1 / 296
おっさん、追放される
しおりを挟む「おっさん……
悪いけど、パーティを抜けてほしい」
人気のない酒場に呼び出され開口一番告げられた言葉。
抑揚をまったく感じないその言葉に俺は頭の中が真っ白になる。
最初は何かの冗談かと思った。
だが卓を囲むメンバーの顔付きを見てマジな話だと実感する。
「大事な話があると聞いていたが……
アレク、いったいこれはどういうことなんだ?」
「言葉通りの意味だよ。
相変わらず鈍いな、おっさんは。
ボク達はギルドからの評価も高く、もうすぐ皆S級に届こうとしている。
そんな中、万年D級のおっさんがいたら足手まといなんだよ。
だから――今日でおっさんとはさよならだ。
さっさとパーティを抜けてくれないかな?」
パーティを抜けろ?
確かに俺は今年37歳になったロートル冒険者だ。
体力的にもレベルの伸びしろ的にも最近は足を引っ張っていたかもしれない。
だからこそ面倒な雑用や情報収集などを買って出てパーティに貢献してきた。
さらにこいつらとは駆け出しのころから面倒を見てきたという自負がある。
リーダーのアレクシアに至っては、先日ついに国から勇者の称号を授かるまでになった程だ。
今までも決してメンバー間の仲は悪くなかった。
むしろ慕われているとすら思っていたのだが……
どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。
目の前に座る勇者アレクの失望した顔に俺は事態の深刻さを悟る。
「フィーナもミザリアも同じ意見か?」
一縷の望みを掛けてパーティメンバーである聖女と賢者の二人に声を掛ける。
淡い期待を抱く俺。
しかし――現実は残酷だ。
そんな俺に返されたのは取り付く島もない言葉だった。
「今までご苦労様でした。
あとはわたくし達と関わらない人生を送ってくださると幸いですわ」
「皆がいれば事足りる。
アナタはもう用済み。
さっさとその辛気臭い顔を視界からどけてほしいのだけれど?」
興味の欠片もない二人の眼差し。
昨日までは憧れと信頼に溢れていた瞳が――今は路傍の石を見るかのようだ。
どうやら俺は知らない内にここまで信頼を失っていたらしい。
いや――最初からそんなものはなかったのか?
俺の独りよがりだったのか?
酩酊したかのようにグラグラする身体。
苦心しながらも俺は椅子から立ちあがり別れを切り出す。
ここは俺の居場所じゃないのかもしれない。
それでも――こいつらと過ごした日々は楽しかった。
だからおせっかいでも一言だけ忠告をしていきたい。
こいつらと過ごす事は――どれだけ望んでも二度とないのだから。
「――分かった。
今日を以て俺はパーティを抜ける」
「やっと分かってくれたか……」
「ああ、俺の未熟さを思い知ったよ」
「そんなこと――まあいいや。
ああ、パーティの共通資産である道具類は餞別として持っていきなよ。
道中行き倒れても寝覚めが悪いし」
「そうか……ありがとな」
「別に礼を言われる事じゃない。
ボク達の評判を落とさない為の当然の措置だから」
「そっか……それでも助かるさ。
じゃあな、アレク。
魔法剣を使う時ガードが下がる癖を忘れるなよ?
じゃあな、フィーナ。
法力の連続発動時に目を閉じないように注意しろ。
じゃあな、ミザリア。
詠唱の際の魔力障壁ばかりに頼り切りになるんじゃなく体幹も鍛えろよ」
「ったくおっさん……
いや、ガリウス――
あんたは最後まで嫌味なおっさんだったな」
アレク――シアのどこか呆れた声を背に俺は酒場から出る。
胸中を隙間風が抜けたような寂しさがよぎっていく。
だがその反面、呪縛から抜き出たような解放感を感じてもいた。
これからの人生は自分の為に生きる。
決して後悔しない為に。
俺、ガリウス・ノーザンはそう誓うのだった。
157
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる