずに階段を二人で降りていく。
最近、異様にエレベーターの使用率が高いのか中々下から上に上がってこないのにイライラした。それからは寮のエレベーターを使わなくなっている。
階段を降りながら今日は青山と食べないのかと聞かれて、約束はしてないと応えたら頭を撫でられた。滅多にない行動にでる八雲に面食う。
一階に降りると丁度見える生徒会御用達のエレベーターは今日も人が集まっていて五月蝿い。廊下は静かにって小学校で教わるのに、親衛隊も難儀なことだ。
20160215.
「・・・・・・ん、オカエリ」
ドアを閉めてキッチン脇を通り過ぎ共同スペースへ歩いて近付く。リビングなんか比較にもならない場所にある三人や四人が余裕で座れそうな黒い革張りのソファーへ悠々と座ってペットボトルの珈琲を飲んでいる男が見えた。言い慣れないことを言った同室者に笑みが零れ出る。
根元が少し黒くなってきたけど綺麗に染まっている赤い髪はコイツに良く似合ってる。
「幸村、顔色悪いぞ」
具合悪いのかって?そりゃあね、あんなアダルトな画像みたいなもの無修正で見たら気分も悪くなるだろ。コイツに八つ当たりしてもどうにもならないと知りながら腹いせに奴の体の左側にもたれかかる。
「八雲は飯食べた?」
「いや、お前待ってた。やけに疲れてるな、なんかあったのか?」
「・・・・・転校生に夜のオカズ扱いされた」
俺の体重が体の左側に掛かっているのに対した抵抗もなく、寧ろ肩を組まれて抱き込む感じにされるのを目を閉じて受け入れる。
また飲んでいた珈琲を噴き零したのか慌ててティッシュを取る八雲に笑ってしまう。
「おまっ、オカズって!なにがどうなってハァ?!」
「落ち着け」
「お前が慌てろよ!」
なんか面白いことになってるぞ。
寄りかかる俺の体を八雲と向き合うようにされて座っていても見上げなきゃいけない顔を見る。
流行りのピアスが片方の耳だけでもごっそりで、いつもは強面の顔が笑うと可愛い感じに崩れるのに今日はなんだか凄みが増してて怖い。
「なにがあったか話せるな」
「あー、うん。ホニャララみたいな?いたっ!」
「漫画みたいなこと言ってないでオカズ云々のことを言え」
「はい」
カクカクシカジカって漫画だと直ぐに相手に伝わるじゃないか。無理だとは分かっていてもやってみたかったんだ。デコピンは痛い、手加減しろよ。
風紀委員長のお使いで生徒会室に書類を持って行き、生徒会長と転校生のウハウハやら媚薬やら、会長にからかわれてまさかの自慰見学のことを話す。
「幸村」
「なーに?」
「二度と生徒会室なんて行くな」
ぎゅっと眉間を寄せて迫力のある顔をする八雲に自分から抱きつく。
煙草と柑橘系の香水の匂いをさせる奴にありがとうと耳元で言い、体を離して八雲を見ると片手で口を抑えて目線が下に下がっていた。
「八雲?」
「あ?飯食えるのか、そんなんで」
「多分」
腹は減ってる感じかな。ぎゅるぎゅる鳴りそうではある。
着替えてくるって言えば頷くので鞄を持って移動し自分の部屋に入った俺は鞄をキャスター付きの椅子に置いて服を物色する。
食堂に行くだけだし、ジーンズに長袖ティーシャツでいっか。風呂に入りたいけど八雲を結構待たせてたし、あとにしよう。
黒の布に銀色の染料で文字や柄が前身頃に描かれたのを、制服のシャツを脱いで着替える。下はダメージがあったよな・・・濃いめの色にするか。指定のズボンを脱いでジーンズに履き替え、ベッドに座るといつもしている長めのチェーンネックレスが小さく鳴った。ティーシャツの中じゃ可笑しいから出したけど、ちょっと目立つかな。今更か?
さて、食堂に行くとしよう。
「八雲、お待たせ」
軽く髪を手櫛で直して部屋から出ると、だらけきってソファーに座る八雲へ声をかける。
こっちを見た八雲は一瞬、目をみはったあとふわりと笑みをみせた。
笑うと印象が変わるよね。みんな知らずにコイツのこと怖がって遠巻きにしてるんだから可笑しな話だ。一匹狼なんて言われてるけど、こんなにスキンシップが好きな一匹狼なんているのかね。
くいっとネックレスに指を引っかけられて少し前のめりになる体をソファーへ膝をついて起き上がった八雲が抱きとめてくれる。
「パンク系好きか?」
「どーだろ。一目惚れしちゃったから買ったんだ。似合う?」
「ああ」
たまたま寄った店で黒いティーシャツをみつけて購入。セールだったのか値段も手頃で得した気分を味わったな、あの時。
ロザリオのチェーンネックレスが気になるのか、触ることを聞いていたから頷いてやる。フリーマーケットで外国からきた男の人が売っていたアクセサリー。かなり激安だったから購入したんだっけ。シルバーで出来たロザリオは甘ったるいデザインじゃなく妙に冷めざめとしたシンプルなデザインで目を惹いた品だ。
「八雲?」
ジッと見る先はチェーンを潜らせた二つの指輪にある。
目線が同じくらいの八雲にどうかしたのかと聞けば、二つの指輪に触れて内側に彫られているネームを確認してるし。何がしたいんだか。
「食堂行かないのか」
「行く」
もうちょっと見せろと言われて軽く笑ってしまった。興味津々だな、コイツ。サイズはデカイがネームは俺のものだ。対したことは分からないのに。
ペットに懐かれた主人の心境でニヤニヤしてたら頭を叩かれた。なに、考えてたこと分かったのか?
「あー、腹減ってきた。今日は定食なんだったか」
「さぁ。俺は麺類食べる」
漸く体を離してソファーから立ち上がった。
腹をさすりながら言う奴に含み笑って後ろに着いて歩き、部屋を出る。
「何食べるんだ?」
「盛り蕎麦」
「渋いな」
でしょ?って、歩きながら話し、エレベーターは使わずに階段を二人で降りていく。
最近、異様にエレベーターの使用率が高いのか中々下から上に上がってこないのにイライラした。それからは寮のエレベーターを使わなくなっている。
階段を降りながら今日は青山と食べないのかと聞かれて、約束はしてないと応えたら頭を撫でられた。滅多にない行動にでる八雲に面食う。
一階に降りると丁度見える生徒会御用達のエレベーターは今日も人が集まっていて五月蝿い。廊下は静かにって小学校で教わるのに、親衛隊も難儀なことだ。
20160215.
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