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九章 シュエット・ミリーレデルの恋人

117 待てができない公爵様②

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 シュエットが「さっき言っていたじゃない」と言えば、エリオットは面白くなさそうに唇を尖らせた。

 それから少し考えるようなしぐさをしたかと思うと、スタスタとシュエットのそばへ歩み寄る。

「シュエット。言って?」

 しゃがみ込んで、上目遣いで見てくるエリオットは、凶悪なくらいに美しかった。もはや、魔性と言っても過言ではない。

 これには、シュエットも沈黙した。

 ずるい、ずるい、ずるすぎる。

 これはかわいい女の子がするから言うことを聞きたくなるのであって、美貌の男がしたら声も出ない。

 いろんな意味で大ダメージを受けたシュエットは、敗残兵のようにぐったりと、頭を下げた。

 ハラリと落ちたシュエットの髪を一房救い上げ、エリオットは見せつけるようにキスを落とす。

 まるで唇にされたような錯覚に、シュエットの頬が一気に赤らんだ。

「僕のことを見る時のシュエットの目は、とろけるように甘い色をしている。その目で見つめられると、僕は幸せだなぁって思うんだ。だけど、言葉にしてもらえたら、もっと幸せになれるような気がする」

 エリオットの手が、シュエットの顎を掬う。

 言葉を促すように、長い親指が彼女の唇に触れてムニムニと押した。

 どれくらいそうしていただろうか。

 なかなか覚悟が決まらないシュエットに、エリオットは我慢の限界を迎えたらしい。

 シュエットを見るエリオットの目に、ギラギラとした光が宿る。

 思わずシュエットが後退ると、逃さないとばかりに腰をホールドされた。

「じゃ、じゃあ、一緒に言いましょう。私だけなんてずるいわ。私だって、聞きたいもの」

 慌てて提案しても、もう遅い。

 逃げたくなるような色香を撒き散らし、エリオットの顔が近づいてくる。

 待ってと言おうとした吐息ごと、唇を奪われた。

 試練の時はあんなにも紳士的だったのに、今はその片鱗へんりんさえ見当たらない。

 獲物を捕らえた猛禽類のように、エリオットは容赦なく貪ってくる。

 シュエットから甘ったるい声が漏れると、エリオットはますます遠慮がなくなった。

 くったりとした彼女の体をソファへ横たえ、快楽にとろける表情に舌舐めずりする。

「エリオット……」

(まさか、ここで?)

 期待と不安がない混ぜになる。

 興奮したエリオットが自分に何を求めているのか、わからないほど子どもではない。

(でもまだ返事もできていないのに……)

 シュエットが戸惑っていると、ガシャーン!と天井近くの窓が蹴破られた。

 呆気に取られるシュエット。そして身構えるエリオット。

 侵入者はシュエットに向かって綺麗なお辞儀をすると、今度はエリオットの方を向いてガツンと彼に蹴りを入れた。

 容赦ない蹴りに、エリオットが吹っ飛ぶ。

「きゃあああ!」

 ゴロゴロゴロと転がるエリオットを、シュエットは慌てて追いかけた。

 続いて入ってきたピピはそんな二人を見ながら、

「ようやった、ルネット!」

 と、侵入者とハイタッチしていた。
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