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六章 二年目あきの月

66 あきの月14日、女神と姉神①

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 秋の泉は、綺麗だった。
 透明度の高い泉の水面みなもには赤や黄色の落ち葉が浮かび、高級な絨毯が敷いてあるようである。

 木の上から降りてきた野生のリスが枝から枝へと飛び移り、見つけた木の実で頰を膨らませる様は微笑ましい。
 イーヴィンを見るなりさっと逃げてしまったのは残念だが、野生のリスは警戒心が強くて動きが素早いので、見られただけでもラッキーだ。

 泉のほとりに立ち、イーヴィンはポケットから女神のベルを取り出した。
 ふと、女神の兄ヘンタイがまた出てきたらどうしようと思ったが、そう何度も会うことはないだろうと思い直す。
 覚悟を決めるようにすぅはぁと深呼吸を何回かして、彼女はベルをそっと鳴らした。

 ーーリィィン、リィィン。

 不思議な音色が鳴り響くと、共鳴するように水面に波紋が広がる。
 舞台の幕が上がるように、水面に浮かぶ落ち葉がサァァと流れていった。

「聞こえません!もう一度!」

 同時に聞こえてきた暑苦しい雰囲気の掛け声に、イーヴィンは「んげ」とアマガエルが潰されたような声を上げた。ヒキガエルではなくアマガエルである。ついでに言うと、「げ」は濁音ではなく鼻濁音だった。

 彼女は咄嗟に口を押さえ、気配を消し、事態の把握に努める。

「私は悪い女神ですっ」

「わ、わたしは、わるい、めがみです」

「姉様?本当に反省しているのなら、きちんと言って下さいませ!」

「私は!悪い女神です!」

「はい、次っ!今後、二度と転生に悪戯しないと誓いますっ」

「今後!二度と転生に悪戯しないと誓います!」

「よろしい!いいですか?神たるもの、人間たちに慈悲深くあらねばなりません。ましてや、彼氏が人間にうつつを抜かしたからという理由で、何の関係もない少女を救済するための転生に、悪戯するなんて言語道断です」

「はい……」

 イーヴィンのよく知る女神が、別の女神を叱りつけていた。
 仁王立ちして、その手に持つのは竹刀である。

(あぁ……またしてもタイミングが悪い!)

 女神の前で、しょんぼりと背を丸めて正座する人は、どう見ても女神と同じ系統の顔をしている。
 女神よりもやや大人っぽい顔立ちをしているのと、彼女たちの会話から察するに、イーヴィンの転生にちょっかいを出した姉神とやらなのだろう。

 女神が持つ竹刀は、前世で剣道を嗜んでいたイーヴィンにとって、懐かしいものだ。
 思わず「わ、久々に見た」と呟いてしまい、姉神と目が合ってしまった。

「ねぇ、妹神いもちゃん」

「なんです?きちんと反省しているんですか?今日は反省文を書き終えるまで、おやつ抜きですからね!」

「いや、あの……後ろに……」

「後ろ……?」

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