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三章 一年目ふゆの月

31 ふゆの月30日、星まつり①

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「ふわぁぁ……」

 聖夜祭は、夜遅くに開催される。
 普段ならば、ふかふかのお布団にくるまってムニャムニャと夢の世界に旅立った後の時間。早寝早起きが習慣のイーヴィンは、眠くて仕方がないらしい。

 欠伸がひっきりなしに出るし、睡魔はすぐそばで待機しているのか、その足取りは酔っ払いみたいに覚束ない。

 庭に出した椅子に座らせても、シルキーの心配は尽きなかった。
 悪戯好きの妖精が、何度も彼女に鱗粉を落として浮かせて遊んでいるのを見て、シルキーは慌てて粉を振り払う。

「眠ぅ……ねぇ、シルキー。夜明けまで起きていられる気がしにゃい……ふあぁぁ」

 眠すぎて呂律も回らないイーヴィンに、シルキーは困ったように眉を下げながらも、どこか嬉しそうだった。
 眠気覚ましの熱いたんぽぽ茶を淹れながら、口元には「仕方がないなぁ」と言いたげな、兄が妹を見るような慈愛に満ちた笑みが浮かんでいる。

 今日のイーヴィンは、シルキーとお揃いの絹のワンピースを着ている。裾や袖にはレースが飾られ、ワンピースというよりドレスに近い。

 お揃いというよりかなりアレンジがされているのだが、遠目からは姉妹のように見えるから不思議だ。目くらましの魔法を付与した、シルキー渾身の作品である。

 目くらましの魔法を付与したのは、妖精たちが彼女を森へ連れて行ってしまう恐れがあるからだ。
 異世界からの転生者である彼女は、妖精からすると愛さずにはいられない、ちょっかいを出さずにはいられない存在である。

 シルキーが初対面の彼女を易々と招き入れたのだって、それが一因だった。

 彼女が自覚しているかは分からないが、妖精たちは彼女が異世界からの転生者だと知っている。

 この世界の妖精は、他の世界から転生してきた者を愛さずにはいられない。
 珍しいものが好きだということもあるが、なによりもその魂が好ましい。この世界に染まりきっていない曖昧さが、面白くて仕方がないのだ。

 更に彼女は、泉の女神からもやたらと加護を受けていて、妖精たちの注目の的だった。

 飲みかけのたんぽぽ茶を持ったまま、とうとう寝入ってしまったイーヴィンの周囲を、小さな妖精が入れ替わり立ち替わりフワフワと飛んでいる。
 零さないようにカップを避難させながら、飛び交う小さな妖精に「イーヴィンを起こさないように」と注意する。キィキィ言いながらも騒ぎ立てるのをやめた妖精たちを眺めながら、シルキーは彼女の寝顔を見守った。

 妖精たちは女神の加護に負けてたまるかと、彼女の前に出現しては祝福のキスを贈る。
 今夜は妖精に感謝する夜だというのに、まるで妖精が彼女を祝福する夜のようだ。
 もしかしたら、森に棲む妖精全員が来ているのではないだろうか。それくらい、妖精が多い。

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