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五章 シュエット・ミリーレデルの悩み

66 シュエットの悩み②

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「私も、お客様のように大人の対応ができれば良かったのだけれど……」

 自嘲するように苦く笑いながら話すシュエットに、エリオットは何も言えなかった。

 エリオットは今まで、人と距離を置いてきた。そんな自分が、何を言えるというのか。

 慰めの言葉を言おうにも、彼女が望んでいるのはそんな言葉ではない気がした。

 では、何を言えば良いのか。

 エリオットは決まり悪そうに、ソワソワした。

 嫌な沈黙が二人の間に落ちる。

 どうにかして、シュエットを元気付けてあげたい。

 しかし、エリオットにできることで彼女が喜ぶことなどあるのだろうか。

 ご飯を作る? 
 いや、それはいつものことだ。

 じゃあ、お菓子は? 
 シュエットの好きなお菓子なんて、知らない。

 ソワソワと落ち着かなげに隣で身じろぎするエリオットに、シュエットは「ふふ」と力なく笑った。

 気遣わせてしまった。

 そうとわかるくらい、シュエットの声はため息混じりだ。

 こんな時、恋愛小説に出てきたヒーローたちは、どうしていただろう。

 学生時代は毎日のように読み漁っていたというのに、エリオットは肝心な時に思い出せない。

「ごめんなさい。こんなこと言っても、困るわよね。でもちょっとだけ、ちょっとだけ、話を聞いてもらえる?」

 シュエットにそう言ってもらえて、エリオットは嬉しかった。

 頼られている。そんな、気がして。

 今までエリオットは、誰かに頼られることなど皆無だった。

 ふと、メナートの顔が脳裏を過ぎったが、エリオットは爽やかな気持ちでスルーする。

 場違いにもニマニマしそうになる頰の筋肉を叱咤しったして、エリオットはなるべく冷静に、恋愛小説に出てくるイケメンヒーローを目指して言った。

「困らない。僕で良ければ、聞かせてほしい」

「ありがとう、エリオット」

 持っていたサンドイッチをランチボックスへ戻したシュエットは、ぽつり、ぽつりと話してくれた。

 店の経営があまり良くないこと。

 シュエット一人が生きていくには十分だけれど、店がこれ以上繁盛する見込みがないこと。

 魔導式通信機が出回るようになってから、フクロウの人気が落ち込んでしまったこと。

「新しい家族が見つからないのは当然かもしれない。でもね、やっぱり大事な子たちだから、愛してくれる家族を見つけてあげたいのよ」
 
 シュエットは店内を見回した。

 彼女の言葉に答えるように、店内にいるフクロウたちが「ホゥ」と鳴く。

 まるで「自分たちのことは気にしないでよ」と言っているように、エリオットには聞こえた。
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