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おっさん、迷宮に挑む⑤
しおりを挟む破竹の快進撃――とは、まさに今の俺達の事を言うのだろう。
適正値より若干低めの階層とはいえ俺達は順調過ぎるくらいのハイペースで迷宮を踏破していった。
これは事前に調べておいた階層ごとに出没する妖魔や地図の影響が大きい。
いかなる危険も、そこにあると分かっていればどうとでも対処できるからだ。
苦心しながらもこれらの情報を持ち帰った先人達に深い感謝と敬意を表する。
なので俺達もその心意気に報いる為――
意識して未踏破地帯を埋めていく事にした。
それは勿論俺達の後に続く後輩達の為に道を切り開きたいからだ。
しかし――何故、迷宮都市ダンジョンに未踏破地帯が多いかはすぐ分かった。
探索者の行く手を阻む嫌らしい罠や、本筋とはまったく関係ないリドルや仕掛けがうんざりするほどあったからだ。
これなら確かに無視して進む方が効率が良いだろう。
ただ今の俺達は、本格的な探索へ向け肩慣らしの意味合いも兼ねてダンジョンへとトライしている状況だ。
ここで経験を積めるならそっちの方が都合が良い。
幸い迷宮構造に詳しいリアがマッパーを務めることもあり、おおよその罠等の設置場所が把握出来た。
賢者だけあって彼女はリドルにも適性を見せていたし、まさに賢者様様だ。
さらに持続力に関してはフィーが唱えてくれた【常時回復】の法術が大きい。
長時間探索で蓄積する疲労をまったく感じる事無く進むことが出来た。
そうなれば俺とシアは万全の状態で戦える。
前衛が万全なら、リアとフィー達後衛は最善の状態で余裕を以て術を展開出来るという相互補完。
例のボルテッカ商店で手に入れた各自の武具も勢いに拍車を掛けている。
お陰で購入した空間収納型魔導袋がぱんぱんだ。
キリの良いところでそろそろ切り上げた方が賢明だろう。
そしてその時は意外に早く訪れた。
「階層主へ続く扉か……」
499階。
俺達の目の前には500階へ続く階段前に設けられた大広間がある。
固く閉ざされた扉の奥には階段を護る階層主――俗に言うフロアボスがいる。
こいつを倒せば地上へ通じるゲートが解放されるし手強さに見合う有力なアイテムもゲット可能だ。
帰還の転移術を扱える為、帰る気になれば俺達はいつでも地上へ帰れる。
ただ本日のケジメとしてここで階層主を討伐してみたくなった。
「調子はどうだ、皆?」
「問題なしだよ、おっさん」
「ん。同意」
「むしろ絶好調ですわ」
「そうか……この先はいよいよ階層主のいる大広間だ。
ここの階層主はミノタウロスジェネラル。
取り巻きで召喚されるミノタウロスらに気を付ければ苦戦するほどじゃない。
どうする? 挑戦してみるか?」
「ここまで来たんだもん。
やっぱチャンレンジしてみようよ」
「聞くまでもない。
まだ術には余裕がある」
「基本的に同意致しますが……少し懸念事項が」
「え? どうしたの、フィー」
「万が一の可能性ですが――裏を引く可能性があります」
「裏?」
「ああ――実はそれは俺も思っていた。
各階層主は特定状況下で時折変わるらしい。
ここの場合だと、ある状況下ではミノタウロスジェネラルでなくキングが出没する、とかだな。そうなると取り巻きもノーマルなミノタウロスじゃなくジェネラルらを召喚してくるらしい」
「うあ~最悪だね」
「勢い良く突っ込んだパーティが壊滅の憂き目に遭う事が度々あるそうだ。
ただ――これに関しても今の俺達なら問題なく対処できると思う」
「ん。ミノタウロスキングの推定レベルは80くらい。
60レベルであるジェネラルに気を付ければ何とかなる」
「シアのお墨付きが出たな。
なので裏が出ても恨みっこなしだ。行くか?」
「「「おう!」」」
「いい返事だ。
可能な限りのバフを掛けた後、突っ込むぞ」
俺の指示にリアの支援魔術、フィーの防御法術が飛び交う。
シアと俺は雷撃系の魔法剣と魔現刃を事前にセットしておく。
土属性であるミノタウロスには相克の風属性である雷系が良く効く。
「準備はいいな?
行くぞ!」
罠が無い事を確認後――
俺達は勢い良く大広間に続く扉を蹴り開け、飛び込む。
「ビンゴ――だな」
屋内に疾走し、相互に支援できる配置に着く俺達。
その前で階層主――フロアボスであるミノタウロスキングは鬱屈そうに巨大な玉座から立ち上がり――巨躯から威容を放ちながら俺達を睥睨するのだった。
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