69 / 110
六章 二年目あきの月
67 あきの月14日、女神と姉神②
しおりを挟む
女神が振り返ると、そこには彼女が人間の中で特別に可愛がっている少女がいた。
少女の名前は、イーヴィン。
心優しく清らかな、聖女のような女の子である。
「……」
「……」
イーヴィンは沈黙した。
女神も沈黙していた。
静かな泉の上を、小鳥たちが囀りながら飛んでいく。
イーヴィンは、デジャブだと思った。
ちょっと違うのは、姉神という第三者が増えていたことだろうか。
「し、ししし失礼致しました……」
恥ずかしさのあまり、その場で土下座するように顔を隠してしまった女神にもデジャブを感じながら、イーヴィンは乾いた笑い声を漏らした。
「あなたがイーヴィンですか?元、入江ほのか?」
そんなイーヴィンに声をかけてきたのは、姉神だった。
耳まで真っ赤にして恥ずかしさに耐えている妹神を守るように前に立ち、彼女はイーヴィンを見つめる。
人様の転生に悪戯するなんて神とは思えない所業だが、妹を庇うその姿は姉らしいとイーヴィンは思った。
「はい、そうです」
「ごめんなさいね」
「えっと……大丈夫、です、よ?」
女神直々に謝罪されるのは、これで二度目だ。
神に謝罪されるという現実味のない状況に、イーヴィンは居心地悪そうに歯切れ悪く答えるしかなかった。
(一度ならず二度までも……)
二度あることは三度ある、という言葉を思い出して、イーヴィンは口をぎゅっと引き結んだ。
こんなことが三度もあっては、敵わない。
「はぁぁ……やっぱり貴女は聖女のように素晴らしいですわ。ねぇ、姉様、そう思うでしょう?転生後のご希望は悪役令嬢でしたが、私は聖女の方が合っていると思いますの!」
「妹神ちゃん、うるさい。今、お姉ちゃんが話してるから」
「むぅ……」
羞恥心を克服したらしい女神が、今度はイーヴィンの寛容さに感動して、頰を赤らめている。
それを気持ち悪そうに押し退けながら、姉神は言った。
「イライラしていたとはいえ、八つ当たりにしてはやり過ぎました。お詫びに、一つだけ願いを叶えてさしあげます」
「願い……」
そんなの、決まっている。
その件を相談するために、今日は来たのだ。
(そっちから切り出して貰えて、助かった)
どう切り出すべきかと思っていたから、イーヴィンは渡りに船とばかりに姉神の提案に乗ることにした。
姉神の後ろからやけにキラキラしい視線が送られてくるが、この際無視することにする。
聖女なんて、柄でもない。
イーヴィンは、自分勝手な人間である。
その証拠に、今から言う願いはとても自分勝手な内容だ。女神の計らいを辞退した結果が気に入らず、更に救済して欲しいと厚かましいお願いをしようとしている。
少女の名前は、イーヴィン。
心優しく清らかな、聖女のような女の子である。
「……」
「……」
イーヴィンは沈黙した。
女神も沈黙していた。
静かな泉の上を、小鳥たちが囀りながら飛んでいく。
イーヴィンは、デジャブだと思った。
ちょっと違うのは、姉神という第三者が増えていたことだろうか。
「し、ししし失礼致しました……」
恥ずかしさのあまり、その場で土下座するように顔を隠してしまった女神にもデジャブを感じながら、イーヴィンは乾いた笑い声を漏らした。
「あなたがイーヴィンですか?元、入江ほのか?」
そんなイーヴィンに声をかけてきたのは、姉神だった。
耳まで真っ赤にして恥ずかしさに耐えている妹神を守るように前に立ち、彼女はイーヴィンを見つめる。
人様の転生に悪戯するなんて神とは思えない所業だが、妹を庇うその姿は姉らしいとイーヴィンは思った。
「はい、そうです」
「ごめんなさいね」
「えっと……大丈夫、です、よ?」
女神直々に謝罪されるのは、これで二度目だ。
神に謝罪されるという現実味のない状況に、イーヴィンは居心地悪そうに歯切れ悪く答えるしかなかった。
(一度ならず二度までも……)
二度あることは三度ある、という言葉を思い出して、イーヴィンは口をぎゅっと引き結んだ。
こんなことが三度もあっては、敵わない。
「はぁぁ……やっぱり貴女は聖女のように素晴らしいですわ。ねぇ、姉様、そう思うでしょう?転生後のご希望は悪役令嬢でしたが、私は聖女の方が合っていると思いますの!」
「妹神ちゃん、うるさい。今、お姉ちゃんが話してるから」
「むぅ……」
羞恥心を克服したらしい女神が、今度はイーヴィンの寛容さに感動して、頰を赤らめている。
それを気持ち悪そうに押し退けながら、姉神は言った。
「イライラしていたとはいえ、八つ当たりにしてはやり過ぎました。お詫びに、一つだけ願いを叶えてさしあげます」
「願い……」
そんなの、決まっている。
その件を相談するために、今日は来たのだ。
(そっちから切り出して貰えて、助かった)
どう切り出すべきかと思っていたから、イーヴィンは渡りに船とばかりに姉神の提案に乗ることにした。
姉神の後ろからやけにキラキラしい視線が送られてくるが、この際無視することにする。
聖女なんて、柄でもない。
イーヴィンは、自分勝手な人間である。
その証拠に、今から言う願いはとても自分勝手な内容だ。女神の計らいを辞退した結果が気に入らず、更に救済して欲しいと厚かましいお願いをしようとしている。
0
お気に入りに追加
976
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる