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二章 一年目あきの月
21 あきの月30日、お月見泥棒①
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Aランクのホウレンソウとサツマイモ、それからニンジンを売ったら、あっという間にニワトリ小屋の資金は溜まったーーなんてことにはならなかった。
時折感じるチートさを微妙に思いながら、それでもイーヴィンは毎日畑に出向いては水をやり、笑顔で声をかけ、収穫しては新たな種を蒔く。
あきの月の最終日。
ザクザクと音を立てる革袋を抱きしめて、イーヴィンはニンマリ笑みを浮かべていた。
ようやくニワトリ小屋とニワトリ一羽を買えるくらいのお金が貯まったのだ、笑わずにはいられない。
餌代まで稼げなかったのは残念だけど、初心者がひと月で稼いだ額にしてはだいぶ多いと言える。
ふゆの月はほとんど収入がなくなるが、餌代くらいは貯まるだろう。
(はるの月にはニワトリの飼育が出来そうだなぁ)
守銭奴みたいに革袋を抱きしめて離さないイーヴィンを困ったように見つめながら、シルキーはキッチンでせっせと菓子を焼き続けた。
物言いたげに見つめてくる彼に、イーヴィンは取り繕うように笑みを浮かべて誤魔化す。それからいそいそと手にしていたお金をしまってくると、ダイニングテーブルに並べられた、たくさんの焼き菓子をラッピングし始めた。
あきの月最終日である今夜は、『お月見泥棒』というイベントがある。これは、その準備だった。
『お月見泥棒』とは、少々物騒な名前だ。
もとはお月見をする日だったらしいそれが、どうしてお月見泥棒になったのか。
それには、こんな昔話が関係している。
むかしむかし、この島にはしつけの厳しい家があった。しつけと称して、食事を抜くことさえあったと言う。
食うに困ったその家の子供は、とうとう盗人になることを決意する。
その日は、まあるい月が空にぽっかりと浮かぶ、お月見の日だった。
村人たちが月見の宴をする最中、子供はついに食べ物を手に入れる。けれど、それは暗黙の了解のことだった。
人々はそうして親の目をかいくぐり、腹を空かせた子供に食事を分け与えたのであるーーという、昔話からきているらしい。
祭りの内容は前世でいうハロウィンと似ている。
仮装をして、食べ物を強請るのである。
違うのは、その格好だ。ハロウィンはお化けの格好をするのに対し、このイベントでは泥棒の格好をする。目出し帽だったり、ほっかぶりだったり、思い思いに泥棒の仮装をするのである。
因みにイーヴィンは、シルキーが用意した彼とお揃いの怪盗の仮装をしている。今は外しているが、羽飾りのついた仮面舞踏会に使用するような仮面をつけたら完成だ。
女怪盗と言えばナイスバディなお姉さまを想像するイーヴィンは、自分がそうでないことが残念でならなかった。
シルキーは普段から家事使用人のような服装をしているせいか、仰々しい怪盗の姿も違和感がない。お祭りの時間になったら、モノクルをつけるらしい。
菓子を詰め込んだ袋を木箱にまとめ終わった頃、タマゴのような白い月がぽっかりと夜空に浮かんだ。
イーヴィンは仮面を、シルキーはモノクルをつけて、玄関で泥棒を待ち構える。
時折感じるチートさを微妙に思いながら、それでもイーヴィンは毎日畑に出向いては水をやり、笑顔で声をかけ、収穫しては新たな種を蒔く。
あきの月の最終日。
ザクザクと音を立てる革袋を抱きしめて、イーヴィンはニンマリ笑みを浮かべていた。
ようやくニワトリ小屋とニワトリ一羽を買えるくらいのお金が貯まったのだ、笑わずにはいられない。
餌代まで稼げなかったのは残念だけど、初心者がひと月で稼いだ額にしてはだいぶ多いと言える。
ふゆの月はほとんど収入がなくなるが、餌代くらいは貯まるだろう。
(はるの月にはニワトリの飼育が出来そうだなぁ)
守銭奴みたいに革袋を抱きしめて離さないイーヴィンを困ったように見つめながら、シルキーはキッチンでせっせと菓子を焼き続けた。
物言いたげに見つめてくる彼に、イーヴィンは取り繕うように笑みを浮かべて誤魔化す。それからいそいそと手にしていたお金をしまってくると、ダイニングテーブルに並べられた、たくさんの焼き菓子をラッピングし始めた。
あきの月最終日である今夜は、『お月見泥棒』というイベントがある。これは、その準備だった。
『お月見泥棒』とは、少々物騒な名前だ。
もとはお月見をする日だったらしいそれが、どうしてお月見泥棒になったのか。
それには、こんな昔話が関係している。
むかしむかし、この島にはしつけの厳しい家があった。しつけと称して、食事を抜くことさえあったと言う。
食うに困ったその家の子供は、とうとう盗人になることを決意する。
その日は、まあるい月が空にぽっかりと浮かぶ、お月見の日だった。
村人たちが月見の宴をする最中、子供はついに食べ物を手に入れる。けれど、それは暗黙の了解のことだった。
人々はそうして親の目をかいくぐり、腹を空かせた子供に食事を分け与えたのであるーーという、昔話からきているらしい。
祭りの内容は前世でいうハロウィンと似ている。
仮装をして、食べ物を強請るのである。
違うのは、その格好だ。ハロウィンはお化けの格好をするのに対し、このイベントでは泥棒の格好をする。目出し帽だったり、ほっかぶりだったり、思い思いに泥棒の仮装をするのである。
因みにイーヴィンは、シルキーが用意した彼とお揃いの怪盗の仮装をしている。今は外しているが、羽飾りのついた仮面舞踏会に使用するような仮面をつけたら完成だ。
女怪盗と言えばナイスバディなお姉さまを想像するイーヴィンは、自分がそうでないことが残念でならなかった。
シルキーは普段から家事使用人のような服装をしているせいか、仰々しい怪盗の姿も違和感がない。お祭りの時間になったら、モノクルをつけるらしい。
菓子を詰め込んだ袋を木箱にまとめ終わった頃、タマゴのような白い月がぽっかりと夜空に浮かんだ。
イーヴィンは仮面を、シルキーはモノクルをつけて、玄関で泥棒を待ち構える。
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