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おっさん、看破する
しおりを挟む「はて――どちら様ですかな?
我が店にいらっしゃったのは」
入店した俺達を迎えたもの――それは温厚そうな男性の声だった。
どこから声を掛けられたか分からず、思わず周囲を探す。
目に入るのは店内に飾られた古今東西の武具と魔導具の数々。
真銀(ミスリル)で鍛造されたと思しき長剣。
離れていても凄まじい魔力圧を放つ全身鎧。
純度の高い魔晶石が光り輝く妖しげな工芸品(アーティファクト)。
俺も専門ではないから詳しい価格までは分からないが、いずれも名のあるような品々である事は間違いなく、店主の目利きの確かさを窺える。
薄暗いが感じの良いランプの明かりに照らされた店の奥には巨大なカウンターがあり、その中央には『ボルテッカ商店』と書かれた看板が掲げられていた。
しかしそんなに大きくはない店内だというのに俺達に声を掛けた人物の気配がまるでしない。
索敵に優れた俺や常時展開型の探知魔術を使用しているリアの目を潜り抜けるなんて、いったいどんな隠れん坊の達人だろうか。
店内には死角も多く、確かに隠れるのには最適だろう。
だが先程のヴィヴィならいざ知らず、俺達が存在を察知出来ないなんて事が本当にあるのだろうか?
当惑した表情を浮かべる俺達に店内に響き渡る快活な笑い声が掛けられる。
「いやいや――
久方ぶりのお客様に対し、これはこれは失礼をしました。
今、姿を現すので少々お待ち下さい」
――姿を現す?
その言葉に疑問を抱くより早くカウンターの前に突如一人の老紳士が現れる。
身なりの良い、いかにも執事といった風体だが不思議と弱々しい感じはしない。
まあ耳がエルフみたいに尖っており、まるで隙の無いご老体だ。
どう見ても只者ではないだろう。
何より怖いのはその存在感の無さだ。
目の前にいるというのにまるで生気を感じない。
というより、微かに漂うこの雰囲気はもしかして……
「ホッホッホ。お待たせ致しました。
ワシはこのボルテッカ商店の店主を務めるセバスと申します。
――して、お客様。
今日はどのようなご用事で参られたでしょう?」
「あ、ボク達は……」
「待て、シア」
セバスと名乗った老紳士の丁寧な物腰に呼応し話し掛け始めたシアを制する。
初対面でとんでもない無礼だが……まず確認したいことが出来た。
「――おっさん?」
「セバスさん――不躾で申し訳ない。
その前に一つ尋ねたい事があるんだが……良いか?」
「ホッホッホ。この老骨で良ければ何なりと」
「貴方は――本物の店主じゃないだろう?」
「……ほほう。
どうしてそこまで断言できるのですかな?」
「師匠から聞いたことがある。
卓越した精霊使いは家の精霊【ブラウニー】を召喚し自在に具象化できると。
微かに漂う貴方の気配はどう見ても精霊のそれだ。
察するに貴方はこの店の清掃人兼管理人――訪問者を試す、試験官といった感じじゃないか? この店の真の客人に相応しいかどうかを見極める為の」
「随分と――お詳しいのですね」
「師匠が神仙とまで呼ばれる域に達した精霊使いでね。
俺自身に精霊を使う力は無いが……幼少期から精霊と接してたせいか感知するのだけは得意なのさ」
「なるほどなるほど。
との事ですが――いかがなさいますか、お嬢様?
お会いになりますか? それともお帰り頂きますか?」
「――やれやれ。
結果を知ってるのにそれを訊くお前は性格が悪い」
背後のカウンターに話し掛けるセバス。
次の瞬間、まるで騙し絵のようにカウンターのあった空間が開き――
一人の女性が現れた。
きっと入口と同じ魔導具が使われていたのだろがこちらの方が精度が上だ。
何せ意識しても認識出来ないレベル。
しかし何よりセバスの呼び掛けに応じた女性の容姿に俺達は驚きを隠せない。
「この世界に七人しかいないEXランク冒険者<七聖>が一人――
【放浪する神仙】ファノメネルの関係者か。
面倒事は嫌いなのだが……さすがは疫病神。
いったいどこまで祟るつもりだか。
私にとってまさに最悪の商売相手だな。
まあ、いい。
ようこそだ、名も知らぬ冒険者共よ。
私がこのボルテッカ商店の本当の主、ミスカリファ・ボルテッカだ。
伯爵の鈴を持ってきた以上、客人として迎えてやろう」
そう言って見惚れんばかりの蠱惑的な笑みを浮かべるミスカリファ。
俺達が彼女の容姿に驚くのも無理はないだう。
飴色の肌に白銀の髪。
背の高く均整の取れた美しい肢体。
何より彼女らを象徴する長い耳と妖艶な美貌。
このボルテッカ商店の主ミスカリファは――レムリソン大陸において絶滅されたとされるダークエルフの容姿を持っていた。
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