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四章 一年目はるの月

40 はるの月14日、感謝祭④

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 プティメルバファミリーのドン・ファーガルが小間使いのリアン少年に指示をしているシーンを妄想しながら、イーヴィンは怪しい建物の扉についたドアノッカーを叩いた。

「はいはーい」

 軽い口調で出てきたのは、家主であるリアンだ。
 愛嬌のある顔立ちは、無邪気な子犬を連想させる。
 クリクリとした目を不思議そうに見開いて、彼はイーヴィンを見た。

「あれ?イーヴィンじゃん。どうした?うちに来るの、初めてだよな。嬉しいけど」

「今日は感謝祭でしょ?だから、お菓子を配っているの。あと、ファーガルの家に行ったら南の牧場にいるって張り紙がしてあったんだけど、今いる?」

「あぁ、いるよ。おい、ファーガルー!イーヴィンがお前に感謝祭のお菓子持ってきてくれたって!」

 振り返ったリアンにつられるように、イーヴィンは倉庫のような彼の家の中を見た。
 外見はアレだが、中身は意外にもきちんとしているらしい。

 ビンテージものらしい家具と無骨なレンガの壁が、妙にしっくりしていた。
 こんなテイストの部屋をなんて言うんだっけとイーヴィンが思い出していると、ソファの陰からひょこりと少女がこちらを窺っているのを見つける。

「あの子は……」

「あぁ、ソファの後ろにいるヤツ?あいつはブラウニー。お前ん家のシルキーみたいに家事をやってくれる妖精だよ」

「ブラウニー……?」

 イーヴィンの知るブラウニーは、茶色のボロを着たヒゲも髪も伸ばし放題の小人だ。
 けれど、ソファの後ろにいる彼女は、髪こそ伸ばし放題だがヒゲはないし、なにより小人でもなかった。
 小柄なイーヴィンと同じくらいの背をした、茶色の質素なワンピースを着た少女に見える。

「そう、茶色い奴ブラウニー。なんか気付いたら背ぇ伸びてたけど、ブラウニーなんだよ、あいつ」

 イーヴィンの家と同様、リアンの家にも家事をする妖精がいたらしい。
 愛想笑いを浮かべてブラウニーに手を振ると、彼女はサッとソファの後ろへ隠れてしまった。

「ごめんなー。あいつ、人見知りなんだよ。お前んとこのシルキーも人見知りか?お月見泥棒の時、めっちゃ睨んできたけど、あれって怖かったんかな?」

「シルキーは人見知りじゃないと思うけど……うーん、どうだろう?」

「いや、オレが聞いてんだけど。まぁ、いいや。それにしても、ファーガル来ないな。おい、ファーガルー!イーヴィンが用事あるって来てるぞー!」

 リアンが叫ぶと、イーヴィンの後ろから「ここにいる」と声がした。
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