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おっさん、肩をほぐす
しおりを挟む「ただいま、フィー」
「今帰ったよ~」
「おかえりなさいませ――ガリウス様、シア」
明るい笑顔で俺達を出迎えてくれたのは露店の店番をしているフィーだ。
今日はいつもの聖女法衣を脱ぎ捨て、ワンピースの上にエプロンを着けている。
おっとりとした笑みを浮かべて手を振る姿はまるで素朴な村娘みたいだ。
ただ――厚い布越しの上からでも分かる、くっきりと浮かび上げる隆起がやたらと煽情的というか自己主張が激しく目のやり場に困る。
なので俺は意識して目線を露店の方へと移す。
何でも屋として不定期で俺が出している露店。
雑多でニッチな要望にも応じる為か、村人には結構ご贔屓頂いている。
組み立て式の台座の上には様々な雑貨や薬草、精製したポーションなどが並んでおり、在庫状況から鑑みるに大分盛況だったようだ。
俺は背負っていた獲物を下すと、長距離移動の荷重で凝った肩を動かしほぐす。
結局、午前中を掛けて鹿を二頭仕留めるのが精一杯だった。
欲を言えばもう一匹か猪でも射止めたかったが……仕方ない。
あんま奥地まで行って帰れなくなっては本末転倒だからだ。
既に血抜きと内臓の処理は済ませてある。
シアも俺に倣い鹿を下ろすと、その場にしゃがみ込み盛大な溜息をつく。
「はあああああ~~~
さすがに鹿一頭を背負っての下山はきつかったな~」
「ふふ、お疲れ様。
随分と首尾よく仕留めて来られたのですね。
もう少し遅くなるかと思ってましたわ」
「おっさんが凄かったんだよ!
山歩きに通じてるし、鹿の追い込みとかも上手だし――色々教わってきた。
ボク、おっさんの事また尊敬し直しちゃったよ」
「おいおい。
俺をおだてても何も出ないぞ?」
「ええ~事実なのに~」
「ふふ、それは重畳でした。
ガリウス様は博識ですからね。
やはり実践を経て活きた知識――即ち知恵を学ぶのは何より身になります」
「うん!
やっぱり情報だけじゃ分からない事も多いしね。
ボクも久々に狩りをしてみて思い知ったよ」
「同感ですわ。
でも――まずは冷たいものを一杯いかがです?
疲れが飛びますよ」
「おお、ありがとう。助かるよ」
「うあ~嬉しいな。
ってこれか……うーん」
労いの言葉と共にフィーが差し出してくれた瓶を受け取り呷る俺。
清涼感のある喉越しと、ほんのり甘酸っぱい味が疲れた身体に浸み渡る。
かなりの美味だが何故かシアは瓶を片手に複雑そうな顔をしている。
「川で瓶ごと冷やしたレモン水ですけど……
お口に合いませんか?」
「ううん、そうじゃないの。
ちょっと昔に色々あったから……躊躇しただけ。
頂くね?
うん! やっぱ美味しいな~肉体労働の後だと格別だ」
「サービス品ですし、小さい子たちのウケもいいんですよ?
ああ、ほら。噂をすれば来ましたわ」
俺達がレモン水を飲んでいると遠くから目聡くやってくるのはセータとミナだ。
村の子供たちの中でも特に俺に懐いており、何かと構ってくる。
「おっちゃん、おかえり~~~!」
「きょうも、えものゲット?
おいしい? えんかいするの!?」
前置き無しのストレートな質問。
子供らしい率直な物言いに俺は苦笑しながら答える。
「いや、こいつは猪と違ってすぐ食べない方が美味い。
二週間くらい熟成させて、ステーキかローストだな。
そん時はまた皆に振る舞うから楽しみにしておけよ」
「ほんとう?」
「やくそくだよ、おっちゃん!」
「ああ、分かってるって。
ほれ、指を出せ。嘘ついたらドラゴンの尾を踏ま~す」
「ゆびきった!」
「おっちゃん、ありがとう!」
食べ物の恨みは何よりも恐ろしい。
口約束にならないよう俺は二人と固く約束を交わす。
そんな俺達をにこやかに見守るシアとフィー。
穏やかな日差しが心地好い、うららかな昼下がりに相応しい光景だった。
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