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七章 二年目ふゆの月
77 ふゆの月13日、食堂兼酒場①
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食堂は、それなりの客入りだった。
混雑を避けた時間に待ち合わせをしていたから、当然ではある。
ランチタイムをやや過ぎて、残っているのはおじいちゃんやおばあちゃんか、コックのおじさんとウエイトレスのおばさんくらいだ。
最近は頻繁に利用していたせいか、イーヴィンが怪しい男を支えながら入ってきても、おじさんとおばさんはやや驚いた顔をしただけで追い返すような素振りは見せない。
こっちへ来いと手招きするリアンに「はいはい」と返事をして、イーヴィンは奥の大きな丸テーブルへ近付いていった。
「まぁまぁ、イーヴィンちゃん。大きな男の人を抱えてここまで来たの?小さい体で大変だったわね」
童顔なせいで実年齢よりも下に見られるイーヴィンは、ここでも子供扱いされている。
巷では自立した女性と認識されているらしいが、このようにいつも小さい子扱いされているイーヴィンは、噂を疑わしく思わざるを得ない。
「イーヴィン、お前、いくつなんだ?」
案の定、訝しげに見下ろしてくるマキオに、イーヴィンはほら見たことかと唇を尖らせた。
そんな仕草をするから幼く見えるのだが、その純粋さが可愛いのだと周囲の人々は思っているので、しばらくはそのままになりそうだ。
「十七」
「そのわりに……まぁ、なんだ……」
言い淀むマキオにヘソを曲げながら、イーヴィンはゆっくりと彼から離れた。
突き飛ばさなかっただけでも、偉いだろう。不躾な視線は、イーヴィンの育ち盛りな胸元を捉えていた。
厚着をすると、ささやかな胸は更に存在感が薄れてしまう。「夏はもう少しマシだもの」と弁解するようにイーヴィンは呟いた。
(これでも、シルキーの食事のおかげで育ってきているのよっ)
うぎぎと歯を食いしばりながら、イーヴィンはリアンの後ろへ逃げる。
そんな彼女の見えないところで、オレの姉ちゃんに何してやがると言いたげに、リアンは笑みを浮かべながら目だけは笑っていないという器用なことをしていた。
ホカホカと湯気が上がるカップを持ってきたおばさんに、イーヴィンは礼を言ってそれを受け取った。甘い香りを漂わせるココアに、彼女は笑みを浮かべる。
いつの間に用意したのか、おじさんはマキオに蒸しタオルを渡していた。
「お兄さんは転んだのかい?泥まみれじゃないか」
「すまない、助かる」
タオルを受け取ったマキオは、ゴシゴシと顔を擦り始めた。
いかにも訳ありっぽい格好をしている彼に、リアンは気になって仕方がない様子で、イーヴィンはあらあらとお姉さんぶって苦笑いを浮かべる。
(リアンってば、普段娯楽がないからここぞとばかりにワクワクしているわね)
リアンの本心に気付かないイーヴィンは、呑気なものだ。
冷たくなっていた手をココアの熱で温めながら、彼女は向かいでローブを脱ぐマキオを見た。
混雑を避けた時間に待ち合わせをしていたから、当然ではある。
ランチタイムをやや過ぎて、残っているのはおじいちゃんやおばあちゃんか、コックのおじさんとウエイトレスのおばさんくらいだ。
最近は頻繁に利用していたせいか、イーヴィンが怪しい男を支えながら入ってきても、おじさんとおばさんはやや驚いた顔をしただけで追い返すような素振りは見せない。
こっちへ来いと手招きするリアンに「はいはい」と返事をして、イーヴィンは奥の大きな丸テーブルへ近付いていった。
「まぁまぁ、イーヴィンちゃん。大きな男の人を抱えてここまで来たの?小さい体で大変だったわね」
童顔なせいで実年齢よりも下に見られるイーヴィンは、ここでも子供扱いされている。
巷では自立した女性と認識されているらしいが、このようにいつも小さい子扱いされているイーヴィンは、噂を疑わしく思わざるを得ない。
「イーヴィン、お前、いくつなんだ?」
案の定、訝しげに見下ろしてくるマキオに、イーヴィンはほら見たことかと唇を尖らせた。
そんな仕草をするから幼く見えるのだが、その純粋さが可愛いのだと周囲の人々は思っているので、しばらくはそのままになりそうだ。
「十七」
「そのわりに……まぁ、なんだ……」
言い淀むマキオにヘソを曲げながら、イーヴィンはゆっくりと彼から離れた。
突き飛ばさなかっただけでも、偉いだろう。不躾な視線は、イーヴィンの育ち盛りな胸元を捉えていた。
厚着をすると、ささやかな胸は更に存在感が薄れてしまう。「夏はもう少しマシだもの」と弁解するようにイーヴィンは呟いた。
(これでも、シルキーの食事のおかげで育ってきているのよっ)
うぎぎと歯を食いしばりながら、イーヴィンはリアンの後ろへ逃げる。
そんな彼女の見えないところで、オレの姉ちゃんに何してやがると言いたげに、リアンは笑みを浮かべながら目だけは笑っていないという器用なことをしていた。
ホカホカと湯気が上がるカップを持ってきたおばさんに、イーヴィンは礼を言ってそれを受け取った。甘い香りを漂わせるココアに、彼女は笑みを浮かべる。
いつの間に用意したのか、おじさんはマキオに蒸しタオルを渡していた。
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(リアンってば、普段娯楽がないからここぞとばかりにワクワクしているわね)
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