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四章 シュエット・ミリーレデルの新生活

61 メナートの受難③

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 いい歳して泣き喚くメナートをあっさり放置することに決めたエリオットは、早々に彼から視線を外すと、ベッドの上に私服を並べ始めた。

「メナート。女性が好む服とは、どういったものだろうか?」

 メナートは泣き喚いているというのに、エリオットはお構いなしだ。

 こういう時は空気を読んでほしいと、メナートはいつも思うのだが、彼の境遇を考えると強く言えない。

 エリオットは悩み顔だが、どこかウキウキしているようにも見えた。

 よほど、シュエット嬢がお気に召したのだろう。

 いつもやる気がなく精彩に欠ける表情を浮かべているのがデフォルトなのに、今はその面影さえない。

 暗く澱んでいた赤の目は、今やキラキラと宝石のように輝いている。

「なぁ、メナート。これとこの組み合わせは、どうだろう?」

 ふと、メナートは妹のことを思い出した。

 最近恋人ができたらしい彼女は、初めてのデートの前の日に、今のエリオットと同じような顔をしていた。

 目を輝かせ、嬉しそうに頬を染めて、夢見るように口元には笑みが浮かんでいて。今にも飛んでいってしまいそうなくらい、浮かれていた。

 メナートは「はぁ」とため息を吐いた。

 泣き喚いているのも、馬鹿馬鹿しい。

 それに、エリオットが他人に対して執着することは、悪いことではないだろう。

 小川に浮かべた笹舟のように流されるまま、そこらにある小石のように静かに息をするだけの彼に、一体何が楽しみで生きているのか不思議に思っていた。

ヴォラティル魔導書院ここ以外に執着するものができれば、少しは楽しく生きられるんじゃないですかね」

 独り言ち、メナートは立ち上がった。

 エリオットが服装について悩む日が来るとは思ってもみなかった。ましてや、メナートに相談してくるなんて。

 少しは仲間だと、友達だと認めてくれているのだろうか。

 悩むエリオットは、初めての恋に夢中になっている少年のよう。

 もともと容貌は良かったが、気持ちが変わったせいか、さらに綺麗になった。

「男相手に綺麗っていうのもおかしな話だが……事実なんだから仕方ねぇよなぁ……はぁ……すげぇな、シュエット様。たった一晩で、エリオット様を変えやがった」

 自分のことを道具だと言い切り、人生に喜びも楽しみも見いだせなかった彼を変えた、選ばれた花嫁──シュエットは、一体どんな女性なのだろうと興味がわく。

 美少女だろうか。もしかしたら、朴訥ぼくとつとした子かもしれない。

「できれば、サボり癖のあるこの人をきっちり締めてくれる人がいいなぁ」

「なにか言ったか? メナート」

「……清潔感が大事だと思いますよ、って言ったんすよ。女性は不潔な男が嫌いですから」

 いつか、会えるだろうか。

 まさかもう会っているとも知らず、メナートはベッドのそばへ歩み寄った。
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