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六章 二年目あきの月
68 あきの月14日、女神と姉神③
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「あの……独身の婿候補を、出してくれませんか?婿候補二人は既に相手がいますし、もう一人は行方知れずです。夜逃げするような人を婿にはしたくないので、新しい婿候補を出して欲しいんです」
「逃げたのは、ハリーファですか。まぁ、彼は仕方がないでしょう。そうねぇ……」
そう言って姉神は、まるで画面を操作するように宙をタッチし、スワイプした。
何かを調べているらしい。
ふむ、と顎に手を当てながら何かを見つめる彼女は、眉間にしわを寄せている。
難しい顔をする彼女と同じ表情をする人を思い出して、イーヴィンは老眼なのかなと失礼なことを思った。
「どうやらこの世界には、追加の婿候補がいるようです。なんでも、うっかり独身決定してしまった方の救済措置とか。条件は何らかの大会で優勝すること……あなたはすでに酪農まつりのスイーツ部門で優勝していますから、慌てなくてもそのうち現れますわ」
「そうなんですか?」
「ええ。これでは、願いを叶えられません。それとも、更に婿候補を用意しますか?他の願いでも構いませんが」
追加の婿候補がいる。
それは、イーヴィンにとって朗報だった。
イーヴィンだけでなく、リアンにも朗報だろう。
彼は、イーヴィンの巻き添えを食う形で、独身ルートが確定していた。
念の為にもう一人婿候補を出して貰うのも悪くはない。
だが、二人いるとなると、悩みそうである。
(さて、どうしようか)
悩むイーヴィンを見かねて、女神は助け舟を出した。
「姉様。すぐには決められないようですし、保留になさっては?私はともかく、姉様の力を持ってすれば、人の願いを叶えるなど容易いこと。決まった時に、私がお伝えしますわ」
「私はそれで構いません。それでよろしいかしら?イーヴィン」
「ありがとうございます。そうして頂けると、助かります」
「では、決まり次第、妹神ちゃんに伝えるように」
神らしく鷹揚な態度で頷いた姉神に、イーヴィンはこくりと頷いた。
そんな彼女を熱心に見つめながら、女神は「また彼女と会える」なんて喜んでいる。
「はい、わかりま……したって、もういないし。本当、神様って……」
相変わらず唐突に消えてしまう神々に、肩透かしを食らったような気分になる。
諦めたように小さなため息を吐いて、イーヴィンは空を見上げた。
「新しい婿候補か……ゲームではローナンと結婚したから、隠れキャラの存在は知らなかったなぁ。どんな人なんだろう?上手くいくと、良いんだけど」
あきの空は、空気が澄んでいて高く晴れ渡っている。
天色の空に浮かぶ、魚の鱗のような雲は、イワシ雲だろう。
「午後は雨かな……」
イワシ雲が出たあとは、天気が崩れる。
シルキーから教えてもらった天気予報は、わりと当たるのだ。
降られる前に帰ろうと、イーヴィンは泉にくるりと背を向けて走って行った。
「逃げたのは、ハリーファですか。まぁ、彼は仕方がないでしょう。そうねぇ……」
そう言って姉神は、まるで画面を操作するように宙をタッチし、スワイプした。
何かを調べているらしい。
ふむ、と顎に手を当てながら何かを見つめる彼女は、眉間にしわを寄せている。
難しい顔をする彼女と同じ表情をする人を思い出して、イーヴィンは老眼なのかなと失礼なことを思った。
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「そうなんですか?」
「ええ。これでは、願いを叶えられません。それとも、更に婿候補を用意しますか?他の願いでも構いませんが」
追加の婿候補がいる。
それは、イーヴィンにとって朗報だった。
イーヴィンだけでなく、リアンにも朗報だろう。
彼は、イーヴィンの巻き添えを食う形で、独身ルートが確定していた。
念の為にもう一人婿候補を出して貰うのも悪くはない。
だが、二人いるとなると、悩みそうである。
(さて、どうしようか)
悩むイーヴィンを見かねて、女神は助け舟を出した。
「姉様。すぐには決められないようですし、保留になさっては?私はともかく、姉様の力を持ってすれば、人の願いを叶えるなど容易いこと。決まった時に、私がお伝えしますわ」
「私はそれで構いません。それでよろしいかしら?イーヴィン」
「ありがとうございます。そうして頂けると、助かります」
「では、決まり次第、妹神ちゃんに伝えるように」
神らしく鷹揚な態度で頷いた姉神に、イーヴィンはこくりと頷いた。
そんな彼女を熱心に見つめながら、女神は「また彼女と会える」なんて喜んでいる。
「はい、わかりま……したって、もういないし。本当、神様って……」
相変わらず唐突に消えてしまう神々に、肩透かしを食らったような気分になる。
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「新しい婿候補か……ゲームではローナンと結婚したから、隠れキャラの存在は知らなかったなぁ。どんな人なんだろう?上手くいくと、良いんだけど」
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「午後は雨かな……」
イワシ雲が出たあとは、天気が崩れる。
シルキーから教えてもらった天気予報は、わりと当たるのだ。
降られる前に帰ろうと、イーヴィンは泉にくるりと背を向けて走って行った。
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