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おっさん、共に歩む
しおりを挟む「うう……見られた……
全部、曝け出してしまった。
両親にも見られた事なかったのに」
「いや――さすがに親は見てると思うぞ?」
「――分かってる!
そこはツッコんではならないとこ!
ガリウスはただ黙って慰めればいい!」
「なんて理不尽な……」
黄昏時の街並み。
オレンジ色の斜光がどこか退廃的な翳りを醸し出し、彼は誰? ――と道行く人へ問い掛ける、そんな淡い雰囲気の中――俺は憤慨するリアを伴い歩いていた。
行先は勿論、フィー達が先行している教会――精霊都市支部。
そこである事をする為の申請をフィーには頼んだからだ。
これは聖女であるフィーにしか頼めない事で、一般人なら門前払いを受ける。
民に開かれている部分ならいざ知らず――
秘儀を授かる教会の内部へと入るにはそれなりの段取りが必要である。
神の聖名の下、クラスチェンジという儀を経て勇者になったシア。
これは神の使徒ともいうべき化身――なので教会側も介在する余地はないのだが、パーティメンバーとはいえ俺とリアは別問題だ。
異教でこそないものの、己が才覚を信ずる輩共――
大いなる存在へ救いと庇護を求めず、自らの意思で運命に立ち向かう者達は教会と相容れない。
それ故に勇者パーティとはいえ通常なら分別される。
だが――フィーナだけは例外だ。
教団を支える大司祭の養子であり、聖女という肩書きを持つ彼女。
その御利益はまことしやかであり、どこの馬の骨ともつかぬ俺や異端の学徒である賢者といった存在も内部同行を許される。
しかしいきなりそれを申し出るのは不敬であり不快だろう。
そういった事情もあってフィーとシアに先行してもらったのだが――
冒頭の通り、リアがご機嫌斜めで困った。
図書館での調べものは無事済んだのだが――終わり際の騒動が問題らしい。
済んでしまった事なので気に病んでも仕方ないとは思うのだが、そこはそれ。
やはり男女の格差はあるらしい。
俺は溜息をつくと未だ怒れる獅子に伺いを立てる。
「リア……」
「なに?」
「まだ怒ってるのか?」
「見て分からないならガリウスの老眼を疑う」
「おう。意外にキツイな、お前。
結構気になる年頃なんだぞ」
「傷ついたのはあたしも一緒」
「うむ。では痛み分けという事で――」
「駄目」
「そっか。
なら……どうすればいい?」
「――というと?」
「どうすれば――機嫌が直る?
俺に出来る事なら何でもするぞ」
「そんなの、簡単――」
今までの怒りはどこへいったのか?
急に真顔になったリアが俺に向き合う。
ショートボブの髪が揺れて動き、蠱惑的な瞳が俺を捉えて離さない。
「囁いて――ほしい」
「何を?」
「――愛してる、って」
「おまっ……」
「出来ない?」
「いや、勿論出来るが、それは……」
「お願い。
我儘なのは理解している。
けど――思い遣りだけでなく言葉が欲しい事も理解して」
「そっか……そうだな。
分かった、ならば――言うぞ」
「うん」
「リア――愛してる」
華奢な身体を優しく抱き締めると路地裏へリアをそっと導き――
万感の想いを乗せこっそり耳元で囁く俺。
その瞬間、何故か無言のまま悶えるリア。
な、なんだよ……
人がせっかく恥ずかしいのを堪えて言ったのに。
「こ、これはヤバイ……
声フェチじゃない自分でさえ――この破壊力。
妄想癖のあるフィーなら、多分一撃で堕ちる。
自らの欲望の為、とんでもない怪物を生み出してしまった……」
「何を言ってるんだか(溜息)
もういいか? 行くぞ」
「あ、待って――」
背を向け歩き始めた俺。
その左手が追い付いたリアの指によって絡められる。
指と指――俗にいう恋人繋ぎだ。
「り、リア――」
「ありがとう、ガリウス。
けど、もうひとつだけ――お願い。
教会に着くまではこのままでいてほしい」
顔を赤らめながら上目遣いでおねだりするリア。
こんな事を言われ断れる男がいようか?
いや、いない(反語~断言)。
固く結ばれた俺達はそのまま紅に沈む街並みを共に歩く。
――いつか共に歩むかもしれない誓いの道。
祝福に満ちたその光景を互いに思い浮かべながら――
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