上 下
42 / 94
三章

42 特別のはなし

しおりを挟む
 エディの努力は、トルトルニアの人々にとっては当たり前のことだった。

 そして、彼女の両親からしてみたら、その努力は不必要なものだった。

(こんな特別、ある?)

 誰にも褒めてもらえなかったのに、ロキースだけが褒めてくれた。

(これって、僕が求めていたものじゃないの?)

 王子様じゃなくていい。庭師とか、門番とか、村人Aだって構わない。誰か一人の特別になれたら、それは幸せなことだろう。

 どうやったら、そんな存在になれるのだろうと思っていた。

 守りたくなるような、か弱い女の子?

 眉目秀麗な、気品のある女の子?

 それとも、才色兼備な女の子?

 降って湧いたようなロキースという存在に、エディは今更ながらに困惑した。

(どうして、この人は僕に恋をしてくれたのだろう?)

 話を聞く限り、少なくとも五年前には既にエディが好きだったようだ。

 だって彼は、『好きな子が傷付く姿は見ていて気持ちがいいものじゃない』と言っていた。

(じゃあ、一体、いつから好きだったっていうの……?)

 いつ?

 どこで?

 どのように?

 エディの頭は、疑問でいっぱいだ。

 だって、お伽噺のお姫様には、必ず好かれる要因がある。

 薔薇色の唇だとか、魅惑の声だとか、小鳥さえ味方する健気さとか。

 エディのどこに、惹かれるものがあったのだろう。

「エディ?」

 熱心に考え事をしていたら、知らずロキースを見つめていたらしい。

 おずおずと「どうした?」と問いかけてくるロキースに、エディはなんでもないと顔を背けた。

 恋なんて、ずっとずっと先のことだと思っていた。

 あと一年で十六歳。そうしたら結婚出来る年齢になるけれど、やっぱりそれも、ずっと先だと思っていた。

(あぁ、もう、どうしよう)

 エディはもう、好きになっちゃいそう、なんて言えなかった。

 なっちゃいそう、なんてものじゃない。

 こんな特別扱いを受けて、好きにならないなんてことがあるだろうか。

(あるわけない)

 少なくともエディは、ロキースのその気持ちが嬉しくてたまらなかった。

(これは、好き……なんだろうな)

 心に宿ったこの気持ちが、どういう意味の好きなのかはまだ分からない。

 友愛のようでもあるし、限りなく恋に近いような気もする。

(友情と恋の線引きは、どこにあるんだ?)

 お伽噺に、そんなことは書いていない。

 王子様はお姫様に恋をして、めでたしめでたしなのだから。

(さぁ、どうしたものか……)

 森守の仕事は大事だ。

 だけど、そのために、ロキースを遠ざけることはしたくない。

 エディはギュッと拳を握った。

(両立できる方法は、あるはずだ)

 覚悟を決めて、ロキースを見る。

 甘そうな蜂蜜色の目が、甘ったるい視線をエディに向けていた。

(こんなに、甘かった……?)

 エディの感じ方が変わったのか。

 それとも、ロキースの視線に変化があったのか。

 どちらのせいかは分からない。

 エディは、むせ返りそうなくらい甘い視線に耐えかねたのを誤魔化すように、ティーカップへ手を伸ばした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫
恋愛
クリスティーナはある日、自由を許されていない女性であることに嫌気が差し、兄の服を借りて、家を飛び出す。そこで出会った男の子と仲良くなるが、実は男の子の正体はこの国の王太子だった。王太子もまた決められた将来の道に、反発していた。彼と意気投合したクリスティーナは女性であることを隠し、王太子の従者になる決意をする。 すれ違い、両片思い、じれじれが好きな方は、ぜひ読んでみてください! 最後は甘々になる予定です。 10歳から始まりますが、最終的には18歳まで描きます。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

背高王女と偏頭痛皇子〜人質の王女ですが、男に間違えられて働かされてます〜

二階堂吉乃
恋愛
辺境の小国から人質の王女が帝国へと送られる。マリオン・クレイプ、25歳。高身長で結婚相手が見つからず、あまりにもドレスが似合わないため常に男物を着ていた。だが帝国に着いて早々、世話役のモロゾフ伯爵が倒れてしまう。代理のモック男爵は帝国語ができないマリオンを王子だと勘違いして、皇宮の外れの小屋に置いていく。マリオンは生きるために仕方なく働き始める。やがてヴィクター皇子の目に止まったマリオンは皇太子宮のドアマンになる。皇子の頭痛を癒したことからマリオンは寵臣となるが、様々な苦難が降りかかる。基本泣いてばかりの弱々ヒロインがやっとのことで大好きなヴィクター殿下と結ばれる甘いお話。全27話。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

私、この人タイプです!!

key
恋愛
美醜逆転物です。 狼獣人ラナン×自分の容姿に自信のない子キィラ 完結しました。感想やリクエスト、誤字脱字の指摘お待ちしています。 ここのページまでたどり着いてくださりありがとうございます。読んで頂けたら嬉しいです!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...