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五章 二年目なつの月
57 なつの月12日、結婚式②
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言い淀むイーヴィンに、モアは「照れない照れない」と笑う。
だが、本当に照れているわけではないので、イーヴィンは困ったように苦く笑うしかなかった。
「そういうモアはどうなの?花まつりで、ファーガルを誘ったって聞いたけど」
「え?わ、私は、その……」
あからさま過ぎるくらいに話を逸らしたイーヴィンに、モアはモジモジと体を揺らした。
やはり彼女は、ファーガルに恋をしているらしい。
顔を真っ赤にしてゴニョゴニョしているモアは、可愛かった。ふっくらとした頰が朱に染まると、まるでモモのようである。
(恋する女の子は、みんな可愛いのよねぇ)
ふわふわしていて、綿菓子みたいで、守りたくなるような可愛さがあると思う。
弟に恋をしていた近所の少女も、それはそれは可愛らしかった。
いつか妹になるかもなんて思っていたのに、恋に興味がないどころか女の子を毛嫌いしていた弟は、容赦なく彼女の告白をぶった切ったのだ。おかげでイーヴィンは、数少ない女友達を失った。
(こんなに可愛い生き物なんだから、すぐに取られちゃうよ)
まさか同じ気持ちをシルキーがイーヴィンに対して抱いているなんて、彼女は知る由もない。
彼が、イーヴィンを取られないように必死になって尽くしていると気付かないのは、彼女が自分のことを卑下する一面を持っているせいだ。
イーヴィンは、産まれてからずっと弟とばかり連んできて、この島に来てからも女性陣よりリアンやファーガルと連むことが多かった。
見た目は女の子、中身は女でもなく男でもない中途半端なイーヴィンにとって、女の子は未知の生物だ。同じ生き物だとは思えないくらい、女の子というのは強くて素敵で可愛らしい。
そう、イーヴィンは男でもなく女でもない、中途半端な生き物なのだ。そんな生き物に、恋をする人なんているわけがない。
ゲームの設定で用意されていた婿候補が、相次いで居なくなったのだってそのせいだーーと未来を憂うあまり、彼女は卑屈になっていた。
イーヴィンは、可愛い。中途半端なんかじゃない。
毎日シルキーがせっせと世話をした甲斐もあり、島に来た当初よりも随分と毛艶がーー見た目は良くなった。
気持ちの面だって、成長している。
女性としての意識は、急成長していると言っても良いだろう。
異性と意識せずに抱きついていたのも、最近はなくなった。
それに、シルキーにキスされるかもと彼を意識していたのが、何よりの証拠だ。彼を男性として意識して、恋する乙女のように胸を高鳴らせていたのだから。彼女はそれを、すっかり忘れている。
(私がもう少しでも女らしかったら、何か違ったのかな……)
考え込むイーヴィンの隣で、赤らんだ顔を冷ますようにパタパタと手で仰ぎながら、モアは思った。
果たしてシルキーとイーヴィンの気持ちが伝わることはあるのだろうか、と。
イーヴィンがもう少しでも器用だったら、シルキーの本音に気付いたかもしれない。
けれど、シルキーはそんな不器用な彼女だから放っておけないのだ。兄にしては少々近い場所を陣取って、彼女の世話をすることは、彼にとって至福なのである。
「なにかキッカケがあれば良いのだけれど」
どう見たって共依存している二人が、この先離れられるとは思えない。
それならくっついちゃえば良いと思うが、そうもいかないらしい。
「とはいえ、人の恋路に手を出すのはあまり良くないわよね」
どうしましょうと小首を傾げているモアだって、ファーガルとどう距離を詰めていくかを考えるので精一杯である。
「それでは、誓いのキスを」
牧師に促され、新郎新婦の距離が縮まる。
幸せいっぱいの二人に拍手を送りながら、イーヴィンはどこか浮かない様子だった。
「イーヴィン?式、終わったよ?次、移動だって。教会の前でブーケトスするから、張り切って取りに行かなくちゃ」
「え?あ、うん」
ぼんやりと考え込んでいる間に、ローナンとリサの結婚式は終わっていたらしい。
イーヴィンはモアに手を引かれるまま、教会の外に連れ出された。
ブーケトスは、群がる娘たちを押し退けて、モアが勝利した。
ブーケを抱いて嬉しそうに微笑むモアを、参列していたファーガルが険しい顔をして見つめていたが、それに気付いたのは彼の隣にいたリアンだけだった。
だが、本当に照れているわけではないので、イーヴィンは困ったように苦く笑うしかなかった。
「そういうモアはどうなの?花まつりで、ファーガルを誘ったって聞いたけど」
「え?わ、私は、その……」
あからさま過ぎるくらいに話を逸らしたイーヴィンに、モアはモジモジと体を揺らした。
やはり彼女は、ファーガルに恋をしているらしい。
顔を真っ赤にしてゴニョゴニョしているモアは、可愛かった。ふっくらとした頰が朱に染まると、まるでモモのようである。
(恋する女の子は、みんな可愛いのよねぇ)
ふわふわしていて、綿菓子みたいで、守りたくなるような可愛さがあると思う。
弟に恋をしていた近所の少女も、それはそれは可愛らしかった。
いつか妹になるかもなんて思っていたのに、恋に興味がないどころか女の子を毛嫌いしていた弟は、容赦なく彼女の告白をぶった切ったのだ。おかげでイーヴィンは、数少ない女友達を失った。
(こんなに可愛い生き物なんだから、すぐに取られちゃうよ)
まさか同じ気持ちをシルキーがイーヴィンに対して抱いているなんて、彼女は知る由もない。
彼が、イーヴィンを取られないように必死になって尽くしていると気付かないのは、彼女が自分のことを卑下する一面を持っているせいだ。
イーヴィンは、産まれてからずっと弟とばかり連んできて、この島に来てからも女性陣よりリアンやファーガルと連むことが多かった。
見た目は女の子、中身は女でもなく男でもない中途半端なイーヴィンにとって、女の子は未知の生物だ。同じ生き物だとは思えないくらい、女の子というのは強くて素敵で可愛らしい。
そう、イーヴィンは男でもなく女でもない、中途半端な生き物なのだ。そんな生き物に、恋をする人なんているわけがない。
ゲームの設定で用意されていた婿候補が、相次いで居なくなったのだってそのせいだーーと未来を憂うあまり、彼女は卑屈になっていた。
イーヴィンは、可愛い。中途半端なんかじゃない。
毎日シルキーがせっせと世話をした甲斐もあり、島に来た当初よりも随分と毛艶がーー見た目は良くなった。
気持ちの面だって、成長している。
女性としての意識は、急成長していると言っても良いだろう。
異性と意識せずに抱きついていたのも、最近はなくなった。
それに、シルキーにキスされるかもと彼を意識していたのが、何よりの証拠だ。彼を男性として意識して、恋する乙女のように胸を高鳴らせていたのだから。彼女はそれを、すっかり忘れている。
(私がもう少しでも女らしかったら、何か違ったのかな……)
考え込むイーヴィンの隣で、赤らんだ顔を冷ますようにパタパタと手で仰ぎながら、モアは思った。
果たしてシルキーとイーヴィンの気持ちが伝わることはあるのだろうか、と。
イーヴィンがもう少しでも器用だったら、シルキーの本音に気付いたかもしれない。
けれど、シルキーはそんな不器用な彼女だから放っておけないのだ。兄にしては少々近い場所を陣取って、彼女の世話をすることは、彼にとって至福なのである。
「なにかキッカケがあれば良いのだけれど」
どう見たって共依存している二人が、この先離れられるとは思えない。
それならくっついちゃえば良いと思うが、そうもいかないらしい。
「とはいえ、人の恋路に手を出すのはあまり良くないわよね」
どうしましょうと小首を傾げているモアだって、ファーガルとどう距離を詰めていくかを考えるので精一杯である。
「それでは、誓いのキスを」
牧師に促され、新郎新婦の距離が縮まる。
幸せいっぱいの二人に拍手を送りながら、イーヴィンはどこか浮かない様子だった。
「イーヴィン?式、終わったよ?次、移動だって。教会の前でブーケトスするから、張り切って取りに行かなくちゃ」
「え?あ、うん」
ぼんやりと考え込んでいる間に、ローナンとリサの結婚式は終わっていたらしい。
イーヴィンはモアに手を引かれるまま、教会の外に連れ出された。
ブーケトスは、群がる娘たちを押し退けて、モアが勝利した。
ブーケを抱いて嬉しそうに微笑むモアを、参列していたファーガルが険しい顔をして見つめていたが、それに気付いたのは彼の隣にいたリアンだけだった。
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