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一章
18 昔のはなし
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「おばあちゃん。けんえん、ってなぁに?」
「倦厭っていうのはね、飽きて嫌だと思うことだよ」
「でもわたし、ゆみのおけいこ、きらぁい」
「そうだね。でも、エディタはまだ始めたばかりだもの。当たるようになったら、きっと違う世界が見えてくるよ」
エマとの優しい時間が、エディは大好きだった。
今だって、大好きだ。
(もう五年も経ってしまったけれど、会えたら、また肩を並べてお話ししたい)
優しい思い出と一緒に、村人の心無い一言も頭を過る。
「ヴィリニュスのばあちゃん、結構な歳だったし、耄碌して魔の森に入って食われちまったんじゃねぇか?」
エマは確かに高齢ではあったけれど、足腰はしっかりしていたし、弓の腕前だって一族で一番だった。
(耄碌なんて、するはずがない。おばあちゃんは、きっと何かに巻き込まれたんだ)
だけど、当時十歳の少女でしか無かったエディには、何も出来なかった。
心無い一言に、反論することも出来なかったのだ。
女の子らしくあれ。
その教えが、エディから反論のための言葉を奪ったのである。
エディは、女の子だからと他の兄弟より甘やかされて育ってきた。
いずれは誰かと結婚して、子供を生む。
だからエディは、女の子らしくあることが求められた。
(だから、私は……ううん。僕は、こんな長い髪、いらない)
エマが見つかるまで、トルトルニアの人々を守る。
そのためには、女であることなど不要だ。
覚悟の証として、彼女はまず、祖母が愛してくれたミルクティーブラウンの髪を、自ら切り落とした。
「え、エディタの髪が……!」
バッサリと髪を切り落とした酷い頭になった双子の姉を見て、病弱な弟は卒倒した。
「あーあ」
兄は呆れた顔をしていたけれど、「どうせやるなら服装も」と小さくなった服をくれた。
「エディタちゃん⁈」
「ど、どうしたのだ、その格好は!」
すっかり少年らしくなったエディタに、両親は頭を抱えた。
これでは嫁に貰ってもらえないと両親はカンカンに怒ったが、日々男らしくなっていく彼女にいつしか諦めがついたようだ。兄が結婚したせいもあるだろうけれど。
そのうちにエディはエディタと名乗ることをやめた。
代わりに、エディと名乗るようになった。
エディ・ヴィリニュス。
それが、彼女の名前ではないと知っている者は、今じゃそう多くない。
深窓の令嬢として育てられているのがエディタで、最近外に出てくるようになったのは双子の弟のエディ。そう思っている村人は大勢いる。
実際のところ、屋敷の部屋で寝ているのは双子の弟であるミハウなのだが、ちょうどいいからとエディはそのままにしていた。
この五年で弓の名手へと成長した彼女は、その容姿の可愛らしさから『小さな天使』と呼ばれている。
確実に急所を仕留める、獲物に優しい手腕からきている名前なのだが、人によっては恋のキューピッドと勘違いする者も多く、エディは傍迷惑な呼び名だと思っていた。
「倦厭っていうのはね、飽きて嫌だと思うことだよ」
「でもわたし、ゆみのおけいこ、きらぁい」
「そうだね。でも、エディタはまだ始めたばかりだもの。当たるようになったら、きっと違う世界が見えてくるよ」
エマとの優しい時間が、エディは大好きだった。
今だって、大好きだ。
(もう五年も経ってしまったけれど、会えたら、また肩を並べてお話ししたい)
優しい思い出と一緒に、村人の心無い一言も頭を過る。
「ヴィリニュスのばあちゃん、結構な歳だったし、耄碌して魔の森に入って食われちまったんじゃねぇか?」
エマは確かに高齢ではあったけれど、足腰はしっかりしていたし、弓の腕前だって一族で一番だった。
(耄碌なんて、するはずがない。おばあちゃんは、きっと何かに巻き込まれたんだ)
だけど、当時十歳の少女でしか無かったエディには、何も出来なかった。
心無い一言に、反論することも出来なかったのだ。
女の子らしくあれ。
その教えが、エディから反論のための言葉を奪ったのである。
エディは、女の子だからと他の兄弟より甘やかされて育ってきた。
いずれは誰かと結婚して、子供を生む。
だからエディは、女の子らしくあることが求められた。
(だから、私は……ううん。僕は、こんな長い髪、いらない)
エマが見つかるまで、トルトルニアの人々を守る。
そのためには、女であることなど不要だ。
覚悟の証として、彼女はまず、祖母が愛してくれたミルクティーブラウンの髪を、自ら切り落とした。
「え、エディタの髪が……!」
バッサリと髪を切り落とした酷い頭になった双子の姉を見て、病弱な弟は卒倒した。
「あーあ」
兄は呆れた顔をしていたけれど、「どうせやるなら服装も」と小さくなった服をくれた。
「エディタちゃん⁈」
「ど、どうしたのだ、その格好は!」
すっかり少年らしくなったエディタに、両親は頭を抱えた。
これでは嫁に貰ってもらえないと両親はカンカンに怒ったが、日々男らしくなっていく彼女にいつしか諦めがついたようだ。兄が結婚したせいもあるだろうけれど。
そのうちにエディはエディタと名乗ることをやめた。
代わりに、エディと名乗るようになった。
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それが、彼女の名前ではないと知っている者は、今じゃそう多くない。
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確実に急所を仕留める、獲物に優しい手腕からきている名前なのだが、人によっては恋のキューピッドと勘違いする者も多く、エディは傍迷惑な呼び名だと思っていた。
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