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おっさん、入店する

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「何だかさ、上手く言えないけど……
 やっぱ凄い人達だったよね」
「ん。その意見には同感。
 僅かな間に強烈な印象」
「確かに。
 良くも悪くもインパクトがありましたわ」

 初めて出会ったS級冒険者――
 ヴィヴィ達の感想を口々に話し合いながら通りを歩く三人。
 まったく年頃の女性が三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
 しかし何事にも物怖じしないその姿勢は俺も見習わなくてはならないだろう。
 残念ながら今はまだ彼らの領域に自分は及ばない。
 だがそれはあくまで現在は、だ。
 未来の可能性は誰にも分からない。
 そう、俺すらもだ。
 俺は努力し続ける事の大切さと意味を知っている。
 現に故郷では最下層レベルだった俺だが、良き師に恵まれた事もあり40を前にしてA級に達した。
 このまま修練を怠らなければ――もう少しだけ戦士として至高の領域に辿り着けるかもしれない。
 以前、師匠は口を酸っぱくして言っていた。
 真に恐ろしいのは才能ではない。
 自らの才気を苦にしない弛まぬ努力だと。
 どれほど才能があろうが、磨き上げた狂気の努力の前に後れを取る事がある。
 真に恐ろしいのは諦めを知らずに努力し続ける者だ。
 そう言って師匠は自らの肉体に刻まれた歴戦の勇士達の証を見せてくれた。
 無論、師匠程のレベルなら魔術を用いればそんな傷は簡単に消せる。
 しかし師匠はそうしない。
 真剣に刃を交えた者達――その生き様を残すと共に、彼等に対する敬意と自らに対する自戒を忘れない為だ。
 俺もいつかそんな領域に達してみたい……いや、達してみせる。
 そんな事を徒然考えながら手元の地図に目を落とす。
 困惑。
 ――はて、この辺で良い筈だが。
 目的地と思しき場所に着いたというのに、目の前にあるのは煉瓦造りの壁だ。
 シークレットドアがある訳でもないし……困ったものだ。
 途方に暮れ思わず壁を見上げる。
 どう見ても挙動不審な俺の様子を見てシアが声を掛けて来る。

「――どうしたの、おっさん?
 さっきから様子が変だよ?」
「いや――例の鏡像魔神騒動事件後、事後報告をしに領主様の所へ伺ったら、俺達の今後の話になってさ。
 ダンジョン探索に向けて装備を整えるという話をしたら――領主様が店を紹介してくれるという事になってな。
 頂いた地図では目的地はすぐ近くな筈なんだが……」
「迷ったの?」
「う~ん、迷ったというよりなんだろうな。
 確かにここら辺にあるのに、何だか視えないような」
「あらあら――
 それは珍妙奇天烈、摩訶不思議な話ですわね」
「ん。確かに不可解。
 ならば地図を見せて欲しい」
「お。リア、見てくれるか?」

 身を乗り出し掌を差し出すリアに地図を渡す。
 難しい顔をして覗き込むリアだったが、驚いたように顔を上げる。

「――ガリウス。
 この地図を頂いた時に、もう一つ何か預からなかった?」
「預りもの? 
 あっ。確かこれが必要になるからと言ってたな」

 俺は懐から箱に入った鈴を取り出し見せる。
 得心がいったのかリアはその鈴を手に取るや、軽く振り鳴らす。
 チリンチリン。
 喧騒でざわめく通りに涼やかな鈴の音が響き渡る。
 次の瞬間――リアを除く俺達は驚きの声を上げる。
 まるで結界を張った様に周囲が静まり返ると、何も無かった煉瓦の壁に、鈴の音に呼応するかのように古びた黒樫の扉が現れていた。

「これは……」
「ハイレベルな投影型幻覚魔導具が使用されている。
 常時人払い効果も重ねて発動させるこのタイプは――鍵となる物品が無いと、認識すら出来ない。
 なので――早くした方がいい。
 この手の魔導具はこの鈴の音がなっている間しか解除されない。
 もし建物に入る瞬間に効果が途切れたら中途半端に締め出しをくらう。
 空間断裂で真っ二つはないにしても、絶対ロクな事にはならない」
「それは確かに嫌だな」

 真剣な表情で怖い事を云うリアの解説に俺は苦笑するとノックと共に中に入る。
 これが今後長い付き合いとなるボッタクリ……
 もとい、ボルテッカ商店への初入店となるのだった。



 


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