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三章
35 男装少女の女装
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(うぅぅ……恥ずかしいぃぃ)
真紅のロングケープのフードを目深に被り、エディは顔を真っ赤に染めていた。
だって、それもそのはず。数年ぶりの女装は、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
ロングケープと同じ真紅の短めのドレスは、ない胸を隠すように黒いリボンが編み上げられている。キュッと引き締まった細い腰には、真っ白なエプロン。トドメとばかりにしなやかな足を強調するような黒の長い靴下を穿かされて、鏡で見た瞬間に気を失うかと思った。
気合いで失神だけはしなかったが、「良い出来です!」と喜ぶミハウの世話係・エグレの目を掻い潜って、ペチパンツを履くことに成功したことだけは褒めて然るべきだろう。
(グッジョブ、僕! しかし、このペチパンツも罠だったに違いない……だって、こんなレースヒラヒラのやつ、僕は持っていなかった……!)
エディは心の中で、ガックリと四つん這いで項垂れた。
ふんわりヒラヒラしたボリュームのあるペチパンツは、ドレスの裾を広げて可愛らしさが助長されている気がしてならない。
まさかそれで更に腰の細さが強調されて、ロキースの庇護欲に火をつけているなんて知らないエディは、久々の女装にただただ恥ずかしいと身を縮こませた。
さすがエグレと、言わざるを得ない。
長年、あの面倒な弟の世話をしているだけはある。
エディがどんな行動をするかなんて、ミハウから散々聞かされていたのだろう。
(僕なんかよりもずっと、ミハウのことをよく分かっていらっしゃる)
応接間に入っていった時の、喜色満面な笑みときたら。
(気持ち悪いったらない)
ミハウは、女の子の格好をしたエディが大好きなのだ。
幼い頃、彼を助けたのが女の子だったから。
だから彼は、女の子のエディを神聖化していて、殊更大事に思っている、のだと思う。
そのことを、エグレはよく分かっているのだろう。
着替えてから何枚か撮られた写真は、きっとミハウとの交渉材料にされるのだ。
ミハウのデレデレとした顔を思い出して、エディはチッと舌打ちした。
途端、ビクリと揺らいだ右手に、彼女は「ごめん」と呟いて右を見上げる。
「俺は、なにかしてしまっただろうか?」
「違うよ。ミハウに怒っただけ」
不安そうな声に、罪悪感が募る。
どうにも、この大きな男の人は優しすぎる。
エディのどんな些細なことも拾い上げて、宝物みたいに大事にしようとしている気がするのだ。
(僕は壊れ物なんかじゃないのに)
久々に女の子扱いをされているからだろうか。
エディは気恥ずかしくなって、余っていた左手でフードをさらに下げた。
右手は現在、ロキースの大きな手が握っている。
「そうか」
安心したような声が降ってきて、エディはホッとした。
どうしてなのかはわからないけれど、ロキースが不安そうな声を出すと悲しくなるようだ。そして、嬉しそうだとエディの心もポッと明るくなる。
(変なの)
ロキースの手は、温かい。
もっと強く握ってくれてもいいのに、とエディは思ったが、言うのは恥ずかしいので黙ったままギュッと手を握り返した。
真紅のロングケープのフードを目深に被り、エディは顔を真っ赤に染めていた。
だって、それもそのはず。数年ぶりの女装は、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
ロングケープと同じ真紅の短めのドレスは、ない胸を隠すように黒いリボンが編み上げられている。キュッと引き締まった細い腰には、真っ白なエプロン。トドメとばかりにしなやかな足を強調するような黒の長い靴下を穿かされて、鏡で見た瞬間に気を失うかと思った。
気合いで失神だけはしなかったが、「良い出来です!」と喜ぶミハウの世話係・エグレの目を掻い潜って、ペチパンツを履くことに成功したことだけは褒めて然るべきだろう。
(グッジョブ、僕! しかし、このペチパンツも罠だったに違いない……だって、こんなレースヒラヒラのやつ、僕は持っていなかった……!)
エディは心の中で、ガックリと四つん這いで項垂れた。
ふんわりヒラヒラしたボリュームのあるペチパンツは、ドレスの裾を広げて可愛らしさが助長されている気がしてならない。
まさかそれで更に腰の細さが強調されて、ロキースの庇護欲に火をつけているなんて知らないエディは、久々の女装にただただ恥ずかしいと身を縮こませた。
さすがエグレと、言わざるを得ない。
長年、あの面倒な弟の世話をしているだけはある。
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(僕なんかよりもずっと、ミハウのことをよく分かっていらっしゃる)
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(気持ち悪いったらない)
ミハウは、女の子の格好をしたエディが大好きなのだ。
幼い頃、彼を助けたのが女の子だったから。
だから彼は、女の子のエディを神聖化していて、殊更大事に思っている、のだと思う。
そのことを、エグレはよく分かっているのだろう。
着替えてから何枚か撮られた写真は、きっとミハウとの交渉材料にされるのだ。
ミハウのデレデレとした顔を思い出して、エディはチッと舌打ちした。
途端、ビクリと揺らいだ右手に、彼女は「ごめん」と呟いて右を見上げる。
「俺は、なにかしてしまっただろうか?」
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右手は現在、ロキースの大きな手が握っている。
「そうか」
安心したような声が降ってきて、エディはホッとした。
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(変なの)
ロキースの手は、温かい。
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