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おっさん、声を掛ける

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「マリアンヌ様……」
「もう一度聞きますね。
 貴方は何をしているのですか?」
 
 礼拝堂の階上から下りながら門番へ問い掛けたのは一人のシスターだった。
 年の頃はおそらくフィーと変わらない20前後。
 目の覚めるような鮮やかな金髪の持ち主で、薄闇を照らす蝋燭明かりの中でも尚、輝きを放っている。
 マリアンヌと呼ばれ尼僧服を纏った彼女は清楚な面立ちの女性なのだが――
 綺麗なその顔が、今は激しい怒り故か上気していた。

「これは……不審者を通さぬ為に必要な……」
「この方達は勇者であるシア様のお仲間です。
 貴方もそう伺った筈ですが?」
「し、しかし偽証の可能性を考慮し……」
「証明書の提示と共にきちんと名乗られ、必要な申請も頂いております。
 何より当教団に属する聖女、フィーナ様がその身を保証されているのですよ?
 貴方はこれ以上何を疑うというのです?」
「いや、自分はですね……」
「貴方も、いえ貴方以外の方々も――」

 そう言って彼女は周囲を見渡す。
 遠巻きに囲み俺達を揶揄する教団の者達だったが――
 この乱入者の存在には面食らったのだろう。どこか気まずそうに顔を背ける。

「何を腹に抱えてらっしゃるかは知りません。
 ですが神の聖名を汚すような真似は御心に反する行為だと思います。
 その方達はわたくしの権限において通行を許可致します。
 さあ、お退きなさい――」

 裂帛の気迫を放つシスターマリアンヌの言葉に、門番は先程までの居丈高な態度を一変させ平伏しかねない勢いで場を退くのだった。
















「すみません、お見苦しいところをお見せしました――」

 マリアンヌが俺達に話し掛けてきたのは教会内部に入りしばらくした後だった。
 俺達は激昂する彼女達に導かれ無言のまま後を追ってただけに驚きを隠せない。

「いえ――何だか俺達の為に貴女の立場を危うくさせてしまったのではないかと思いまして……却ってこちらこそ申し訳ない」
「そんなことございません!
 悩める衆生にこそ門を開くべきなのに、あの体たらく――
 同じ教団の者として恥ずかしく思っております」
「ここ精霊都市ではそういう傾向があったとはフィーから伺ってましたが……
 ただ予想以上の排他的な態度に、正直面食らったのは確かです」
「以前はこうではなかったのです。
 ですが新しい司祭様が就任為されて以来――教団外部へと対する対応が大きく変容しました。いえ、し続けています。まるで何者かの意図があるかのように。
 今の支部はさながら閉鎖主義の秘密教団の様を晒しているのが現状。
 本部から派遣された監視役としては何とか改善したいと思うのですが――」

 翳のある表情と共に嘆くように愚痴るマリアンヌ。
 余程思い詰めているのだろう。
 俺達の様な根無し草にそんな弱みをみせるなんて。
 いや、むしろ外部の者であるからこそ――か。
 監視役として支部の動向に目を見張らなくてはならない彼女。
 教団の者に胸襟は開けず、その心情は計り知れず心休まる時はあるまい。
 何か事情があるんだろうとは察していたがそんな事情とは、な。

「どうか気落ちせずに。
 正しい事が必ずしも報われる世の中ではないですが……
 積み上げてきた努力は裏切らない。
 貴女の頑張りは無駄にはならない筈だ」
「ん。同意。
 集団は様々な思惑が絡む――三人寄れば派閥が出来るとはよく言ったもの。
 けれど理を以て語れば賛同者は必ず現れる――今は雌伏の時」

 憔悴する彼女を見兼ねた俺達の懸命だけど不器用なフォロー。
 彼女は眼を丸くすると、優しく微笑み口元を綻ばせる。

「フィーの仰る通りの方々ですのね」
「え?」
「フィーとは本拠地で一緒に修業した仲なんです。
 今でもたまに手紙をやり取りしてますし。
 そんなフィーからの報告にはいつもガリウス様と――お仲間であるミザリア様達の事が書かれてましたもの。
 心許せる人達、気の置けない大切な仲間――と。
 ああ、到着しましたわ。
 わたくしの案内はここまで、中で勇者様とフィーがお待ちです」

 礼儀正しく一礼すると彼女は俺達を大広間へと招き入れる。
 教団の秘儀――『星読みの間』へと。
 
 
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