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一章 一年目なつの月
05 なつの月9日、シルキーの同居人③
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慌てて追いかけるも、既に廊下にシルキーの姿はない。
どうしたものかと彼女が戸惑っている間に素早く戻ってきたシルキーは、ニコニコと笑いながら椅子を引いてイーヴィンへ座るように促してきた。
キュルキュルと空腹を訴えるお腹に逆らえず、イーヴィンは促されるままに椅子に腰を下ろす。
期待するような灰紫の目に見つめられながら、イーヴィンは紅茶に口をつけた。
熱すぎずぬるすぎないそれは、夏の日差しの下を歩いてきたイーヴィンの、乾いた喉を潤してくれる。
添えられたクッキーは、口に入れるとほろほろと崩れた。レモンピールも入っているのか、すっきりとした後味は夏にぴったりである。
「おいしい……」
ほっぺたが落ちそうなくらい、クッキーはおいしい。落ちないように片方の頰を手で覆ったイーヴィンへ、シルキーは「もっとどうぞ」と言いたげにクッキーの入った瓶を差し出してきた。
お腹が減っていたイーヴィンは、それを受け取ると嬉しそうに瓶の蓋を開ける。
もぐもぐとリスのようにクッキーを食べるイーヴィンを微笑ましく見つめながら、シルキーは彼女が座る席の向かいの席へ座った。
お行儀よく座りながらニコニコとしているシルキーは、どう見ても歓迎している様子だ。
イーヴィンを追い出そうとしているようには、思えない。
ゴクンと紅茶を最後まで飲み干したイーヴィンは、「ご馳走様でした」と丁寧にシルキーへ頭を下げた。「どういたしまして」と言うように、シルキーも会釈を返してくれる。
和やかな雰囲気が、二人の間に流れていた。
「えっと、はじめまして。私は、イーヴィンって言います。ここの家主だったおじ様……アーサーの姪です」
イーヴィンの自己紹介に、シルキーは相変わらずニコニコしたままコクリと頷いた。
「おじ様は、長年の夢だった世界旅行へ行ける目処が立って、ここを私に譲りたいと言ってくれたの。ねぇ、シルキー。私が、ここに住んでも良い?」
イーヴィンの問いかけに、シルキーはコクコクと頷いた。
どうやら答えは「イエス」らしいと、彼女はほっとした様子で椅子の背にもたれた。
「あぁ、良かった。ここがダメって言われたら、お母さんにどこへ行かされるか心配だったの。知らない男の人のところへ嫁げって言われたら、どうしようって。でも、ここであなたと一緒に暮らせるなら、その心配もしばらくはいらないわ。シルキー、ありがとう!」
イーヴィンの言葉に、シルキーは少し戸惑ったような顔をした。
何かを問うようにコテンと小首を傾げて、自分のことを指差して訴える。
「え、どうしたの?」
何を言いたいのか探るように見つめるイーヴィンに、シルキーは再び自分を指差して、それからイーヴィンを指差して、「違う」と言うように指でバツを作った。
シルキーとイーヴィンは違う。
それは、どういう意味だろうと考えて、イーヴィンはポンと手を叩いた。
「もしかして、シルキーは私とは違うって言いたいの?」
コクコクとシルキーは頷いた。
「なぁんだ、そんなこと。私はこの家にシルキーがいるって聞いていたから大丈夫だよ」
イーヴィンの答えに少しは納得したようなシルキーだったが、それだけではないと首を振る。
「えっと、それだけじゃないの?うーん……何が違う?妖精ってことじゃないなら……あ!もしかして、性別?あなたは、男だって言いたいの?」
ようやく通じたことが嬉しいのか、シルキーはにっこりと笑顔を見せた。
そんなシルキーに笑い返しながら、イーヴィンは「大丈夫」と言う。
「私、弟が五人もいるの。だから、あなたと一緒に暮らすのも平気。むしろ、あなたで良かったって思う。貴婦人みたいに綺麗な女の人と一緒に暮らすより、ずっと良いわ」
知らない男の人に嫁ぐのが嫌だと言ったから、彼は困惑したのだろう。
イーヴィンの答えにホッとしたように微笑むシルキーに、彼女も同じような微笑みを返した。
どうしたものかと彼女が戸惑っている間に素早く戻ってきたシルキーは、ニコニコと笑いながら椅子を引いてイーヴィンへ座るように促してきた。
キュルキュルと空腹を訴えるお腹に逆らえず、イーヴィンは促されるままに椅子に腰を下ろす。
期待するような灰紫の目に見つめられながら、イーヴィンは紅茶に口をつけた。
熱すぎずぬるすぎないそれは、夏の日差しの下を歩いてきたイーヴィンの、乾いた喉を潤してくれる。
添えられたクッキーは、口に入れるとほろほろと崩れた。レモンピールも入っているのか、すっきりとした後味は夏にぴったりである。
「おいしい……」
ほっぺたが落ちそうなくらい、クッキーはおいしい。落ちないように片方の頰を手で覆ったイーヴィンへ、シルキーは「もっとどうぞ」と言いたげにクッキーの入った瓶を差し出してきた。
お腹が減っていたイーヴィンは、それを受け取ると嬉しそうに瓶の蓋を開ける。
もぐもぐとリスのようにクッキーを食べるイーヴィンを微笑ましく見つめながら、シルキーは彼女が座る席の向かいの席へ座った。
お行儀よく座りながらニコニコとしているシルキーは、どう見ても歓迎している様子だ。
イーヴィンを追い出そうとしているようには、思えない。
ゴクンと紅茶を最後まで飲み干したイーヴィンは、「ご馳走様でした」と丁寧にシルキーへ頭を下げた。「どういたしまして」と言うように、シルキーも会釈を返してくれる。
和やかな雰囲気が、二人の間に流れていた。
「えっと、はじめまして。私は、イーヴィンって言います。ここの家主だったおじ様……アーサーの姪です」
イーヴィンの自己紹介に、シルキーは相変わらずニコニコしたままコクリと頷いた。
「おじ様は、長年の夢だった世界旅行へ行ける目処が立って、ここを私に譲りたいと言ってくれたの。ねぇ、シルキー。私が、ここに住んでも良い?」
イーヴィンの問いかけに、シルキーはコクコクと頷いた。
どうやら答えは「イエス」らしいと、彼女はほっとした様子で椅子の背にもたれた。
「あぁ、良かった。ここがダメって言われたら、お母さんにどこへ行かされるか心配だったの。知らない男の人のところへ嫁げって言われたら、どうしようって。でも、ここであなたと一緒に暮らせるなら、その心配もしばらくはいらないわ。シルキー、ありがとう!」
イーヴィンの言葉に、シルキーは少し戸惑ったような顔をした。
何かを問うようにコテンと小首を傾げて、自分のことを指差して訴える。
「え、どうしたの?」
何を言いたいのか探るように見つめるイーヴィンに、シルキーは再び自分を指差して、それからイーヴィンを指差して、「違う」と言うように指でバツを作った。
シルキーとイーヴィンは違う。
それは、どういう意味だろうと考えて、イーヴィンはポンと手を叩いた。
「もしかして、シルキーは私とは違うって言いたいの?」
コクコクとシルキーは頷いた。
「なぁんだ、そんなこと。私はこの家にシルキーがいるって聞いていたから大丈夫だよ」
イーヴィンの答えに少しは納得したようなシルキーだったが、それだけではないと首を振る。
「えっと、それだけじゃないの?うーん……何が違う?妖精ってことじゃないなら……あ!もしかして、性別?あなたは、男だって言いたいの?」
ようやく通じたことが嬉しいのか、シルキーはにっこりと笑顔を見せた。
そんなシルキーに笑い返しながら、イーヴィンは「大丈夫」と言う。
「私、弟が五人もいるの。だから、あなたと一緒に暮らすのも平気。むしろ、あなたで良かったって思う。貴婦人みたいに綺麗な女の人と一緒に暮らすより、ずっと良いわ」
知らない男の人に嫁ぐのが嫌だと言ったから、彼は困惑したのだろう。
イーヴィンの答えにホッとしたように微笑むシルキーに、彼女も同じような微笑みを返した。
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