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六章 シュエット・ミリーレデルの秘密

84 試練〜頰か額へキス〜②

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「そういえば私は、いつからこのジンクスを気にするようになったのかしら……?」

 二人きょうだいだったのは、シュエットが七歳までだ。

 七歳の時に、二人目の妹が生まれた。

「じゃあ、七歳以降ということ?」

 父にねだってジンクスの本を買ってもらったのは、十歳の頃だったように思う。

 ならば、七歳から十歳までの間に、何かあったのだろうか。

「何か、あったかしら?」

 ささやかな、どうでもいいような思い出は容易に思い出せるのに、肝心なジンクスについての記憶はおぼろげだ。

 無理に思い出そうとすると、ズキリと頭が痛んだ。

「いた……」

 ズキン、ズキン、ズキン。

 まるで思い出すなと警告するように、頭を締め付けるような痛みに襲われる。

 シュエットは頭を抱え込んで、ベッドの上で丸くなった。

「く……ぅ……」

 息ができない。苦しい。

 もっと空気を吸わなくちゃと思うのに、ますます苦しくなっていく。

 次第に視界が白く塗りつぶされていって、シュエットは焦った。

「た……けて……」

「シュエット⁉︎」

 名前を呼ばれて、ドタバタとエリオットが走り寄ってくる。

 ハッハッと早い呼吸をする彼女に、エリオットはシュエットが過呼吸になっていることに気づいた。

「過呼吸か……シュエット、落ち着いて。ゆっくり、ゆっくり呼吸をするんだ。そう、いい子だね」

 大きな手が、シュエットの背を優しく撫でてくれる。

 不安でいっぱいだったシュエットの緊張をほどくように、その手は彼女を撫で続けた。

「わた、わたし……」

 エリオットのパジャマの胸元を握りしめて、シュエットは彼を見上げた。

 見上げた先で、一瞬だけ焦ったような表情を見せたエリオットだが、シュエットの視線を感じてすぐに穏やかな笑みを返してくれる。

「大丈夫。怖くないよ。ほら、僕の心臓の音を聞いて……ゆっくり……ゆっくり……うん、上手だよ」

 背中を撫でていた手が、呼吸をゆっくりにすると褒めるように頭を撫でてくれる。

 それがくすぐったくて、気持ち良くて。シュエットは押しつけられたエリオットの胸に耳をすませて、彼の心音を聞きながら少しずつ呼吸を遅くさせていった。

 いい子、いい子。

 そう言って、エリオットはまるで子供にするように、シュエットの額に何度もキスを贈る。

(子供扱いされている……というより、甘やかされているみたい?)

 エリオットに甘やかされるのは、とても心地良い。

 嫌だとも思わないし、恥ずかしいとも思わない。

(変なの。まるでエリオットだけが特別みたいじゃない)

 風呂上りのエリオットは温くて、シュエットの意識がトロリと溶け出していく。

 エリオットに抱きしめられたまま、シュエットはいつの間にか眠りに落ちていた。
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