33 / 297
おっさん、起床する
しおりを挟む俺――ガリウス・ノーザンの朝は早い。
日の出よりも早く起床し、まずは日課である柔軟とトレーニングをこなす。
鍛錬は少しでも怠ると、その分を取り戻すのに倍以上の時間が掛かる。
まして俺の様な前衛職はその僅かな差が命取りになる事もあるのだ。
自己の生存だけでなくパーティの生存率向上の為、サボる事は許されない。
それが終われば薄暗い朝靄の中、自宅脇の畑へと赴く。
活きの良い素材を吟味しあいつらに美味い飯を食わせてやりたいからだ。
なので――そろそろ準備に入らなければならない。
愛しい毛布の温もりに別れを告げ、俺の意識は覚醒へと移行する。
しかし目を開けると――漆黒の裾野が広がっていた。
一瞬、目を開けていないのかと疑う俺。
だが顔全体にのしかかる圧力に事態を把握する。
し、下着だこれは!
慌てて目線を向ければ、あられもない姿でローブをはだけたミザリアが、俺の顔をまたぐ様に熟睡している。
ミザリア・レインフィールドは紛れもない美少女である。
庇護欲を駆り立てる可憐な容姿。
しかし顔に似合わぬセクシーなショーツを穿いているのは、少しでも年齢相応に見られたい欲求の裏返しなのかも……って、現実逃避してる場合じゃない!
あどけない寝顔を見るに不祥事は無かったようだが……
非常に危険な体勢だ。
腕利きの人権派弁護官でも、68の次の数字に近いこの状況を見て法廷で無実を勝ち取るのは難しいだろう。
俺は急ぎ腕を動かし、見てはいけない黒山を排除しようと試みる。
結果――驚愕。
右腕に感じる柔らかく豊かな感触。
恐る恐る顔を向ければ――そこではフィーナが俺の腕を枕に微睡んでいた。
実に幸せそうな寝顔で、メイクを落としたすっぴんなのに本当に綺麗だと思う。
フィーナ・ヴァレンシュアは王都劇場の主演女優級の美女である。
黙って佇んでいれば文句なしの。
出会った頃は飢えからか貧相な身体をしていたが、大司祭である婆さんに拾われてからは時折目のやり場に困るくらい豊満な肢体に成長した。
リアといいフィーといい、こんな素敵な女性達と巡り合いパーティを組めた幸運を俺は天に感謝しなくてはならないだろう。
まあ――
その前にこの状況をまず何とかしなくてはならないのだが。
落ち着け……大丈夫だ、俺。
俺も伊達に歳を重ねたおっさんじゃない。
こんな事態なんぞ鼻歌交じりに切り抜けられる。
若造とは踏んだ修羅場の場数が違うのだ。
慌てず騒がず、俺はフリーな筈の左手を動かそうとする。
……ん?
なんだ? 何かに――挟まれてる?
指を動かせば極上のシルクのようなキメ細かい肌触り。
戦慄を覚え左を向いた俺は驚愕を超え恐怖する。
そこには、はだけた寝間着姿のアレクシアがいた。
彼女は俺の左腕を生足を晒す太ももに挟み込んでスヤスヤと眠っている。
「あsdfghjmk」
完全に予想外で漏れ出そうになる悲鳴を――懸命に堪える。
普段の猪突猛進的な行動力と勇者という肩書で忘れがちだが……
アレクシア・ライオットも二人に負けず劣らずの美少女なのだ。
普段はまるで意識などしないが、こうして無防備な寝顔を見ているとそのレベルの高い可愛さに気付いてしまう。
いつもの笑顔から能天気さが抜けただけでこんなにも変わるものなのか?
無垢なその寝顔に年甲斐もなくドキドキさせられる。
い、いったいなんなんだ……これ?
なんだ、この状況?
いつから俺は好色系英雄譚の主人公になった?
焦燥に速くなる鼓動。
血圧が上がりガンガン耳鳴りがするのを感じながら――
俺はここ最近日課になりつつあるこの状況に盛大に溜息をつくのだった。
31
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる